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幼女のお股がツルツルなので徳川幕府は滅亡するらしい  作者: マルクマ
第三幕 子猫はもっと遊びたい
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晩飯時は乱世でござる 2

「と、ともかく、今日はほとんど見て回ることが出来なかった。そして梵貞寺周辺には暫くわしは近づけなくなったので他のところを探るしかないのだが、わしはやはり梵貞寺が怪しいとみている。そこでだ――」


 余三郎は百合丸と霧に目を据えた。


「明日はお前たちにも秘密の抜け路を探してもらうぞ。特にわしが近づけない梵貞寺周辺をじゃ」


「それは良いのでござるが、拙者たちは明日先約の用事があるのでござる」


「先約の用事?」


「町人の子と猫探しをする約束をしたのでござる」


「おまっ、当主のわしの命が懸かっておるこの一大事と猫探しを同列に比べて、しかも先約だからとて猫探しを優先するとは何事だ。というか危機感無さすぎじゃろ! このままグダグダしてたら、わしは打ち首ぞ!?」


「でも、猫を見つけたら一人一分(いちぶ)貰える。とても美味しい仕事。なの」


「……一分だと?」


 怒髪天を()く勢いで憤慨(ふんがい)していた余三郎だが、お金の話になった途端にスッと真顔になった。


「目標の猫を捕獲したら一両貰えるお仕事に霧たち三人が割り込んだ。成功報酬で一人一分貰えるという条件を承諾させた、なの」


「な、なんという策士だ!」


「明日も杵柄神社を起点にして猫探しをするようでござるから、猫探しをしながら梵貞寺のほうも探せばようござらぬか? うまくいけば抜け路と猫の両方を見つけられるかもしれぬ」


「そうすれば、殿の命は安心安全。霧たちの懐も温かくなってみんな幸せ、なの」


「おおっ! それは見事な策だな!」


 さっきまでの怒りはどこへやら、余三郎はキラキラと目を輝かせて百合丸たちと明日の手順を話し始めた。


 そんな猫柳家の主従を少し離れた位置から生暖かい目で眺めていた愛姫は、同じように三人から距離を取っていた菊花にそっと話しかけた。


「叔父上たちはこうして見ているだけでも楽しくなってくるのぅ。いつもこんな調子なのかえ?」


「そうですわね。いつもこんな感じですわ。うふふふふ」


「ところで菊花、妾の母上は何か言っておったか?」


「……さて、なんのことでしょう?」


 菊花は顔を微笑で固めたまま余三郎たちから視線を動かさずに訊き返した。


 それに対して愛姫はふふっと笑うと扇を口元に当てて余三郎たちには聞こえないように小声で話し始めた。


「とぼけるな。父上は知らぬ事じゃが母上は次期将軍の候補に成り得る叔父たちの家全てに手の者を潜ませていると聞いておる。じゃが、この猫柳家にいるのは出自の確かな子供ばかり。草(潜入工作員)に成りえる唯一の大人は……」


「私だけ、ですわね。流石でございます姫様」


 菊花は余三郎たちに気取られぬよう全く口を動かさずに答えた。


「昨日『そなたのお役目はなんなのじゃ?』と訊くことで、遠回しに『そなたの本当の役目に気付いているぞ』と伝えたというに、乳母(うば)じゃと(とぼけ)けおってからに……」


「あれはそういう意味でしたか。察せずに失礼しました」


 どうやら愛姫の問い方が遠回し過ぎて菊花に本意が伝わらなかったらしい。


「まぁ、良いわ。それで母上はなんと言うておった? いずれ別の者から妾に知らせが来る手筈(てはず)なのであろうが、一番近くにいる菊花に聞いた方が面倒が無くて早かろう」


「『上様の狼狽(うろた)えっぷりが楽しいのでもう少し城下にいて良い』と仰っていたそうです。『時期を見て迎えの駕籠(かご)を差し向ける』と」


 そうか。と答えながら愛姫は余三郎たちを見つめた。


 別に余三郎があれこれと手を尽くさなくても愛姫が大奥に帰れることは確定している。


 余三郎はそれを知らずに百合丸たちと頭を寄せ合ってどのような手順で抜け路探しと猫探しを並行して行うかを真剣に話し合っていた。


 愛姫はそんな彼らを見ているうちにチクチクと心を刺す罪悪感と、肌寒いような疎外感を覚えて「しかし……」と菊花にだけ聞こえるように小さく愚痴るように呟いた。


「いくら百合丸たちの手引きがあったとはいえ、妾がすんなり大奥を出られたことを叔父上が少しでも疑問に思えば今回の件の裏がいろいろと見えたであろうに、叔父上は妾の話を頭から丸ごと信じてしまっておる。……まったく、ああいう素直すぎる性格は旗本家の主としてどうなのじゃろうな。妾から見ればひどく危うく思えてしまうぞ」


「姫様、お言葉ですが殿はあれでいいのですよ。将軍様のように多くの大名の上に立つ身であればあの素直さは確かに困りものですけれど、今の殿はどう足掻いても将軍にはなれない臣籍の身分に落ちていますからね。そのような立ち位置に居りながら目端の利いた男に育って下手な野心を抱くより、『猫柳余三郎』という少年はずっとある種の幼さを残したまま真っ直ぐ育ってくれたほうが良いのです。それに、殿のあの素直さこそが――」


 菊花はそこでくすっと含み笑いをして言葉を止めた。


「あの素直さこそが? 何じゃというのだ」


「あの素直さこそが殿の可愛らしいところだと思います。私はそんな殿が大好きなのですよ」


「おや? おぬし、本気で叔父上を好いておるのか」


「実はそうなんです。……みんなには内緒ですよ?」


 菊花はここで初めて愛姫と目を合わせてお互いに「うふふふふ」と笑い合った。

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