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幼女のお股がツルツルなので徳川幕府は滅亡するらしい  作者: マルクマ
第四幕 みんなが子猫を探して上や下への大騒ぎ
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本物を知って偽物と気づく

 井戸を降りて横穴の通路を進み、錆びついた扉を抜けて、ようやく鍾乳洞に出た風花は、目の前の風景を見て眉を寄せた。


「どうしました? 姐さん」


「ここはあたしらが穴を掘らせている所と繋がっているのかと思ってな」


「どうでしょうねぇ。瓶底寺から入れるほうの鍾乳洞は隅々まで全部調べたんですよね?」


「そりゃ調べたさ。しかし、これだけ巨大な鍾乳洞の中だと、どこでどう繋がっていているかなんて全部は把握しきれねぇよ。行き止まりに見えても、足元の水たまりの中をちょいと潜れば別の経路に出る可能性だって十分にあるんだからね」


 提灯を持って雷蔵の足跡を辿る小猿。その後ろを二人は小声で喋りながら歩いている。


「瓶底寺からの地下道は姐さんが見つけたので?」


「いいや、あの路を見つけたのは――んんっ、とある有力者なんだが……」


 風花は自分しか知らない雇用主の名をうっかり言いかけて言葉を濁した。


「その御方は江戸城には城外に脱出するための『秘密の抜け路』があるという話を掴んできて、ならばその抜け路を逆に使えば城の外から城の中枢部へ易々と入り込むことが出来るはずだと考えた」


「確かに」


「昔、稲葉山城を乗っ取った竹中半兵衛の例にあるように、いくら難攻不落の城であっても一握りの人数で内部から攻めれば城取りなど造作もない……と、あの御方は偉そうな顔をして言っていたが、んなこたぁあたしにはどうでもいいことでね。要はこれが金になるかどうかさ」


「さすがです」


 普段それほど感情を(かお)に出さない佐吉が珍しくニヤリとした。


「で、あの御方は僅かな手がかりを元に地道に調査を続けて、半年後ついに瓶底寺で地下へ潜る縦穴を見つけてあの鍾乳洞に至ったわけだが、残念ながら――」


「残念ながら発見した鍾乳洞は江戸城にまで届いていなかった。と」


「そうさ。瓶底寺から城の方に向かって鍾乳洞は伸びちゃいたが、江戸城に半分ほど近づいたところで行き止まりになっていたんだよ。江戸の真下にこんな大穴があるなんて大発見だがね、あの御方が求めていたものじゃなかった。結局『秘密の抜け路』って話は誰かがでっちあげたホラ話だったんだよ」


「そのホラ話にまんまと乗せられたってわけですかい」


「まぁな。だがあの御方はそれで諦めたりしなかった。途中で道が途切れているのなら残りを自分で掘ればいい。ってな」


「しつこい男ですね。いや、執念と言った方がいいんですかね」


 風花はフッと鼻で笑った。


「ともかくあたしはあの御方の執念に付き合っているわけさ。あたしが人を手配して穴を掘り始めて一年半。それまでに貰った報酬を合算すると軽く千両を越えている。前の親分のところを出て独り立ちしたばかりのあたしにはいい金蔓(かねづる)だったよ。それなのに、だ」


 風花は忌々しそうに足元の砂を蹴った。薄く積もっっていた砂の層が飛ばされて、その下から平らな石畳の肌が露出する。瓶底寺のほうにはこんな石畳で舗装された道なんて無かった。明らかにこちらの造りの方が金と手間がかかっている。


「あと二、三日もすれば本丸の真下に届くところまできてたんだ。ところが今日になってこんな場所を見つけちまった。おそらくここが江戸城の本丸に直通の本物の『秘密の抜け路』なんだよ。その証拠に現将軍の娘がここを通っている」


「じゃあ、瓶底寺の方の地下道は何だったんですかね?」


「単純に偽物だったってことだろう」


「あんな規模での偽物ですか? 随分と豪勢な偽物を用意したもんですね」


「あぁ、だからこそあたしらは騙されたんだ。まさかこんな規模の別の道が他にあるなんて思いもしなかったよ。ホラ話だと思っていた『秘密の抜け路』が本当にあったなんて……悔しくてしょうがねぇ!」


 本気で悔しそうにしている風花を横目で見ながら佐吉は奇妙な可笑しみを感じた。


「なるほど。……これを考えた奴はかなりの切れ者ですね」


「あ? どういうことだ」


 風花は意味が分からずに無言で眉を寄せた。


「本物の抜け路をどんなに用心して秘匿していても抜け路を探している奴が諦めない限り最終的にいつかは見つけてしまいますよね」


「まぁ、探している方が抜け路を見つけるまでずっと諦めなかったら、いずれそうなろうだろうな」


「ですよね。だから見つけられないようにするには、探索者をあの偽物の通路へ行きつくように仕向けて『抜け路があるって噂はホラ話だった、探すだけ無駄だった』と思わせて、抜け路を探す行為そのものを諦めさせた方がいいんです。これは人の心理を良く理解した隠ぺい方法ですよ。こんなことを考えたのはいったい誰なんでしょうね? 相当な切れ者ですよ」


「さぁな。ただ、その切れ者とやらの誤算だったのは、偽物を掴まされたあの御方の心が折れなかった事だ。偽物だったあの抜け路を掘り進めて本物に作り替えてしまえばいいって発想は、単純だが中々実行できるものじゃないよ。あの御方は城を丸ごと水没させた太閤秀吉様のように胆力のある御仁なのさ」


 風花はまるで自慢するように雇い主の気宇(きう)の大きさを語った。


「へぇ? じゃあ、姐さんの後ろ盾になってるその御方はこの路の存在を知ったらどういう反応をするでしょうね。今までの投資が無駄になったと落胆するんでしょうか。それとも本物を見つけたことを喜ぶでしょうか」


「さぁな。どちらにしても穴掘り事業はこれで終わりだ。……チッ、今朝から面倒なことばかりが続くよ。今日のあたしぁ運に見放されているのかねぇ。それとも、これから殺ろうとしている姫さんの方の運がめちゃくちゃ強いのか……」


「本当に姫さんの運が強いのなら最初から我らに狙われることにはならないでしょう。あたしはあまり運ってぇものを信じちゃいないんですが、もし本当に運の力というものがあるのなら、あの姫さんは剛運を持つ者と出会ったのかもしれませんねぇ。このままだと死んでいたはずの運命を変えるほどの運を持った誰かと」


「死の運命を変えるほどの剛運……か。まるで福の神みたいだな。一体どんな奴だろうね」


 二人だけの会話がずっと続いていたことが不満だったのか、先を歩いていた小猿が振り返って会話に加わった。


「まぁ、どちらにしても日頃から良いことなんて微塵もしていないあっしらに良い運が回ってくるとは思えないですがねぇ。ひっひっひっひっ」


「いいからおまえは黙って自分の仕事をしてな」


 すぐさま風花の煙管で頭を打たれた小猿は「ひでぇや姐さん」とぶちぶち文句を言いながらも足を早めて再び愛姫たちの足跡を追い始めた。

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