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幼女のお股がツルツルなので徳川幕府は滅亡するらしい  作者: マルクマ
第五幕 やんちゃな子猫は空を舞う
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お江戸の町は大騒ぎ 2

 日本橋を渡って瓶底寺へと疾走する五人の侍。『しくじり与力』こと北町奉行所の五人の与力たちだ。


 バタバタと袴を鳴らし土煙を巻いて駆けている。その見かけだけは随分と勇ましいものだが、橋を一つ渡っただけでその額にはすでに薄っすらと汗がにじんでいた。


 普段からどれだけ動いてないのかの証明みたいなものだが、そもそも普段の彼らなら、


「あ痛たたた! 横腹が痛ぉなってきた! どうやら拙者はここまでのようでござる。拙者には構わず先に行って下され!」


 ――と、とにかく少しでも働かなくていいように仮病やら何やらで口実を作って任務から離れるところである。


 しかし、今回は違う。


 居場所がほぼ確定している将軍の一人娘を保護するだけの簡単なお仕事だ。


 かける労力に対して対価が巨大という『棚から牡丹餅』の言葉がそのまま当て嵌まる美味しい仕事。


 これは他の誰にも譲れない。むしろ他の四人を出し抜いてでも功績を独り占めにしたいくらいだ。


 それならば最初から真面目に愛姫捜索をしていれば良かったのでは? という疑問が当然のように浮かぶところだが、それはそれ。居場所を見つけるまでが面倒だったのだ。


 別の例えで言うなら、柿の木に美味しそうな実が成っていても実のある場所まで木登りするのが面倒で、そうするよりも実が熟してもうじき枝から落ちそうになっている状態のその下で「あーん」と口を開けて待っているのが良いのだ。


 心の腐り具合も基礎体力もほとんど差の無いしくじり与力たちが横一列になって走っていると、急に彼らの前に飛び出してきた一団があった。


「うおっ!? 危なっ!」


 最も右側を走っていた小磯とその集団がぶつかりそうになって、なんとか避けた。


「どこに目をつけてやがる!」


 慌てて足を止めた小磯。それを見ても他の四人は全力で走り続ける。


 仲間を待つどころか、足を止めた小磯を見て皆ニヤリと口角を持ち上げてほくそ笑んでいた。


「くっ、しくじった! せめて隣を走っていた糸川くらい巻き込んでやるんだった!」


 見捨てた四人もクズなら、見捨てられた小磯も同じくクズである。


 こんなところで脱落してなるものかと再び走り出そうとした小磯に、飛び出してきた男が両手を広げて抱きついてきた。


「お侍様、助けてくだせぇ!」


「なっ!?」


 邪魔するな! と小磯が怒鳴る前に、ガリガリに痩せ細った男は渾身の力を振り絞って小磯にしがみついて鬼気迫る迫力で助けを求めた。


「オ、オラ騙されて、奴隷として働かされて、に、逃げてきたんグェホッ!」


 暫く声を出していなかったのか、嗄れた声で懸命に助けを求めていた男は激しく咽る。


 咽て咳が止まらなくなった男に代わって、その後ろにいた男が言葉を継いだ。その者も先の男と同じように痩せていて、小汚く、体全体から悪臭を放っている。


『こいつらは……どこから来たんだ?』


 小磯は(いぶか)しんだ。


 ここは日本橋。夜の吉原には及ばないものの、昼間のお江戸では一番賑わいがあるところで、蔵に黄金が唸っている大きな商家と、羽振りの良い金持ちが集まる場所である。ここを通る者は総じて身なりが良い。


 なのにこの男はどうだ。着ている物はボロボロで、全身が砂埃にまみれ、髪は汚れと皮脂でゴワゴワに固まっている。ここらを徘徊する浮浪者のほうがもっとマシな恰好をしているくらいだ。


「助けてくだせぇお侍様。おいらたちは――」


 未だ苦しそうに咽込んでいる男と違い、まだ多少は理性の残っているその男は小磯の腰に大小の刀と別に十手が挟まっているのを見て言い方を変えた。


「同心の旦那、でけぇ手柄を立てる好機ですぜ。お江戸開府以来の大手柄だ」


「……なに?」


 それは囁くような小声だったにも関わらず、半町ほども先を疾走していた他の四人の足がピタリと止まるほどに美味しそうな話だった。


「天下の将軍様に対して謀反を企ててる奴がいるんでさぁ。おいらたちはそのための地下道を掘らされてて、たった今そこから逃げてきたところで……」


「将軍様に対して謀反……だと?」


 語られた話があまりにも大きくて小磯は鼻白んだ。


 一文の元手もない浮浪者が荒唐無稽(こうとうむけい)法螺(ほら)話で役人を騙して小銭を稼ぐという話はよくある話だ。話の規模から察するに、この男がこれから話すのも同じ類の話なのかもしれない。


 しかし、この男が吐き出す言葉には妙な迫力と真実味があった。


 小銭稼ぎの法螺話をするにしては『役作り』が出来過ぎている。


 男は浮浪者のように痩せていたが浮浪者の手ではなかった。


 男の掌は黒く、厚く、皮膚は何度もマメが潰れてひび割れている。過酷な労働を強いられていた奴隷の手だ。


 小磯は目の前の男を信じるかどうか迷ったが、その迷いすらすぐに無意味なものになった。


 男の話が真実であることを証明するように、同じような恰好の男が後から後からぞろぞろと追いついて来てその数は既に二十人近くまで増えている。


 その誰もが痩せ細り、何かに怯えるように目はオドオドとして定まりが無く、しきりに後ろを警戒している。


 繁華な通りに突然出現したあまりにも奇異な恰好の集団。それを通行人たちが足を止めて遠巻きに見ている。


 そこらの浮浪者よりも汚い恰好をした男たちは一人二人でも相当臭いのに、これだけの人数が揃うと鼻が溶けそうなほどの激臭を発していた。


 彼らを囲むように集まっている野次馬たちは自分の意思で足を止めているはずのに、どこぞの女中らしい女は鼻を袖で覆って迷惑そうに顔を顰めている。


 臭い。堪らなく臭い。けれど小磯はニマリと笑う。


 手柄的な意味で美味しそうな匂いがプンプンと漂ってきたからだ。


「よし、すぐそこに浜町(はまちょう)の番屋がある。そこで詳しく聞こうではないか」

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