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大好きなゲーム世界に転生出来たんだから、仲間とのんびり暮らしたい  作者: 廻り
第一章 エミジャ村の夏

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09 ダンジョン前広場

 俺を縦に五人重ねたくらいの大きな入り口をくぐるとそこは、構造物というよりは巨大な洞穴と表現したほうが相応しい空間だ。

 天井は淡くオレンジ色に光っているためそれなりに明るいし、壁も乾いた土地の土のような色合いで圧迫感は無く、外の森とは似ても似つかない温かみのある場所になっている。


 βテストの頃は、この広場にNPCの屋台やプレイヤーの露店が立ち並びとても賑わっていたが、今はまっさらな空間が広がっていて、奥にダンジョンへの入り口があるだけだ。


「なんとも寂しい光景だな。ゲーム内でも最近はこんな感じだったのか?」

「さすがにここまででは……NPCの屋台は健在でしたし、プレイヤーもぽつぽつとはいましたから」

「この世界では宿屋と一緒で、廃業してしまったのね」


 セーラはその代わりと言わんばかりに、ウエストポーチからソファーとテーブルを出してくれた。

 ソファーに深く腰掛けると、一気に疲れが抜けていく。


 それから各自、村長夫人に作ってもらった昼食をウエストポーチから取り出した。


 なんと!このポーチ、料理を暖かいまま運べる便利グッズだったらしい。


 村長夫人との会話で得た情報によると、このポーチは冒険者登録をしている者だけが購入できるが、とても高価なためパーティーの全員で一つを共有するのが普通らしい。

 それを一人一つ持っている俺達は、なかなか裕福に見えているようだ。


 そう考えると俺達の前に体を所有していた人達も、そこそこ裕福だった事になる。

 にも関わらず、冒険者の初期装備なんて恰好であの森の中で倒れて……、っというか恐らく息絶えたんだよな、きっと。

 理由は分からないが、訳アリの冒険者だったのかもしれない。


 自分達のキャラにそっくりだったから、今までは何となく自分だけの体だと思っていたが、人間であるからには生まれてここまで育ってきた過程がある筈だ。

 そういったことも、頭の片隅に入れておいた方がいいかもしれない。


 そう思っていると、隣に座っているセーラが、口を開いた。


「ダンジョンで暖かいお料理を食べられるなんて幸せね」

「そうだな、これなら気軽に旅立っても食べ物には困らないな」

「疲れたらセーラ嬢のハウジングアイテムもありますし、快適過ぎて働く目的を見失ってしまいそうですね」

「確かに俺達、お金も腐るほどあるし別に働く必要は無いのかもしれないな」

「言われてみればそうね、スキルが使えないのでは冒険者としてやっていくには大変そうだもの」


 セーラの言う通りスキルも使えないし、俺達のひ弱さを考えると冒険者としてやっていくには、無理があるんじゃないだろうか。


 レベルを上げてそれが改善されるとして、わざわざ危険なダンジョンに入る必要があるのだろうか。


 それにさっきの考えから推測すると、俺達はもしかしたら狙われているのかもしれない。生きていると知られれば危険が及ぶかもしれないから、冒険者としてあちこち出歩くのは得策では無いだろう。

 ほとぼりが冷めるまで、身を潜めていた方がいい気がする。


「……なぁ二人とも、俺達ゲームでは十六年間も冒険者として十分に活躍してきたんだ、現実ではのんびり暮らしたっていいと思わないか?村に家でも買ってさ、俺達の生産スキルがあればそこそこ不便なく暮らせると思うんだ。どうしても狩りがしたくなったら、ここへ遊びに来たりしてさ……どうかな?」


 俺の提案に、セーラと洋介は顔を見合わせた。


「僕は三人一緒なら、どんな生活でも楽しいと思うので構いませんよ」

「私も三人で暮らせるのは大歓迎よ。生産スキルも楽しいもの、田舎暮らしでも退屈しないと思うわ」


 俺は割と、意を決して提案してみたのだが、案外あっさりと賛同を得られたようだ。


「ありがとう二人とも。それじゃあ早速、村へ戻って村長に打診してみるか」


 そう言いながら立ち上がろうとすると、洋介が神妙な顔で俺を見た。

 知っているとは思うが彼は、神妙な顔だからといって神妙な話を振ろうとしているわけでは無い。


「どうした?洋介」

「僕達三人が同居するにあたり、色々と設定を付けないと村で上手くやっていくのは難しいと思うんです」

「転生がバレると?」

「はい、僕達が今までどんな暮らしをしてきて、どうして村に住みたいのかを説明できるように、設定を共有しておく必要があります」

「確かにそうね、三人ともバラバラな話をしては村の皆さんに不審がられるわ」

「そうだな。先に設定を決めておくとするか。その様子では、洋介は既に話が浮かんでいるんだろう?」


 洋介はこういった空想をするのが大好きな性格だ、良い設定を作ってくれるだろう。


「勿論です!良いアイディアが湯水のごとく沸いてきますよ!」

「あまり込み入った設定はやめてくれよ。覚えるの面倒だから」

「では、シンプルに。カイト殿とセーラ嬢は身分差の恋をしてしまい、駆け落ちをしてあの村に流れ着きました。僕は心配してついてきたセーラ嬢の弟です」


 ――ちょっと待て!何言ってるんだ、この男爵野郎は!

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