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幼女のお股がツルツルなので徳川幕府は滅亡するらしい  作者: マルクマ
第五幕 やんちゃな子猫は空を舞う
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お江戸の町は大騒ぎ 1

 ―― 少し時を遡る ――


 日本橋の大通り。五人の侍が商家の軒下にある山型に積まれた火消し桶の陰で頭を寄せて話し合っていた。


「おい、いたか?」


「いや、昼前に日本橋で見かけたってのが最後の情報だ」


「猫柳の(ちち)べん……菊花殿も一緒だったらしいが?」


「猫柳の乳弁天(ちちべんてん)が姫様たちと一緒にいたのは僅かな間だけだったらしい。子供四人と別れているところを見た奴がいる」


「貴殿、わしがわざわざ菊花殿と言い直したのにするっと乳弁天て言うな」


「すまぬ。しかしそのほうが通りがよいであろう?」


「まぁな」


 この侍らは北町奉行天野の内与力(うちよりき)の五人で、町人たちの間では『しくじり与力』と呼ばれている面々だ。


「これで我らが愛姫を保護できなければ、天野殿はお役御免でござろうな……」


「お? すると我らの内の誰かが次の奉行になるのか?」


「嬉しそうに言うな。我らのような中の上程度の家柄の者が奉行職に就けるわけがなかろう。そもそも我らは天野様と一緒に北町奉行配属となった天野様の内与力。天野様がお役御免となれば、最悪の場合我らも連座で役目を解かれるやもしれぬ。幸いにそうならなかったとしても、どこぞの名家出身の坊ちゃんが新しく我らの上に立つことになるだろう」


「むむ……。そうなれば真面目に仕事をする堅物(かたぶつ)がやって来るかもしれぬなぁ。いや、むしろそれが常道じゃろう。天野様のような(ゆる)ぅ~い上司にもう一度当たろうなんて、それこそ奇跡を望むようなものじゃ」


「わ、わしは嫌じゃぞ。今のようにダルダルで緩みきった奉行所の空気がピリッと引き締まるところなんて見とぉない。天野様のように口ではキツイことを言っても謝ればすぐに許してくれる。そんな甘々(あまあま)な上司がわしは大好きなのじゃ」


「それはわしらも一緒だ。奉行所全体に漂う緩ぅ~い空気で適当に仕事をするフリをして、たまに失態をやらかしても『へへーっ』って土下座するだけで許してもらえる。そんな自堕落な今の職場環境を守るために、ここはちょいと頑張らなければいかん場面じゃ」


「そうじゃな。……では、そろそろわしらも本気を出すとするかのう」


「うむ。今こそ本気を出す時じゃ」


「ふっ、ついにこの時が来たか……」


「封印せし我らの力を解放するときか……ふっふっふっ」


「いや、だからな? いつもの言葉遊びじゃのぉて、今日だけは真面目に基本通りの仕事をしようって言ってるのじゃが?」


「おぉ、すまんすまん。つい普段のノリになってしもうた」


「しかし基本通りといっても基本の仕事とはどうするんじゃったかな? 久しぶりすぎて忘れてしもうたのじゃが」


「そりゃあ、おめぇ……あれだ、ほら、な?」


「な? じゃねぇよ。おめぇも忘れてるんじゃないか。俺たち与力だぞ。それぞれの配下の岡っ引きが持ってきた情報を吟味して目標の手がかりを――」


 五人組で一番まともに近い感じの小磯が仲間に向かって与力の仕事について講釈を垂れようとしていたが、その言葉は突然止まった。


「……ん? どうした小磯殿」


「いや、わしの配下は全員牢にぶち込んだままじゃった。こないだ姫の居場所を探るとかなんとかと理由をつけて高級料亭で自分たちが飲み食いした経費を奉行所に払わせようとした奴らの事を覚えておるか? わしの配下はあれ以来ずっと牢屋の住人じゃ」


「あー、そういえばそういうことがあったの。なんだ、まだ牢から出してなかったのかい」


「つい、うっかり」


 てへっ。と舌を出す四十代手前の中年侍。もちろん可愛くはない。


「そういえば、わしの配下の岡っ引どもはちゃんと仕事をしておるのかのう。最近顔を見ておらんから気になってきたわい」


 四つ辻の端に寄ってボソボソと話し合っていると可憐な少年が通り過ぎ、その後ろをあからさまに怪しい気配を漂わせている十手(じって)持ちの男がフラフラと追っていく。


「おい、今のは曽田殿のとこの岡っ引きじゃないか? 曽田殿、言っちゃあなんだがアレをあのまま放置していいのか? あいつはいずれ何かやらかす感じだぞ」


「うむ、わしも今あいつの様子を見て背筋がゾッとした。やらかす前に取っ捕まえたほうが世のためじゃな」


 そう言って歩き出した曽田に残りの四人がぞろぞろとついて行く。


「おい、正太隙(しょうたすき)。お前は仕事もせずに何をしておるんだ」


 朝からずっと蘭助の背中を追いかけて、そろそろ声を掛けようかと気持ちを(たかぶ)らせていた岡っ引きは、思いがけず自分の方が背中から声を掛けられて大いに驚いた。


「ひゃ!? へ? あ、これはこれは曽田様。あぁ、同心の皆様もお揃いで……、いえ、その、あっしはきちんと仕事をしておりますれば、今も尾行の最中で……」


 正太隙は浅黒い肌に汗を浮かせて反射的に逃げようとしたが、すかさず他の同心たちにぐるりと囲まれていて逃げる隙が与えられなかった。


「ふ~ん? で、尾行をする相手がどうして少年なんだい? ん? 我らが今探しているのは愛姫。女児なんじゃが? あまりふざけたことを言っておると、わしの権限でお前を一生牢屋住まいにすることだってできるんだぞ? ん? わかっておるのか? ん?」


 曽田は腰から鞘つきのまま引き抜いた刀のこじりで正太隙の胸をぐりぐりと突っついた。


「で、ですが曽田様、あの少年蘭助は似せ絵の姫君よりも格段に美しく可愛らしのですぞ。いうなれば少年蘭助こそこの国の宝であって、あっしはそんな宝が誰ぞ不逞(ふてい)(やから)(けが)されぬようにと、昼夜問わずに監視と警護を自主的に――あ痛っ!」


 もう正太隙の話は聞く必要が無いと判断した曽田は鞘つきの刀で彼の太ももを打った。


「そう言うおまえが不逞の輩の筆頭候補じゃわ! そもそも美しいとか可愛いとかは関係ないからな? おまえがわしの言いつけ通りの仕事をしているかどうかが問題なんだからな? 今わしらが探しているのは愛姫と、姫と行動を共にしているとみられる猫柳の幼女どもだ。……なんだ、そのポカンとした顔は。今探している相手も知らずにお前は朝から町中をチョロチョロしておったのか」


「あ、いえ……猫柳の幼女たちなら先ほどあっしの蘭助きゅんと話をしておりましたが」


「なん……だと!?」


 同心五人の目が同時にくわっと見開かれる。


「それはいつの話だ!?」


「あれからまだ半刻も経っておりません。えぇ、狐屋の若旦那も一緒に伝試練寺で猫をとっ捕まえる話をしておりましたが――」


「正太隙、おまえはこのことを御奉行に直接申し上げろ! わしらは先に伝試練寺に行く!」


 五人は一斉に駆け出した。

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