第6話 勇者の武器選び
さて、勇者がパーティーに入った翌日は主に魔法オノ使いのロックさんが二日酔いになった影響で、暇になった。
そして、成り行き的にこう、ね。なるよね。うん。知ってた。
勇者と2人で歩いている。晴れた空の下を微妙な距離感で。手が繋げそうで繋げ無いような距離で。
「あ、あの。もう少しゆっくり歩いてください。私素早さ50よ」
同じ年ぐらいの男性と話すのはほぼ初めてだ。魔法学院時代はほぼ女子校みたいなもので、女性9割男性1割といったところだった。
「あ、はい。すみません。ゆっくり歩きます」
勇者さんもなんか、こう。同じ年の女性と話すのは初めてなのかも?っと思う反応だ。
「あ、武器。今初期装備?」
私は少しお姉さんポジションを手に入れるため、聞いてみた。ちなみに本当にお姉さんと思われてるのかはわからない。
「あ、はい。で、でもお金無くて、買えないんです。良い武器屋さんは知ってるんですけど。ギルド初めてで」
凄く緊張してる。可愛い。
「お姉さんが買ってあげるから案内して」
妖艶な笑みを浮かべながら言った。私。
「あ、ありがとうございます」
やっぱり緊張してる。可愛いなぁ。
「で、でも、足が出た場合、魔法戦士さんに相談するよ」
私は、魔法学院首席で賢いんだぞアピールをしてしまった。
「いや、あの、足って出てますよね?」
ことわざをそのままの意味で捉える人久々に、見た。可愛い。純粋なまま汚れを知らずに育って欲しい。
「あ、足が出るっていうのは予算オーバーの意味ね」
優しいお姉さん的な笑顔を浮かべて言った。
「あ、ありがとうございます」
そういう頬が真っ赤に染まっている。やっぱり可愛い。弟に欲しいぐらいだけど無理だね。
さて、勇者と色々話している間にやっと武器屋に着いた。
武器屋のおじさんは180センチくらいある大男で、髭がある。おじさんだった。店内は割と整然と物が並んでおり、清潔な印象だった。
「おう。いらっしゃい」
声もかっこいいおじさんだった。
「あ、この子の武器を買いに来たんですが、合いそうな物ありますか?」
お母さんみたいな口調になった私である。
「そうだな。割と小柄だからな。こいつとかどうだ。魔剣マケンゼヨ。こいつはクセがあるが、軽くて振り回しやすい。素早さの高いアンタなら使えるんじゃ無いか?」
渋い声で武器屋が言った。
「使ってみて良いですか?」
勇者も乗り気だ。よかった。魔剣使いの勇者面白そう。ふぅ〜。
「もちろん良いぜ。近くにゴブリンが湧くところがある。使ってみると良い」
渋い声で武器屋が言った。このおじさんイケメンな声だなぁ。
さて、晴れている空の下、勇者によるゴブリンの試し斬りが始まった。もちろん物理攻撃力5000の威力は並みではない。もちろん。一撃で、吹っ飛ばしている。強い(魔初感)。
わぁ。私もやりたいなぁ。よしやらせてもらおう。
私がゴブリンを剣で切ってみた。一撃なのは当たり前で、踏み締めたところに少しくぼみができてしまった。なんならゴブリンが見えなくなってしまった。あれ?これやばいかな?
「おい、何してんだよ。俺の試し斬りは?何してんの、ほんと」
勇者が怒っている。
「ごめんなさい。誠に遺憾に感じます。この件については当事者の皆様に深く陳謝いたします」
私は、王国議会の議員の不祥事会見みたいな謝り方をした。なんとなく、あれ、頭に残るのだ。
「おい。ふざけてんの?」
勇者がキレた。
「いいえ。ごめんなさい。攻撃力甘くみてた」
私は至って冷静に返す。
「俺の立場。勇者なの。わかる?基本的に剣で戦うやつ。なんで、ぶっ飛ばしちゃうの?馬鹿なの?死ぬの?」
勇者がどこかの動画でやってたネタを軽くぶち込みながらキレている。
「いいえ、死にません。いや、ずるいじゃん。私も試したかったの。で、試したらたまたま、ああなっただけだから。ごめんなさい」
私は至って冷静に返す。なんで、こうなるかな?
「まあ、どうだ?剣の切れ味は?」
武器屋さんが間に入る。
「そうだな。どこかのおバカさんがぶっ飛ばしちゃったけど、まあ、切ってみれたものは、楽だったし、持ってる感じも良かった。これにしよう」
勇者が言った。軽く口を尖らせながら。
「なら、商談成立だ。店に戻るか」
武器屋が言った。
そして、武器屋に戻って来た。もう日が少し傾いている。勇者の顔は興奮からか、少し赤くなっていた。
「そうだな。この剣は50ゴールドだ」
武器屋が言った。あ、ゴールドはこの世界で1番高い価値の貨幣だ。良いものは割と値が張るわよね。まぁ、余裕なんですけどね。貯金してたし、今貯金500万ゴールドあるので良いや。
「あ、はい買いますね」
私は何の躊躇もなく普通に50ゴールド出した。
「えっ、あぁ、ありがとうございます」
武器屋が驚いているけど、知らない。私は何も知らない。えっ?そんなにゴールドって価値あるんだ。ゴブリンとか近場のドラゴンとかスライムとか倒して溜めまくったからわからない。
「て、ことで。明日ダンジョンにいきましょう」
珍しく勇者がダンジョン行きを希望した。
「もちろん。魔法戦士オノ使いのロックさんも明日は来れるでしょう」
私も期待に胸を膨らませせた。ギルドに帰ると、魔法戦士オノ使いのロックさんが料理を頼んで待っていた。
「実は武器屋の奴はダチでよ。どっちにせよ武器屋行くんだろうし、帰るの遅くなるだろうと思ってこっちで待ってた。タイミング神だがな」
ロックが自慢げに言った。
「もう、お腹すいてたんでしょ?まぁ。ありがとうございます」
私は本音を言うとドラゴンを丸ごと食べられそうなほどお腹が空いていた。
「わー、美味しそう」
勇者の目が星のように輝いている。嬉しそうで何よりだ。
こうして、おいしいご飯を食べて明日に備えた。
「あぁ。明日ダンジョン行こうって勇者と話してだけどどう?」
私が提案するとロックさんは二つ返事でOKしてくれた。
「良いね。行こう」
本当にいい1日だ。