第12話 勇者との決別
やっぱり勇者嫌い。だって、全然気持ちわかってないし、まあ、ロックさんが異常なだけなのは知ってるけども。でも、ねぇ。
とか、思いつつ、私は今歩いている。晴れた空の下、仲間たち4人と。勇者は昨日の事を怒っている。だって仲間だもんね。
「あれは、無いわ。風邪で倒れるとかマジ無いわ。しかも、途中で治ってたならすぐにでも出ればよかったじゃん」
勇者がぶーたれている。ぶたれているわけではない。不満や不平を言っている。
「あら、ごめんなさい。魔王討伐ってそんなに重要かしら。全ての国が手を組んで大軍勢で攻め込めば一瞬なんじゃ無いかな?もしくは革命的な兵器とか」
私は思った事が結構口に出やすいみたいだね。
「それをしたらその国の留守どうするの?留守は軍が守るから、勇者で倒しに行こうとするのが、国の戦略。魔王の遺産で稼いで、国費を賄ってしまおうって魂胆さ」
ロックさんの説、説得力あるけど。それ王国とかいろんな国とかえげつない事するなぁ。魔王の方がマシじゃない?
「それ酷く無い?どっちが簒奪者?魔王たおすためだからって何もかも許されたらダメじゃ無い?特に酷いの倒したあとだけど」
私が言った。というより口から滑り出た。
「それ、数ヶ月前まで地割れ起こしながら歩いてた聖女が言う?」
ロックが笑いながら言った。それに対して私も笑ってこう言った。
「あれは、そう、武器のせいだから。そんなにデブだったの?的な視線向けないで。それよりもデブでも地割れは起きないわよ。どんだけ脆いのよ」
凄く言い訳臭いが仕方ない。本人も最初気付かなかったし。攻撃力1000万倍あるからやばい。ちなみに、今は5センチ浮いているから問題ない、はず。うん。
別の問題がある気もするけど気にしないことにした。
さて、今日は何を食べようかな。昨日はドラゴンの唐揚げだった。何回も言うけど本当に美味しい。生姜マジで神。あとロックの火加減マジで本当の本当に神。
「お前、勝負しろ。お前が勝ったら好きにしろよ。俺はアンタとは合わんと思ってたんだ」
可愛い弟系勇者クロスは反抗期に入ったようだ。お腹が空いているのかしら。
「いいわ。私もあなたとは決着をつけたかったから。明日でいい?」
私は凄くニコニコしながら言った。
「いいよ。ぶっ潰してやる我が双剣で」
勇者が奮い立っている。
さて、翌日晴れ渡る空の下、私は勇者クロスと対峙している。お互い何も言わない。
沈黙を破ったのは勇者の掛け声だった。
「さーーーーーー!!!!」
勇者の双剣の連撃が襲ってくる。もちろん全て、剣で受け切っている。あぁ。楽しい。これが生きるって事なんだね。
私はキラキラしている。こうなんて言うか、あの、あれだよ。生命が輝いている感じがしている。
「私だって負けないわ。テェーーーーーい!」
私の声が空気を震わせている感じがしている。ちなみに姫の護衛はロックに任せた。あの人なら姫に手荒な真似はしないだろう。
勇者は双剣で受けたが、相応のダメージが剣にかかったようだ。もちろん魔剣マケンゼヨは強い。ここで、勇者が必殺技?を繰り出した。剣を持ってぐるぐると回転し、その風を使って空を飛んでいる。もちろん下に向かって剣を振り下ろしながら。
「魔剣、や剣、マケンゼヨ」
勇者の声と共に剣が襲ってくる。もちろん。受け流し、隙を見て胴に剣の峰を叩き込んだ。やっぱりいいわ。この攻撃力。癖になりそう。やめられない。止まらない。
「イッテー。そんなにくる?マジで?」
勇者は痛すぎたようでテンションが狂っている。
「で、どうするの?」
私が言った。ちょっと口調が強い。
「旅に出る」
勇者が言った。
「いや、あの。旅には出てるよね?」
私はツッコむ。もちろん笑いながら。
「強くなるために修行する」
勇者が言った。こうして勇者は一時的にパーティーを抜けた。
「また、帰っておいで。いつか、魔王城で」
私は大人の笑みでそう言った。
「おう。また、魔王城で」
勇者のそう言った顔が少し濡れていたのは涙だったのだろうか。
晴れた空が2人を照らす。
「おう。終わったか」
ロックが言った。
「勇者なら旅に出たわ」
私が言った。
「いや、俺ら旅してるからな」
ロックがツッコむ。
「勇者は修行するってさ。立派に、なってくれるわ」
私は大人の笑みで言った。
「そうね」
姫も上品な笑みでそう言った。
夜空が少し寂しそうに見えたのは、1人分の空白ができたからだろうか。