120 貴族と対面
聖職者の神聖魔法使いが着る豪華な金縁の衣装を着た女性が、馬車から降りてきた。
地球の感覚でいくととても豪華だが、この世界では白銀の糸が最高級品なので、彼女は聖職者としての地位はそれほど高くない。
高位の聖職者は金の布地に白銀の縁取りがされた衣装という、とてもまぶしそうな身なりになるようだ。
リアムの記憶が戻った今だからわかるが、そういう面でもセーラが刺繍してくれた服は高級品すぎだった。
俺より少し年上に見える彼女が地面に降り立つと、周りにいた全員が貴族や王族に対しておこなう礼の姿勢をとった。
反射的にその姿勢を取れたことにほっとしつつさりげなくエミリーを見ると、彼女もしっかりと礼ができている。万能すぎないか?エミリーよ。
ちなみにこれは、下位貴族が上位貴族にもする礼だ。
「皆さん、ごきげんよう」
「ティアンカ様、ようこそエミジャ村へお越しくださいました。村長のリチャードでございます。長時間の移動でお疲れでございましょう。どうぞ我が家でお休みくださいませ」
「ありがとう、リチャード。そうさせてもらうわ」
神聖魔法使いの名はティアンカという。
村長は彼女を知っていたのではなく、先ほどこの挨拶のためにディデリクさんに聞いていた。
雰囲気からして、貴族の名前を把握していないのは失礼にあたるようだが、リアムの知識にそれがないとはどういうことだ、英雄さんよ……。
ディデリクさんの子供たちには先に屋敷へ行ってもらって、俺たちも村長の家へと入った。
応接室でお茶が出され、ティアンカさんはそれを飲んで一息つくと、俺とエミリーに視線を向けた。
「貴方たちが、ワイバーンの群れを率先して退治してくれたのですってね。貴族を代表して私からもお礼を言わせてちょうだい。本当にありがとう。おかげでイーサ町の被害は少なく済んだわ」
ディデリクさんの手紙によると、俺たちが先導し冒険者全員でワイバーンを倒したことにしたそうだ。
ファイアドラゴンについては伏せてあり、ワイバーンもドラゴンなので混同している者もいるでしょうと押し切ったらしい。
それで納得してくれたとは、ティアンカさんは襲撃イベントについての知識はあまりないようだ。
「俺たちなんて、さほど役には立っていませんよ。冒険者全員で挑んだからこその勝利だと思っています」
「まぁ、ご謙遜を。町でも噂になっていたわ。特に、セシリア様に似ていらっしゃるという聖女様。貴女がその聖女様ね」
ティアンカさんはそう言いながらエミリーに視線を向けたが、あまり似ているとは思っていないような表情だ。
「ふふ、王女様に似ているだなんて恐れおおいですわ。ティアンカ様から見て似ていると思われますか?」
「そうね……、目元が似ているかしら。貴女のほうが、はつらつとして見えるわ」
ふくよかをはつらつと表現するとは。貴族女性もなかなかやるな。
「それから、能力も素晴らしかったと聞くわ。なんでも、貴女一人で町中の人の怪我を治したとか」
「まぁ!そのような噂に?王女様に似ているからっておおげさですわ。お恥ずかしいことに、ヒールをしすぎて一ヶ月も寝込んでしまいましたの」
「それは大変!お加減はもうよろしいの?」
「えぇ、おかげさまで。ただ、魔法はしばらく控えるように医師から言われてしまいましたわ」
「魔法は繊細ですもの。無理は禁物よ」
フィールドヒールからの昏睡状態を、ヒールの使い過ぎで寝込んだだけとさらりと言いのけ、実際に見てみたいと言わせないために魔法を禁止されていると付け加えるとは……。
これはエミリーが考えたのか、それともセーラの入れ知恵か。
どちらにせよ、セーラについての疑念は取り払うことができたようだ。
納得した様子のティアンカさんは、次に俺に視線を向けた。
「それにしても貴方、リアム様に似ているわね」
「そうなんですか?英雄に似ているなんて光栄だなー」
まさかの直球に、内心焦りながらも呑気に笑ってみせる。
「とても似ているけれど、瞳が違うわね。彼は片目のリアムとしても有名でしょう?」
「俺、田舎者なんでそこまではちょっと……」
リアムの記憶にはないが、彼は興味がなかったのか。それとも目については耳を塞ぎたかったのか。
後者なような気もする。
「王都は遠いものね。それに、彼が貴方なら私に礼などしないわ。リアム様ったら、私のほうが上位の時でさえそうだったのだから……。貴方のほうがよほど礼儀正しいわ」
けなされているのか褒められているのか、よくわからん状況だな……。
どうやらリアムとティアンカさんは面識があるようだが、安定のモブ扱いされていたようだ。申し訳ない……。
とりあえずティアンカさんから、俺がリアム説も消えたようで安心した。
納税は現金でおこなう。
農村は現物での納税が一般的だが、この村は先祖代々接客業を生業にしてきたため、昔から現金で納税しているようだ。
ディデリクさんからは、村の移住者受け入れを引き受けたことに対してとても感謝され、村長は恐縮していた。
彼の領地は点在している小さな村が多く、管理が大変なようだ。
納税が終わった後は、結界をかける範囲の話し合いだ。
村長はテーブルにこの村周辺の地図を広げた。
「住民も増えますし来年はこちらを畑、こちらを放牧地として開墾させていただきたいのですが」
大規模に開墾する場合は結界の関係もあるので、領主の許可が必要らしい。
事前に村人たちで話し合い、二ヶ所の開墾を願い出ようと決まった。
村長が印をつけた範囲を示すと、ディデリクさんはこころよく了承してくれた。
「ティアンカ様、この村はこれから発展の可能性がありますので、結界を広めにお願いいたします」
「あら、気前がよろしいこと。その分の寄付はしっかりいただくわよ?」
「はい、承知しております」
ディデリクさんは苦笑した。
どうやら結界をかけてもらうには教会に寄付が必要なようだ。




