表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大好きなゲーム世界に転生出来たんだから、仲間とのんびり暮らしたい  作者: 廻り
第二章 イーサ町

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

100/173

98 現実の魔法

 辺りがヒールの光に包まれると、広場は驚きの声で満ち溢れた。


「なんだこの光は……」「ヒールみたいだぞ、何とも言えない心地よさだ」「お……俺の傷が治ってるぞ!」


 俺も心地よい癒しを浴びながら、辺りを見回した。

 あちこちで傷が治ったと喜びあっている人達が見られる。


 これでセーラのトラウマも消えると良いな。と思っていた時だった。


 ヒールが終わり、セーラが杖を下ろした直後。


 セーラは糸が切れた操り人形のように、倒れ込んでしまった。


「セーラ!!」

「姉さん!!」


 彼女が地面に頭を打ち付けるぎりぎりのところで、支える事が出来た。


「セーラ!大丈夫か!!」

「姉さん!目を開けてよ!姉さん!!」


 俺達が必死で声を掛けるも、セーラはぐったり目を閉じたままだ。

 そこへ、先ほどの白衣を着た男性が駆けつけてくれた。


「ちょっと失礼。これは……!」


 彼はそれだけ言うと、すぐに立ち上がった。


「ここはもういい!彼女を連れて病院に戻るぞ!!」

「はい!先生!」


 どうやら彼は医者で、周りにいたヒーラーは病院のスタッフだったようだ。


「セーラは……彼女はどうなってしまったんですか?」

「病院に検査道具があります。調べてみなければ確定は出来ませんが、おそらく……」


 彼は悔しそうに顔を歪めながら、俺達を見下ろした。


「魔法に失敗した者が陥る昏睡状態です」

「そんな…‥」


 ゲーム内では魔法に失敗するなんて現象など無かった。

 現実の魔法はそんなに危ういものなのか?


 すぐに運ばれてきた担架にセーラは寝かされた。


「病院へ急ぎましょう!」


 頷く間もなく、先生はそう言いながら走り去って行った。


「洋介、俺達も行こう」


 黙ったままの洋介に視線を向けると、彼は呆然と運ばれていく担架を見つめていた。


「洋介っ!」


 彼の肩に手を置いて揺すると、ハッとしたように俺に視線を向けた。


「すみません……、急ぎましょう!」




 病院の待合室で一時間ほど待たされた俺達は、やっとセーラの病室へ案内された。


 ベッドへ寝かされているセーラは、血の気が引いたように肌が蒼白だ。

 日本の病院なら点滴の一つも打たれているだろうが、セーラはただ寝かされているだけだ。

 それを見ただけで、この世界の医療レベルの低さを痛感する。


「魔力を調べさせていただきましたが、数値が少し増えてはゼロに戻る状態を繰り返していました。やはり魔法の失敗による昏睡状態で間違いありません」

「どのくらいで目覚めるのでしょうか……」

「それは使った魔法や本人の力量によります。数時間の事もあれば、大魔法に失敗すると数ヶ月……数年という場合もあります。彼女が使ったヒールは……我々が見たことの無い魔法でした……」


 そこで言葉を詰まらせる医者。すぐには目覚めないと言いたいのだろう。


「姉さん……!」


 洋介は涙声で、セーラが寝ているベッドにすがりついた。

 彼がこんなに取り乱している姿は初めて見る。


 俺も拳を強く握っていないと涙が出て来そうだが、ここは年上の俺がしっかりしなければ。

 深呼吸をしてから、先生に向き直った。


「いつかは目覚めると思って良いのですか?」

「いまの健康状態を保つことが出来れば、目覚めるまで待つことは可能です。ただ、ここからは経済力との勝負になってしまいます。治療はポーションでおこないますが、食事も取らず普通のポーションだけでは徐々に衰弱していきます。長期間、生命を維持するとなるとエクストラポーションが望ましいです」


 エクストラポーションとは体力と魔力を少量で一気に回復させるポーションだ。ゲーム内ではダンジョンのクリア報酬でしか得られない貴重なアイテムで、主に魔法使いが緊急時に使用する。


 話の雰囲気からこの世界でも高級品のようだが、ここで出し惜しみなどしていられない。

 俺はポーチの中からエクストラポーションを次々と取り出した。


「エクストラポーションならあります!どうか、彼女を助けてください!」

「そんなに……!これなら希望が見えてきました、こちらも最善を尽くしましょう!」

「どうぞよろしくお願いします!」


 目覚めるまでずっとセーラの傍にいたいが、面会時間が決まっているからまた明日来るように言われ、俺達は病院を後にした。

 外は既に、夜が終わりかけていた。


 俺と洋介は無言のまま宿屋へ戻り、何となく二人別々の寝室に引き払った。


 セーラは何故、あのような昏睡状態に陥ってしまったのだろうか。

 あの時のフィールドヒールは確かに成功して、皆の傷は治ったというのに。


 理由は分からないが、俺達はバグっているこのSSランクのスキルに、もう少し慎重になるべきだったのかもしれない。

 何故もっと早くにそう思えなかったのか、悔しくて仕方がない。

 考えれば考えるほど、悔いることばかりだ。


 俺は一睡も出来るはずも無く、翌朝を迎えた。

次回は視点が変わります。


99 セーラの体に眠っていた記憶1(今世の回想)


お昼に投稿予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ