110 エミジャ村へ到着
イーサ町の北ゲートを抜け森に入ると、馬車は一気に大空へ上昇した。
セバスの操縦は素晴らしく、熟練のパイロットのような安定感で飛行した。
セーラも今回は安心した様子で乗っているのは良かったが、抱きついてもらえないのが少し残念だ。
毎回抱きついてもらえる期待をしていたが、あれはあの時だけの奇跡だったようだ。
「ところで洋介、手紙に大切な話があると書いてあったが、村で何かあったのか?」
「村は問題ありませんが、屋敷が少々……。僕達、お二人がいないとダメなようです……」
セーラと再会した時にも似たようなことを言っていたが、単に寂しかったという意味では無かったのか。
「洋介については想像がつくわ。寝たいだけ寝て、規則正しい生活が出来なかったのでしょう?」
セーラがため息交じりにそう言うと、洋介は照れ笑いしながら頷いた。
「ははは。情けないことに、姉上のご想像通りです。一日三十時間ペースで過ごしていました」
「おいおい……、それで村の指揮は取れていたのかよ……」
「昼間に起きれない日はセバス殿に指示しておいたので、その辺りは滞りなく作業が進みました」
セーラでなくては起こせないというのは、ネタではなかったようだな……。
「なぁ……、洋介が大学に入るまでは別々に暮らしていたんだろう?それまではどうしていたんだよ」
「それはもちろん……」
「私が電話で起こしていたわ」
「筋金入りだな……」
毎日セーラからのモーニングコールなんて、羨ま……しくないか。起こし方的に。
「セバスは察しがつく。俺が渡したメモのメニューしか食べなかったんだろう?」
「まさにその通りで、途中で材料が切れた時はマスターの指示を遂行出来ないと泣かれました」
「すまん……。そこまで頭が回っていなかったよ」
洋介が村へ帰る時は、セーラの事で頭がいっぱいだったから、セバスとエミリーのことまで考えてやれなかった。
日常生活の知識に乏しい二人と暮らすのは、大変だったかもしれない。
「エミリーちゃんは、臨機応変に自分で行動できるわよね?」
「それこそ、ご相談したかった案件です。あの臨機応変さには、僕もお手上げです……」
「どういうことだ?」
「彼女、スイーツが大好きじゃないですか。栄養が偏るといけないと思い、何とか他の物も食べさせようとしたのですが、上手く交わされ完敗しました」
「もしかして、三十日以上スイーツしか食べていないのか?」
「その通りです」
「それは、大変だわ。きっと体に支障が出ているはずよ」
「そうなんです……。姉上はうまく他の物も食べさせていましたよね。帰ったらなんとかしてあげてください」
「そうね、同じ見た目同士ですもの。何とかしてみせるわ」
そういえばエミリーは、セーラの言う事は素直に聞くんだよな。
セバスも俺の指示を最優先にしているようだし、NPCにも好みがあったのかもしれない。
あくまで信頼度としての意味だが。
空がオレンジ色に染まり始めた頃、俺たちは無事にエミジャ村の手前までたどり着いた。
馬車が着陸し少し進むと、村を囲っている柵が見えてきた。
「お!柵が綺麗に直っているな」
「はい、この辺りが荒れたままだと訪問者ががっかりするでしょうから、早めに直しておきました」
俺たちが村を出る前は、あちこち壊れて朽ち果てるのも時間の問題のような状態だったが、今は真新しい丸太で作られた柵で綺麗に囲われている。
「訪問者といっても、郵便の配達員くらいだろう?」
「それが、そうでもないんですよ。女性グループの訪問が二回と、冒険者の訪問が一回ありましたよ」
「洋介、遊びに来てと宣伝していたものね」
「ははは、まさかこんなに早く来るとは思いませんでしたけどね」
確かに、こんなド田舎まで本当に会いに来るとは思わなかった。よほど洋介のことが気に入ったんだな。
本人はまだ知らないが、恐るべしリアル王子……。
「冒険者は何をしに来たんだ?」
「商会に売ったスライムの皮がお祭りの露店で売られていたそうで、それを見て懐かしくなって来てみたそうですよ」
「へぇ。意外なところで宣伝効果があったんだな」
スライムの皮の値段を見れば、穴場と思う人はいるかもしれない。
そういう人が増えれば、宿屋とかも再開できるんだけどなぁ。
そんな話をしているうちに、馬車は村の広場へ到着した。
広場には村人全員が集まっているようだ。どうやら俺達の帰りを待っていてくれたらしい。
出稼ぎに行っていた人達も戻ってきたので、村の人口が一気に増え賑やかな雰囲気だ。
「皆さん、ただいま戻りました!」
俺たちが馬車から降りると、わー!っと歓声が上がった。
最近どこへ行っても大歓迎されてしまうが、ここでの歓迎はほっと安心できる。
やっと自分たちの居場所に帰って来られたような気分だ。
「カイト様セーラ様、おかえりなさいませ。セーラ様、ご体調はいかがですか?」
代表して村長がそう述べると、セーラは柔らかく微笑んだ。
「この通り、すっかり元気になりました。皆さんには心配をかけてしまったわ、ごめんなさい」
「とんでもございません。お二人が戻られた時に再生した村を見て頂こうと皆、張り切って作業をしておりました。ご体調が整われましたら、ごゆっくりご見学くださいませ」
「ふふ、楽しみにしています」
「そうだな。村を見て回るのは後日にして、今日は休ませてもらおうか」
ヒールで体は回復したとはいえ、いろいろな事があったから精神的に疲れたはずだ。
あまり無理をさせるなと医師にも言われているので、数日はゆっくり休ませたい。
挨拶を終え、俺たちは再び馬車に乗り屋敷へと戻った。




