117 羊の毛刈り
少し不衛生な描写があります
次の日からは、洋介は村人とともに移住者が住む家の手直しをおこない、セーラはエミリーと羊の服作りを始めた。
俺は毛刈り用のハサミや、村人に頼まれた道具を生産スキルで作ったりした。
三日後、準備は整い羊の毛刈りがおこなわれた。
その日は村人総出の作業で、レオくんとジェシーちゃんは大喜びでその作業を見学していた。
「カイトさまは、チョキチョキやらないの?」
「俺はやったことないから、今回は見学だけにしておくよ」
レオくんの質問にそう答えると、ジェシーちゃんは毛刈りがやりたかったのか、不満そうに口を尖らせた。
「わたし、来年は絶対に毛刈りをやるわ!それまでにハサミの練習をしないと!」
「おう、来年は一緒にやろうな」
出稼ぎに行っていた男性陣は全員が経験あるようで、その人たちを中心に毛刈りをおこなっている。
羊は寝かされ、テレビのニュースなんかで見たことのある光景が、目の前で繰り広げられていた。
洋介は少しやってみたいと、二人がかりで押さえるのを手伝ってもらいながら奮闘している。
セーラは刈り取った毛を洗うためのお湯を沸かす担当だ。
そして俺は今、刈り取られた毛についているゴミを、レオくんたちと取り除く作業をしていた。
「カイト様にこんな作業させてしまってすみません」
「手が汚れますので、見学されていたらいかがですか?」
一緒に作業をしている二人の母親、ララさんとカーラさんは申し訳なさそうだ。
「家畜を飼いたいって言いだしたのは俺なんで、これくらいはしないと。それより汚れ仕事を女性にさせるほうが申し訳ないです」
一見地味な作業に見えるが、一年間自由に過ごしてきた羊たちの毛にはいろいろなものが付着していて、女性が触りたくないであろうものもいろいろ付着している。
「私たちも何度か毛刈りの手伝いをしたことがりますので、大丈夫ですよ」
「それに、この羊たちは綺麗なほうだわ。売られる前に目立つゴミは取り除いてくれたのね」
二人は子供たちに教えながら手際よくゴミを取り除いていく。
俺もこの作業が終わるころには、ゴミ取りマスターの称号を得ていそうだ。
ゴミを取り除いた羊の毛は、たらいに入れたお湯でつけ置き洗いされる。
あまりゴシゴシ洗うと、毛が固まってフェルトのようになってしまうらしい。
優しく丁寧にが重要なようだ。
昼食も放牧場で取り、夕方近くまで作業は続いた。
「ふぅ、やっと終わったな」
最後の洗いが終わり、毛を干す台に乗せられると周りから拍手が起こった。
「いやぁ、なんとかなったな!」「無事に終わって安心したわ」「俺たちの出稼ぎ経験も無駄じゃなかったな!」
「皆さんの経験のおかげで滞りなく毛刈りを終えることができましたよ、ありがとうございます。皆さん今日は本当にお疲れ様でした!」
どんな経験も、どこで役に立つかわからない。なんでも経験しておくものだなと改めて思った。
俺のゴミ取りの経験もいつか役に立つはずだ。
放牧場にはセーラとエミリーが作った服を着せられた羊たちが、のんびり草を食べている。
二人が作った服を嫌がっている様子はない。
地球では犬だって服を着る時代だし、羊も暖かいと思えるならいやではないようだ。
そろそろ山も色づき始め、朝晩は肌寒向くなってきた。
冷えてくる前に帰ろうと思っていると、放牧場へ見知らぬ男性がやってきた。
「エミジャ村のカイト様はいらっしゃいますか?」
「はい、俺ですが……」
なんだろうと思っていると、その男性は肩からかけているカバンの中から二通の手紙を取り出した。
「手紙を届けにきました。どうぞ」
「ありがとうございます」
どうやら手紙の配達員だったらしい。
手紙はセバスとディデリクさんからのようだ。
「今日は泊っていかれるんですか?」
「はい、明日の九時には出発しますので返事を出すならそれまでにお願いします」
彼はそう告げると、広場のほうへと戻っていった。
「カイト、誰からの手紙なの?」
「セバスとディデリクさんからみたいだ。読むのは屋敷に帰ってからにして、日が暮れる前に屋敷にもどろうか」
セバスは移住者の報告だろうが、ディデリクさんは見当がつかないので少し気になる。
だが、俺たちがいつまでもここにいると皆も帰りにくいだろうから、さっさと撤収してしまおうと思う。
ポーチに手紙を入れると、ポーチの中で見慣れないものを発見した。
「ん……なんだこれ?」
取り出してみると、それは手のひらサイズのエンブレムだった。
「カイト、それなぁに?」
覗き込むセーラは、なんとも言えない表情で固まった。
そのエンブレムには、でかでかとこう書かれていた。
『ゴミ取りマスター』と。
本当にあったんだな。この称号。
裏返してみるとそこには『発見率アップ』と書かれていた。
これを付ければ、ごみをめちゃくちゃ発見できるのだろうか。




