第5話 勇者
そんなこんなしているうちに数ヶ月が経ったある日勇者と名乗る男の子がギルドにやってきた。見た目は太陽のような金髪とその熱を表現するような赤い目だった。しかも、割と小柄で女子の平均の私と同じぐらいの身長だった。
その子は少し怒ったような声でこう怒鳴った。
「聖女を出せ。俺は勇者だ。魔王を倒すのはこの俺だ。まさかついてこないとは言わないよな?」
そんな事を言われて黙っていられるほど私は優しくない。
「はぁ?何言ってんの、あんた?勇者なんて生まれたその瞬間から勇者でしょ?なんの努力もせず、勇者だからという理由だけで無理あり連れ出そうとするのならそれはカスよ」
勇者は更にキレた。
「俺がどれだけ苦労したか知ってんの?普通じゃないと言われて、勇者だから勝って当たり前と言われ、流石格が違うねとか言われ、普通がよかったのに」
私はキレてしまった。
「喜ぶべきところじゃないの?そんなに勇者が嫌ならやめれば良いじゃない。なんでこだわるわけ?私が聖女だけど、物理で殴る気よ。私は茨の道が好きなの」
我ながら変なこと言っているなぁ。
「はぁ?やめれるわけないだろ?何か?ならお前は物理聖女か。それが許されるなら俺が魔法士になっても許されるよな?」
勇者はキレた口調のまま言った。周りは布団が吹っ飛んだと言った後のように何とも言えない空気が充満している。私達は何を言い合っているのだろうか?
「それよりはHPタンクとして回復をお願いするわ。あと魔力と。とか言ってみるけどそもそも勇者要らんわ」
私は言った。かなり突き放している気がする。でも本当に勇者の役割はない。攻撃も防御も私1人で足りている。ロックさんは肉を焼くという役割があるからセーフ。
「それは酷くない?ねぇ。勇者だよ?強いんだよ?何言ってんの?」
勇者がキレながら笑っている。何してんの?わからない。いいや。思考放棄。
「勝負でもしてみます?」
私がそう持ちかけると
「おう。勇者要らんだとか言ったこと後悔させてやる」
と言って喜んでいる。強さを公開する事が好きみたいだね。まぁ。剣で私が負けるわけないんだけど。だって聖剣エクスカリバー持ってるし。
翌日、よく晴れた空の下勝負が始まった。もちろん魔法戦士オノ使いのロックさんも来ている。
「おっしゃ。行くぞー」
勇者は大音声をあげて突っ込んできた。私は焦ったが、まぁ、剣の力で簡単に受け流し、避けて、後ろ向きになっている勇者に向かって剣で切りつけた。
まあ、勇者の防御力は高いので問題は無いはずと私は思っていた。だから勇者がどさっと音を立てて倒れた時焦ってしまった。
「あ、あの。誰か回復をお願いします。聖女さんどこですか?」
焦りすぎて、聖女である事を忘れてしまった。あと物理で殴るのがデフォルトになったのも少なからず影響しているだろう。
「おーい。聖女なら勇者の横にいるだろ?君だよ君。ユリだよ」
ロックが言った。言われてから気付いた。そういえばこの数ヶ月、全然回復していなかった。地面の回復はずっとしてたけど。
「あ、そうじゃん。私聖女だった。そうだった」
こうして、私は回復魔法をかけた。普段の回復量なら起きて少し傷が残るかなぐらいの回復まではできるのだが、今回かける魔力を間違えたのか、勇者のHPが限界突破して回復してしまっている。
そういえば、HPは基本的に防御力と同じだ。今まで攻撃を受けたことも無く、ただ剣でバーサークしているだけだったので忘れていた。
「おま。えっ?HP増えてるんだけど?レベル上がってないし。えっ?はっ?何したん?500ぐらい増えてるけど」
勇者が混乱している。驚いてクエスチョンマークがたくさん出ているようだ。勇者の反応に私も戸惑う。
「えっと、回復魔法をかけただけなんだけど?」
私は言った。対して特別な事はしていない。普段から地面に回復魔法をかけながら歩いているだけだ。ちなみにこれを始めた理由は地面が回復魔法で治る事がわかったからだ。
「は?回復魔法って薬草と同じ回復量ぐらいで対して回復するもんじゃなくね?第1、なんで限界突破してんだよ」
勇者の口調がまた、強くなっている。驚いてエクスクラメーションマーク!がいっぱいついているようだ!!!。
「まぁ、そのはずだよね。まぁ、聖女で魔法学院首席卒業者だけどそんなに差が出るかねぇ」
私は、私で焦っている。普段地面に向かって回復魔法かけながら歩いているけど流石にそれは聞いてない。それが反映されたお婆さん口調だ。
「てか、えっ?聖女に剣で負けた?しかもめっちゃ重症?えっ?意味わからないんだけど」
勇者が驚いている。可愛いなぁと思いながら眺めている。私は最初から負けるわけないと思っていた。だってエクスカリバーだから。
「あ、まぁ、こいつそういう奴なんだ。なんか、ねぇ。うん。異常なんだ」
ロックが呆れたような、諦めたような口調で言った。
「ちなみに百戦無敗の俺も一撃で負けた。強すぎる聖女さんでした」
ロックが呆れたような諦めたような口調でまた呟いた。
「なるほど、だから、誇れることじゃんって言ったんだな?でも、おかしいだろ?明らかに呪われてるよね?その色」
勇者もなんか呪いとか言ってるけど、いい装備にはなんか代償あるの普通でしょ?という事で、こう返した。
「えっ?聖なる装備だよ?もちろん。だって黒いしカッコよく光ってるんだよ」
私は何がおかしいの?って感じで聞いた。かっこよく光ってるやつは聖なる装備だと聞いている。黒くかっこよく光ってるから聖なる装備だろう。
「いや、そのいろ。まあ、いいや。うん。知らない」
勇者が途中で諦めてしまった。この後どうなるんだろう。
「で、うちのパーティ入る?勇者を入れてあげても良いよ。男女カップル風のところに入れる勇気があるのなら」
私は入れる気がない事を少し仄かしながら言った。だって入ってもしばらく役割なさそうだもの。
「お願いします。入れてください。なんでもします」
勇者が意外に食いついて来たので仕方なく入れることにした。勇者は荷物持ちになった。
「なら、黒く光るカッコいい装備は私が貰うから」
もちろん。聖なる装備だよね。だってかっこいいし。
「あ、こいつこのシリーズコンプリート目指してるみたいだから」
ロックが言った。普段最強の肉焼きをしているロックさんが言うと面白いなぁ。だって装備いらなくない?肉焼くだけなら。
「あ、はい。ま、まあ。そうなりますよね。はぁ」
勇者はなんか色々諦めたようだった。勇者の役割が出る時はあるのだろうか?