113 告白
屋敷に戻った俺は屋敷の中には入らず、裏庭で馬を見ながらこそこそと昼食のカツ丼を食べていた。
馬はもうマジックポーチの中に戻す予定は無いので、馬小屋も整備してくれたようだ。
今は馬小屋の隣に作られた放牧場で、馬四頭が寛いでいる。
「こんな場所で食べていたのですか、カイト殿」
「うっ……洋介」
ここは温泉の裏側だから見つからないと思ったのに、あっさりと見つかってしまった。
「なっ、何をしに来たんだよ」
「姉上が、朝からカイト殿がいないと心配していましたよ」
「村に行くとエミリーに伝えておいただろう」
エミリーはメイドの性なのか早起きなので、出がけに一応は行き先を告げて出てきた。
「それは聞きましたが、これから告白しようと思っている相手に避けられたら、不安になるではありませんか」
「おっ、俺だって緊張しているんだよ!察してくれよ!」
告白の予定が筒抜けのようだが、今までも全て筒抜けだったので今更どうも思わない。これがこの二人なんだ。
「そうだろうと思って、姉上にはフォローしておきましたけど」
「さすがは、設定上の弟。いつも助かる……」
「100%成功すると分かっているんですから、もう少し気楽にしていたらどうですか。こんな勝ち戦、そうそうないですよ」
「まぁ、そうなんだが……。それと緊張は別の話だろう」
俺があまりにヘタレな行動を取って、彼女が幻滅するなんて事態も無きにしもあらずだ。
告白のセリフをまだ決めかねているというのに、平常心で居られるはずが無い。
「そうですか。まぁ、せいぜい時間まで緊張してください」
洋介はそう言いながらこの場を立ち去ろうとしたので、俺は慌てて呼び止めた。
「洋介くん……、良かったらセーラが心ときめく告白のセリフを、一緒に考えませんか?」
そう提案すると、洋介は盛大なため息をついた。
「どんな気の利かないセリフでも自分で考えたほうが、姉上は喜ぶと思いますよ。では、後日談を楽しみにしていますので」
爽やかに微笑みながら彼は、この場を去ってしまった。
――最後の希望があああ!
どうしよう。後、三十分くらいしか無いぞ。
一ヶ月以上も考える時間があったのに、なぜ俺はノープランなんだ?
絶望を感じながらも、あっという間に時間は過ぎてしまった。
約束の五分前。
俺は屋敷の中に戻り、玄関のドアの内側でスタンバっていた。
こういう時は五分前行動を取るべきなのか、それとも時間ぴったりに行くべきなのか。
これが普通の待ち合わせなら多少の誤差は気にならないだろうが、徒歩数十秒の距離なのでとても迷う。
早すぎてセーラの準備が整っていなくても失礼だ。
こっそりとドアを開けて外の様子を伺ってみた。
庭を整備してから一ヶ月以上は経ったのに、バラはあの時のまま満開に咲き乱れている。
セーラは既にお茶会の準備を終えたようで、バラを愛でている。
これは、いつでも出て行って良い雰囲気だ。
だが。
――まだ、ここにいたい。
っというのが、俺の素直な今の感情だ。
何故なら、未だにノープランだからだ。
いくら考えても、何も良い作戦が思い浮かばない。
だが、あまり待たせてもセーラに悪い。
こうなったら、お茶を飲みながらゆっくり考えるしかない。一息つけば良い案も浮かぶだろう。
そう自分に言い聞かせながら、緊張で震える手でドアを押し開けた。
外に出ると、セーラはすぐに俺に気が付いてこちらに視線を向けた。
ゆっくりと歩いて行くがセーラの顔が分かる距離まで来ると、足が止まってしまった。
ここから見てもはっきりと分かる。セーラの顔が真っ赤だ。
両手を心臓辺りに押し当てている様子から、緊張しているのが丸わかりだ。
――これ、失敗のパターンじゃないか?
お互いに緊張しすぎている状況は、非常にまずい。
俺はいつも緊張して空回りしているが、セーラが冷静でいてくれると良い方向に話が進む。
彼女が冷静になって仕切ってくれることが、とても重要だ。
他力で情けないが、俺たちがここを乗り越えるにはセーラの冷静さが必要なんだ。
この状況を打開するにはどうしたら良いだろうか。
俺がリードするなんて無理だが、彼女の緊張を和らげるくらいなら出来るんじゃないか。
ここは意外性で勝負してみよう。
俺は決心して、大きく息を吸い込んだ。
「セーラ!!大好きだあああ!!」
先手必勝。これくらい距離があれば、俺だって愛を叫ぶ事は出来る。
ベタすぎる青春ドラマのようだが、顔を付き合わせて告白するよりは緊張しないはずだ。
(セーラ!!大好きだあああ!!)
山奥なので俺の叫びは、こだました。
彼女は驚いたように固まったが、俺が大きく手を振ると吹き出して笑うように口元に手を当てた。
どうやら狙い通り、中二容姿の俺がこの行動を取るのは、意外性があって面白かったようだ。
セーラはすぐに俺の元へ駆けてきた。嬉しそうな笑顔が可愛すぎる。
「カイト~!私も大好きよ!!」
彼女はそのまま、俺に抱きついた。
「ちょっ……!」
――セーラさん!それはまだ早すぎるっ!!
叫んで和らいだはずの緊張は、再び頂点へと達するのだった。
だが、落ち着きを取り戻したセーラのおかげで、俺たちの告白大会は成功を遂げた。
お茶を飲みながら昔話に花を咲かせ、告白というよりは俺達がその時どう思っていたかを確認し合うような作業だった。
宿屋でも少し話したが、同じ事で思い悩んでいた日々は今となっては笑い話だ。
これまでの感情を聞いていると、セーラは常に俺の事を第一に考えてくれていて、それに気が付けなかった俺はほんと情けない人間だと思う。
セーラが攻撃時にホーリーランサーばかり使っていた理由を聞いてみると「カイトとお揃いにしたかったの」と返答された時は、萌え死ぬかと思った。
ランサーとは槍兵、つまり槍使いのことだ。俺の彼女、可愛すぎじゃないか。
そんな語り合いを夕方までして、俺たちはついに彼氏彼女という関係になった。
前世で生まれて三十四年、セーラと出会って十六年、この体に転生して三ヶ月弱。
ついに俺にも、初めての彼女ができてしまった。
それがずっと想い続けてきたセーラなんだから、感慨無量だ。
今世についてはいろいろあるが、今は全て忘れてこの幸せをかみしめたい。
――はぁぁ、セーラに出会えてよかった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
これにて第二章終了となります。
いつも誤字報告ありがとうございます!




