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幼女のお股がツルツルなので徳川幕府は滅亡するらしい  作者: マルクマ
第五幕 やんちゃな子猫は空を舞う
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茶番劇

 詮議が終わり、皆が三々五々に散っていく。


 座敷に最後まで残ったのは余三郎と愛姫だった。


「こ、此度は拙者の窮地を救って頂き、感謝の言葉もありませぬ! それに我が家での接待に不備があったことをお詫び――」


 平伏したまま謝罪の言葉を並べ始めた余三郎の後頭部を愛姫がポンと軽く叩いた。


「もうここには妾たちしかおらぬ。そのようなことは言わんでも良い。頭を上げてくれ叔父上」


「愛姫様……」


 ホッと息を吐いて頭を上げた余三郎の額と鼻の先にはくっきりと畳のあとがついていた。


 その滑稽な顔に愛姫はプッっと噴き出したが、すぐに笑い顔を引っ込めて優しく笑った。


「逆にすまなんだな叔父上、ひどい迷惑をかけてしもうた。もちろん妾が遊びに行った時にはあの薄い茶でかまわぬぞ。菊花が淹れてくれた茶ならばどんな銘茶よりも旨い」


「お……恐れ入ります」


 余三郎は再び深々と頭を下げた。


「ん? なんじゃ、その畏まった話し方は?」


 ポンと頭を叩いて顔を上げさせたら、余三郎は恐縮しきった顔で目を伏せた。


「あ、その……今までの話し方では愛姫様に対してご無礼だったかと……」


「そなた私の叔父上であろう、何を遠慮する事がある。それに前にも言うたであろう。そんなふうに話し方を改められたのでは……なんだか寂しいぞ。昨日までのように気軽に話してくれる叔父上のほうが妾は好きじゃ」


「そ、そうか? じゃぁこれまでのような感じでいいかな」


「そうじゃ、それが嬉しい」


 愛姫はそう言って花が咲くような自然さで本当に嬉しそうに笑った。




 意気揚々と大奥に戻った愛姫は母に『殿方の詮議の場に乱入するとは何事ですか!』と長々と叱られてしゅーんとなった後、ようやく自分の部屋に戻って一息ついた。


 それを見計らったように障子の向こうから声がかかった。


「愛姫様。お茶をお持ちしました」


「藤花か。入れ」


 障子戸をすらりと空けて入ってきたのは牛のように胸の大きい四十近くの年増(としま)の腰元。大奥で全ての腰元たちを束ねる『御年寄』という職についている者だ。


「今回は随分と長い外出でしたね」


 藤花は典雅な挙措で愛姫の前に茶を置いてから、やんわりとそう言った。


 藤花は愛姫に作法を教える役目も持つ師匠役でもあって、今こうして座っているだけでも、その所作(しょさ)には一分の隙もない。


「うむ、中々に楽しかったな。ちょっとばかり刺激が強すぎたが」


「地下での話を聞いたときには、私も少々肝が冷えましたよ」


「他人事のように言うものではない。元はと言えば、大奥に入り込んだあの二人を藤花が面白がって私に引き合わせたのが全ての始まりなのじゃからな。なにかあったら責任は叔父上以上に厳しいものになったじゃろう」


「私の事はいいんですよ、姫様さえ無事ならば」


 強がるふうでもなく自然に言う藤花の様子から、彼女が本心からそう思っているのは間違いなさそうだし、幼い頃から自分の世話をしてくれている藤花の人柄をよく知っているからこそ愛姫は彼女の言葉を疑おうという気にもならなかった。


「藤花、そういえば叔父上のところでおまえの娘と()うたぞ」


「菊花からも聞いております。自分が草だということをすぐに見破った姫に驚いていましたわ」


「うふふふ。そうか、驚いておったか。あやつは藤花に似て大層艶っぽい人じゃったな。機転も利くし、ちょっとしたところで恐いところもある。そういうところはやはり母親のおぬしにに似ておるな。良い意味で腹黒そうなところなんかそっくりじゃ」


「うちの子なんてまだまだ半人前。もっとうまく演技をして意のままに人をあしらう事が出来ないと、良い女にはなれません」


「無茶を言うのう、藤花に比べたら誰でも半人前じゃろ?」


「あらあら、そうですかね?」


「そうじゃ。私もいつかはそれくらい自然に演技が出来ればいいと思う」


「そういえば先ほどの演技はなかなかよろしかったですよ」


「先ほどの演技?」


「余三郎さんを加増させるためにわざと茶に文句を付ける話の進め方はお見事でした」


「……見ておったのか」


 愛姫は全てを藤花に看破(かんぱ)されていたのだと知って恥ずかしくなり、ほんのりと赤く染まった顔を伏せて上目遣いになりながら尋ねた。


「それで、妾は上手く演じられてたかの?」


 藤花は「えぇ、それはもう」と頷きながらころころと笑った。


「お茶の話だけに、これぞまさしく茶番劇! って感じでしたわ」


「う、うるさい!」


 愛姫が投げつけた扇子を藤花は難なく躱して、格が違うとばかりにまたころころと笑った。

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