109 イーサ町出立
翌日の昼前。
俺達が滞在している部屋のドアを、けたたましく叩く音が聞こえた。
「洋介が来たようだな」
「ふふ、私が開けてくるわ」
弾んだ様子でセーラはドアに向かう。
彼女も弟に会うのが待ち遠しかったようだ。
ドアが開かれると、洋介がなだれ込むように入って来てセーラに抱きついた。
「ねえさぁぁぁぁぁん!!」
「久しぶりね洋介、心配かけてしまってごめんなさい」
「いいんだ。俺、姉さんは必ず目覚めるって信じていたから」
「ふふ、もうすっかり元通りになったわよ」
「それを聞いて安心したよ、これからは無茶しないでよ」
「これからは慎重に行動するわ。それより私がいない間、大丈夫だったの?」
「やっぱり俺、姉さんがいないとダメみたいだ……」
「もう!いつになったら甘えん坊が直るのかしら」
うーん。仲が良いのは結構だが、相変わらず恋人同士のような二人だな。
嫉妬心が沸々と湧いてくるのは何故だろう……。
「名残惜しいけど、そろそろ離れるよ。姉さん」
「あら、どうしたの?」
「これ以上姉さんを独占していると、カイトさんに怒られそうだ……」
「え?」
そう言いながら二人は俺に視線を向けた。
「なっ、なに言ってるんだよ。久しぶりの再会なんだから、ゆっくりすればいいだろう……」
「思い切り顔に出てましたよ、カイト殿」
「なんの話だ……」
まさか顔に出ていたとは、恥ずかしい。
弟相手に嫉妬とか、どんだけ心が狭いんだよ、俺は!
「それより、今日は彼も一緒に来たんですよ」
洋介が廊下に向かって手招きをすると、申し訳なさそうな顔のセバスが現れた。
「お久しぶりでございます、マスター、セーラ様」
「おお!久しぶりだな、セバス。元気にしていたか?」
「はい、マスターが作ってくださった工程表のおかげで、滞りなく毎日を過ごしておりました」
セバスは仕事以外の行動を決めるのが苦手なので、何となく一日の流れと食事のメニューを書いて渡しておいたのだが、それが役に立ったようだ。
だが、あれは四日分しかなかった。まさか、ローテーションで同じものばかり食べていたんじゃ……。セバスならあり得るな。
「セバスとエミリーちゃんにも迷惑をかけてしまったわね。帰りが遅くなってしまってごめんなさい」
「とんでもございません、セーラ様。ご無事なお姿を拝見できて、安心いたしました」
エミリーは留守番で屋敷に残っているらしい。
「セバス殿は馬を扱えるそうなんです。姉上は退院したばかりですから、僕が御者では不安だろうと思いまして」
どうやら洋介は、自分の腕前については自覚があったらしい。
セーラは心底安心した様子で、セバスに感謝を述べていた。
昼食を済ませてから一階に向かうと、宿屋の店主と領主のディデリクさん待ち構えていた。
「長期間のご滞在、誠にありがとうございました」
「いろいろと助けていただき助かりました。ありがとうございます」
ここの店主にはいろいろとお世話になってしまった。
台所を貸してもらった以外にも、分からないことはなんでも教えてくれたので大変助かった。
次に来る時も、ここを利用させてもらおうと思う。
ディデリクさんはいつも昼間は宿屋にいないが、どうやら見送りのために来てくれたようだ。
「皆様、どうぞお気をつけてお帰りください。次は納税時期にエミジャ村を訪問させてください」
確か、村長が秋に税金を納めると言っていたな。
そして、ディデリクさんが治めている領地には、エミジャ村も入っていたようだ。
「領主自ら徴税しに来るのですか?」
「いつもは任せているのですが、娘がどうしてもエミジャ村に行ってみたいと、手紙を寄こしてきましてね。なんでも、洋介様に会いに行く約束をしたとか」
洋介に視線を向けると、彼は照れ笑いしている。
そういえばお祭りが終わった後に手紙を書いていたような。
いつの間にか話がそこまで進んでいたとは驚きだ。
「そうでしたか。良かったらうちに泊まってください、歓迎しますよ。ディデリクさんも、体に気を付けて復興作業がんばってください」
挨拶を済ませ宿屋を出ると、外がいきなり歓声に包まれた。
中央広場はお祭りの日のような賑わいとなっていて、何事かと思わず足が止まった。
「皆様が出てこられたぞ!」「キャー!洋介様!」「聖女様!お元気になられたのですね!」
どうやら、町の人達が見送りに来てくれたようだ。
それにしても、相変わらず洋介とセーラの人気は凄いな。王族としてのオーラでもあるのだろうか……。
「どうして僕達が今日帰ると分かったのでしょうか?」
「たぶん、犯人はあの二人だ」
後ろを振り返ると、宿屋の店主とディデリクさんが満足そうにこちらを見ていた。
昨日のうちに宿の支払いを済ませ、ディデリクさんにも昼間は会えないと思っていたから挨拶をしに行ったのだが、まさかこんなサプライズを仕掛けて来るとは……。
再び広場に視線を向けると人混みをかきわけて、町長が俺達の元へやって来た。
「今回は本当にお世話になりました!一言お礼を申し上げたいと、こうして皆で集まらせていただきました」
お礼はこれでもかというほど外に出るたび言われたのでもう十分だが、こうして皆の元気な顔が見られたのは嬉しい。
辺りを見渡せば、お菓子屋の三人、ムーア商会の人達、病院の医師と看護師、お祭りの運営委員さんとスタッフ、セーラが怪我を治した人達、皆この場に集まってくれている。
「町の復興、頑張ってください!」
「また遊びに来ます!」
「皆さん、体に気を付けて!」
馬車に乗り込むと、俺達の名前を呼びながら万歳が始まった。
「さすがに、これは恥ずかしいですね……」
「私、聖女様ではないのに……」
「っというか、この世界にも万歳の習慣があるのかよ」
「妙に日本の文化が混ざっている世界ですからね……文字も日本語ですし」
恥ずかしく思いながらも、こうして皆に見送ってもらえるのはありがたい。
イーサ町ではいろいろなことがあって良い事ばかりでもなかったが、とても思い出深い旅となった。
これから町は復興しなければならないし、これからも微力ながら見守っていきたいと思う。
微妙にタイトルを変えてみました。




