102 病院通い
俺は病院と宿屋を往復する毎日を始めた。
病院では正直、俺に出来る事はあまりない。
エクストラポーションを飲ませるのは難しいようだし、旦那様なら体を拭きますか?と聞かれたが、そんなことをしてしまえばセーラが目覚めた後、再び寝込んでしまわないか心配なので辞退しておいた。
シーツなどを変える際に、俺は軽々とセーラを持ちあげられるので、それだけは重宝された。
「さぁ!セーラさん、お昼の時間ですよぉ」
看護師の女性がエクストラポーションを持って病室へ入ってきた。
「すみませんが、よろしくお願いします。俺は外に出てきますね」
「はい!ごゆっくりどうぞ」
「セーラ、また後でくるからな。ポーションしっかり飲むんだぞ」
眠ったままのセーラの頭をなでてから病室を出た。
あまりセーラを一人にはしておきたくないので、看護師さんがいる間に昼食を済ませるようにしている。
そして、その時間帯を見計らって俺に会いに来る人も多かった。
待合室には領主のディデリクさんが来ていて、今日は彼と昼食を取る約束をしている。
近場の食堂に入って注文を終えると、ディデリクさんが先に口を開いた。
「あれから十日ほど経ちましたが、セーラ様のご容態はいかがですか?」
「少し回復の兆しが見えてきましたよ。医師の見立てでは後、ニ・三週間で目覚めるかもしれないと言っていました」
毎日魔力を測定してくれているが、今日はついに三分の一まで回復したらしい。相変わらず減ったり増えたりを繰り返しているようだが、順調に魔力は回復していると言われた。
洋介の予想通り三十日で目覚めそうなので、一安心していたところだ。
「それは朗報ですな。見込みが立っただけでも希望が湧きます。もう少しの間、辛抱いたしましょう」
ディデリクさんと俺は、親子ほど歳が離れている。
こうして頻繁に会いに来ては励ましてくれるので、俺は親戚の叔父さんにでも会っているような安心感を得ていた。
「ありがとうございます。町の方はどうですか?」
彼も今は町の復興に忙しく、家族だけ屋敷に返してディデリクさんは俺と同じく宿屋に留まっていた。
「広場の避難所は滞りなく運営できているようです。外の壊れた建物の撤去は雪が降るまでに終われば良いのですが……」
この地域では後三ヶ月も経てば雪が降るらしい。一か月後くらいには出稼ぎに来ている人達は故郷に帰り始めるので、労働者がぐっと減るようだ。
「どちらにせよ建設は来年になりますし、出来る範囲で進めていきましょう」
「恐れ入ります。皆様にご寄付頂いたドラゴンも、順調に捌けているようなので春には資金が確保できそうです」
この町もかつては冒険者で栄えた町。曰くつきのアイテムを、出所が分からないように捌くのは慣れているらしい。
町の様子を聞きながら食事を終えると、ディデリクさんとは別れて郵便局へと向かった。
「手紙を二通、エミジャ村まで送りたいのですが」
俺は、受付に二通の手紙を出した。
一通は洋介宛に午前中に書いたもので、医師の診察結果の報告だ。これを読めば洋介も少しは安心するだろう。
もう一通は、大工の息子トマスさんから預かった手紙だ。
今回のことで建設業界が忙しくなったため彼は親方に泣きつかれて、雪が降るぎりぎりまで村へ帰ることができなくなってしまった。
先日、トマスさんがその報告と手紙を持って宿屋に来てくれた。
何度も謝られたが、村よりはこの町の方が今は人手が必要なので快く了承し、彼の家族への手紙を預かった。
「エミジャ村ですか……。郵便料金の他に特別僻地料金がかかりますがよろしいですか?」
宿屋の主人に手紙の出し方を教えてもらった時に追加料金が取られるとは聞いていたが、特別僻地って……。
あのダンジョンが完全に忘れられているのがよく分かるネーミングだ。
「はい、それで構いません」
「徒歩便は一万リルで、馬車便は徒歩便の二倍料金がかかりますが」
「……馬車便で」
驚きの料金だが人を一人、徒歩で往復四日ほど拘束するんだから、もっと高くても良いくらいだよな……。
そして馬車も、レンタカーを二日借りると思えば安いほうか……。
何はともあれ、改めてド田舎に住んでいると実感した。
帰りに花屋で花を買ってから、病院へ戻った。
「ただいま、セーラ。綺麗な花があったから買って来たぞ。今、花瓶に生けてやるからな」
村人からのお見舞いの花束は、セーラが目覚めた時に渡そうと思って今はポーチの中だ。
花瓶の花を良い部分だけ残して買って来た花を追加し、ベッドの隣にあるテーブルに飾った。
セーラは相変わらず目を閉じたままだが倒れた日よりは数段、顔色が良くなっている。
日々回復していると実感できるだけでも、ありがたいことだ。
「セーラ、ニ・三週間後には目覚められるらしいぞ。今はゆっくり休んで、回復してくれよ」
次回、最後のセーラ視点の回想です。




