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幼女のお股がツルツルなので徳川幕府は滅亡するらしい  作者: マルクマ
第四幕 みんなが子猫を探して上や下への大騒ぎ
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土州 2

 これまでか! とばかりに余三郎は顔を引きつらせた。しかし――、


「だ、誰も居やしませんぜ旦那」


 意外にも元飴売りの男は土州にそう答えた。


「誰もおらん? 嘘やねぇろうな?」


「本当でさぁ。そりゃもう天地神明に誓って、へい」


 手を伸ばせば互いの肩に触れられるくらいの至近距離にいながら男は余三郎から顔を逸らして堂々と生真面目な顔で嘘を吐いた。


「ほうか。じゃが、やっぱりその辺りから人の気配がしちゅぅんじゃがのぅ……」


 土州が首をかしげている隙に男は余三郎と視線を合わせないまま、出来るだけ口を動かさないようにしつつ小声で余三郎に話しかけた。


「おい小僧、どこから入り込んだか知らねぇが助けを呼んで来てくれんか。わしらは騙されてここに連れてこられて、無理やり働かされて――」


「状況はなんとなく察している。とにかく番屋に知らせればいいんだな?」


 緊迫した状況だからこそ余三郎は余計な質問は挟まずに端的に訊き返した。


「あぁ、頼む」


「普通であれば捕り方を連れてくるまでに一刻(二時間)ほどだろうが、わしのような若輩者の注進で岡っ引きたちがすぐに動いてくれるとは思えぬ。少し時間が余計にかかるが確実に捕り方を連れてこれるよう手を回すので……そうだな、半日ほど焦らずに待っていてくれ。……ま、わしがここを無事に出ることが出来たらの話だが」


 年若いくせに理路整然とした返事をする余三郎に対して男は驚いて目を大きくしたが「お前さんはデキる奴だね。この分なら任せて安心だよ」と口元を綻ばせた。


「おーい。もう一度確認するんじゃが、おんしぁさっき『天地神明に誓うて』ちゅうたな? そこに誰もおらへんと」


 大岩の横に留まっていた男に土州が再び声を掛けた。


「へ、へい! 誰も居りませんぜ旦那!」


「じゃあ訊くがの」


「へい」


「おはんの足元にある松明が、おはんの影と、岩の後に隠れちゅう奴の影を長々と照らい出しちょるんじゃが、それについておはんはどういう言い訳をしてくれるんじゃ?」


 余三郎と男はハッと気が付いて自分たちの足元を見た。


 すると土州が指摘した通り、地面に落ちている松明が二人の陰をはっきりと映し出して、石筍の原に影絵のような形を現していた。


「ちゃっちゃっちゃっ、笑えるのぅ。大体のぅ、天地神明に誓ってなどと大仰に言う奴ほど嘘を吐くってぇのは世の(つね)ぜよ」


 土州は壁からもう一本松明を引き抜くと、大きく振りかぶって投げつけた。


「おらあっ! そこの奴もいつまで隠れちょるつもりじゃ!」


 土州が投げた二本目の松明は余三郎が隠れている大岩の真上に当たって火の粉を撒き散らしながら余三郎の真横に落ちる。


「うわちっ!?」


 頭にかかった大量の火の粉を払いながら余三郎が岩陰から飛び出た。


「なんや、小僧やねぇか」


 土州は体を揺らしながら悠然と石筍地帯に足を踏み入れて来た。裸足かわらじ履きの足ならザクザクと刺さる小さな石筍だが、高下駄を履いている土州にとっては少々歩きにくい程度の障害でしかない。


「やばい! あの野郎、平気でこっちに来やがるぞ」


 足に血を滲ませている元飴売りは焦りながらも悔しそうに口を歪ませている。


 平気で、とは言ったがやはり高下駄を履いていても石筍地帯を歩くのは難儀らしく、こちらに向かって来る速度は遅い。


「おっさん、猫みたいに四つ足になれ、この姿勢で移動すればけっこうイケるぞ」


 あの剣客と戦うという選択肢を最初から放棄している余三郎は一瞬も迷うことなく尻を高々と上げて得意の四つ足になった。


「おっさん言うな。わしはまだ三十路前だぞ。それにわしの名前は甘蔵(あまぞう)ってんだ」


 そう反論しつつ元飴売りもぺたんと地面に手を着いて四つん這いになる。


「で、四つん這いでどこに逃げようってんだ!?」


 元飴売りの甘蔵もあの剣客とまともに戦うなんて思案の外の事らしく、最初から逃げの姿勢に入っている。


「それは――」


 余三郎は甘蔵の問いに対してすぐには言葉を返せなかった。


 さっきも考えたことだが、あの男に見つかってしまった状況では地上へ戻る道を逆走することはできない。どんなに早く移動して土州を引き離しても、彼が大声を上げて経文堂の扉を閉じさせたらそれでもう『袋のネズミ』なのだ。


「ぶなぁぁーう」


 逃亡する先を見つけられないで焦っている余三郎たちの横でデカい毛玉のような猫がまた変な声で鳴いた。


 人間たちが殺気立っているのを感じたのだろう。猫とは思えないほどの遅さでノソノソと離れてゆく。


「そうだ! あの猫だ。あの猫の後をつけていこう!」


 逃げる方向を決めあぐねていた余三郎は猫の後を追うことにした。


 四足歩行に慣れていない甘蔵も余三郎に続く。しかし、どうして猫の後をつけていくのかが分からない。


「おい、なんで猫を追うんだい!?」


「わしは瓶底寺の経文堂から梯子を降りてここに来た。きっとあんたらもそうだろう?」


 甘蔵はしきりに後ろに振り返っては、追って来る土州との距離を気にしながら「そうだ」と返す。


「あんなに丸々と太った猫が垂直に掛かっている梯子を使えるはずはない。もちろんわしが連れて来たわけでもないし、あの剣客の反応からもここの番人たちが飼っている猫でもない。きっとあの猫はどこぞからここに紛れ込んだノラ猫。つまり、あの猫が逃げていくのを追跡すれば経文堂とは別の出口に出られる可能性が高い!」


「なるほど! 言われてみればその通りだ」

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