118 手紙の内容
屋敷へ戻って食事を終えたあと、広間で手紙を回し読みした。
「驚きましたね。全員で移住したいとは……」
洋介はセバスの手紙をもう一度、読みながらそう言った。
手紙によると、移住予定者三名の故郷の村はエミジャ村と同じような規模のようで、近くにダンジョンもないため閉村を求められていたようだ。
イーサ町に住むお金もないし、受け入れてくれるほかの村もなく困っていたようだ。
「ナッシュさんは賛成しているようだな。彼がうまくやっていけると思っているなら、人格に問題はなさそうだ」
「そうですね、彼は人をまとめるのもうまいですが、人の性格を把握するのもうまいです。問題あるなら賛成はしないでしょう。それに、ディデリク殿も推薦しているとなると、断れないですよね」
「だよな。明日の朝、村長には伝えるとして了承の手紙は今日中に書いておくよ」
あちらの村長にお願いされ、セバスがディデリクさんと交渉したようだ。
受け入れる代わりに、今年の移住者分の税金は免除してくれるらしい。
セバスは人間としては頼りないが、執事としてはとても頼りになるようだ。
「こちらは、どうしたら良いかしら……」
セーラはディデリクさんの手紙を持ちながら困ったように眉をさげた。
ディデリクさんの手紙には、移住の推薦とセーラについて書かれていた。
徴税員と神聖魔法使いは俺たちが村へ帰ってすぐにやってきたようだが、どうやらセーラの噂を聞きつけたらしい。
神聖魔法使いは村に来た際、王女似の聖女に会うのを楽しみにしているようだ。
「あれだけ人口がいると、どこかから漏れてしまうのは仕方がないですね……」
「帰るまで隠れているのは無理なようだな……」
「理由をつけて会わせないと逆に怪しまれそうですし、どうしましょうか」
「セーラに会わせつつ、王女とバレないようにか……難しいな」
改めてセーラを見てみると、彼女の横に座っているエミリーが目に入った。
お菓子を禁止されている彼女は、レモンティーを飲んでいる。
全く関係ないが俺の飲み物はビールだ。
「エミリーにセーラのフリをしてもらうのはどうだ?」
「それは良い考えかもしれません!姉上に似ていて、少し違う。エミリー嬢以外に適役はいませんね!」
「まぁ!わたくしがセーラ様に?」
「頼めるか?エミリー」
「もちろんでございます!セーラ様に見えるよう練習をしなくては。ふふ」
エミリーは立ち上がると、俺の隣に座った。
そして、なぜか俺の腕に絡みついてきた。
「なっ……なにをするんだ?エミリー」
「カイト、おつまみどうぞ」
セーラそっくりの表情――ふくよかバージョンで微笑んだエミリーは、俺が作った激辛ラスクを俺の口にねじ込んだ。
「むぐっ!……強引だな、エミリーは」
「ふふ、お味はどうかしら?」
「まぁ、普通に美味いが」
そんなやり取りをしていると、セーラも俺の横に移動してきた。
どうしたのかと思えば、彼女の頬はぷっくり膨らんでいる。
「カイトぉ……、私もおつまみを食べさせたいわ……」
そう言いながらセーラも俺の腕に絡みついてきた。
――ちょっ……セーラさん!まさかのヤキモチですか!?
「おっ……、お願いします……」
まさかの展開に、一気にアルコールが回るのを感じながら待っていると、セーラはやたらゆっくりとした動作で俺に激辛ラスクを食べさせてくれた。
――うっ……甘い。激辛のはずなのに甘すぎる。
「……どうかしら?」
「甘いです……」
「え?」
「いっいや!美味いよ、ありがとうセーラ……」
恥ずかしくて視線をそらすとエミリーと目が合った。
彼女はしたり顔でこちらを見えている。
――こいつ……確信犯だな。感謝以外の言葉が浮かばないじゃないか!
そんな出来事もありつつ、部屋に戻ってしっかり仕事はこなした。
ディデリクさんには話し合った対策を書き記し、協力してもらえるようお願いしておいた。
娘さんが洋介に会うのも、神聖魔法使いが帰ってからにしてもらおうと思う。
翌日、朝食時に申し訳ないが村長の家を訪れることに。
至急の用事だと伝えると、村長はこころよく応じてくれた。
「ほう……、全員で移住を……ですか」
村長は驚いた様子で、すぐには言葉が出てこないようだ。
とりあえず二通の手紙を村長に読んでもらうことにした。
「――そうですか、息子が賛成しているなら私に異存はございません」
「息子さんを信頼しているんですね」
「老いては子に従えと言いますので。息子は私より人をまとめるのが上手いので、なんとかやってくれるでしょう」
村長もナッシュさんの能力は買っているようだ。
それにしても、日本のことわざはこの世界でも使われているんだなと、どうでもよいことを思ってしまった。
「もう少ししたら皆も外へ出てきますから、その時にでも話をいたしましょう」
村長には食事に戻ってもらい、俺たちは外で待つことにした。
水場のふちに腰かけていると、大工の娘ニーナさんが外へ出てきた。
「あっ、おはようございます!洋介様、ちょうどいいところにっ!たまご三個くださいな!」
「おはようございますニーナさん、少々お待ちを」
洋介はそう言いながらポーチからたまごを取り出した。
たまごや牛の乳は一日に一回、売れ残った分を洋介が回収しているらしい。
食材や日用品なんかは今後のことも考えて、無料配布ではなく売ることにした。
それらを購入しても貯金できるくらいの給料は支払っているので、生活が苦しくなることはないだろう。
「あっちまで行くの面倒で。助かったわ、洋介様!」
あっちとは畜産農家のことだろう。広場からは少し離れた位置にあるので、少し歩くことになる。
お金を払いたまごを受け取ったニーナさんは、足早に家へと戻っていった。
その後も何人か訪れて洋介から食材を買っていった。
「意外と需要があるな」
「そうなんですよ。冷蔵庫がないせいか少量ずつ買う人が多いです。村にいるとよく呼び止められますし、屋敷まで買いにくる人もいますよ」
「人口も増えそうだし、もう少し気軽に買えるシステムを考えたほうがよさそうだな」
「お店があると便利だけれど、すぐには無理よね」
「とりあえずは、僕たちが決まった時間に露店を開くというのはどうでしょうか?需要具合で店を作るという感じで」
「そうだな、とりあえずは露店から始めてみるか」




