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幼女のお股がツルツルなので徳川幕府は滅亡するらしい  作者: マルクマ
第三幕 子猫はもっと遊びたい
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子猫たちは猫探しを始める 4

 大量にあった飴を四人で半分ほどに減らした頃になって、青太郎は沈みかけた夕日を見ながら思いだした。


「ああっ、猫探しをするのをすっかり忘れていた! ……しかたがない。続きは明日にするか」


「なんじゃ、とっくに猫探しをやめたのかと思っておったのに、まだ諦めておらんだのか?」


「当たり前だよ、久しぶりに私でも出来そうな仕事なんだ。店の者を見返すためにもちゃんと見つけてみせるよ」


 ぐっと胸の前で拳を作る青太郎の真剣な横顔に、三人の少女は、


『あぁ、奉公しているお店でもかなり評価が低いんだろうな……』


 と、推測した。そして想像した。


 おそらくどこぞの商家で丁稚奉公している青太郎。長年自分なりに働いてきたが、見るからに気働きが出来そうにもない要領の悪さでいつまで経っても丁稚から手代への昇格が叶わない。そして『このままではいけない』と一念発起して今の自分でも出来そうな仕事をやり遂げて、店の者を見返そうとしている。


 ――おそらく、こういう流れなのだろう。


 そう考えると、三人はなんだかこの間抜けそうな男の子が段々と可哀想になってきて、何か手助けができないだろうか……という気になってきた。


「なんだい、お前さんたち。私を見る目つきが妙に優しくなって……気味が悪いぞ」


「いやなに、おぬしなりにこの猫探しは真剣なのじゃなと思ってな。しかたがない、明日は朝から猫探しを手伝ってやろう。待ち合わせはここで良いかの?」


「なに? 本当に手伝ってくれるのか」


 愛姫からの思いがけない申し出に青太郎がきょとんとする。


「嘘を言ってどうするのじゃ。こういった捜し物には人手が多い方が良いじゃろ?」


 屈託のない笑顔を向けられて、青太郎は一瞬呼吸が止まりそうになった。


「ま、まぁ、そうなんだけどさ……。ここで人手が増えるのは確かに有り難いね。私が何かしようとしてもね、店の者さえ誰も手伝ってくれぬのだ。……良い奴だなお前」


 青太郎の告白を聞いて『あぁ、やっぱり店の仲間にも見下されているダメな丁稚なんだな』と、さっきまでの想像を確信に変えた三人だった。


「よし、お愛ちゃんがそうするというのなら拙者も同行するでござるよ」


「なんだい、武士っ()も来るのかい?」


「武士っ娘言うな。我が名は百合丸でござる」


「霧もする。面白そう、なの」


「面白そうって遊びじゃないんだよ、ちびっ子」


 話が妙な方向に転がりだしたことに多少面食らったものの、単純に人手があったほうが猫を見つけやすくなるのは道理なので、結局お願いすることにした。


「ところで、猫探すといくらになる、なの?」


 朝の五つに、またここで待ち合わせるとこに決まった後、霧が目をきらりと光らせて報酬額を訊いてきた。


「えっと…………あれ?」


 問われて初めて青太郎は気がつく。


 猫を探し出したらいくらの報酬になるのか。それをあの武士は一言も口にしていなかった。


「まさか、いくらになる仕事なのかも知らずに探しているのか貴様は」


「ま、まさか。そ、そ、そんなわけないだろ。私は商人だぞ?」


 三人の視線がひどく疑わしいものになっている。


「えーっと、一両だ。うん、思い出した。一両!」


 青太郎は返事に(きゅう)して咄嗟(とっさ)に自分の小遣いの額を口にした。


「一両!? 猫を探すだけでそんなに貰えるのでござるか!?」


「つまり、首尾(しゅび)良く猫を見つけられたら報酬はきっかり四等分で、青太郎に一分(いちぶ)で、霧たちにも一分ずつという配分、なの(一分は一両の1/4)」


 さらりと自分たちの儲けになるよう話をもっていく霧。抜け目ない。


「ええっ!? いつの間にそんな話になったんだい?」


「当然の要求なの。労働には対価が必要なの。大丈夫、見つかったらでいい、なの」


「うむむむ……」


 てっきり遊び半分でついてくるものだと気軽に考えていた青太郎は思わぬ流れになって渋い顔をした。


「霧はしっかりしてるのぉ」


「時々拙者も驚かされるでござる」


「夫の稼ぎが少ないから妻がしっかりしなきゃ、なの。内助(ないじょ)(こう)、なの」


 どこかで余三郎がくしゃみをしそうなことをドヤァな顔で言い切って、百合丸への牽制(けんせい)もきっちりやっておく霧。抜け目ない。


「見つかったら、三人に一分ずつか……。まぁいいか、それで真剣に探してくれるなら」


 猫を探し出せば雷蔵からお小遣いの上乗せがあるだろうと考えた青太郎は、庶民なら躊躇(ちゅうちょ)してしまう額の報酬を深く考えもせずにあっさりと呑んだ。


 青太郎の返事を聞いて要求した霧すら目を丸くして驚いている。


「ほ、本当、なの?」


「ううぬ、まるで大店の主人のような気風(きっぷ)の良さでござるな」


「あれ? そうか、まだ言ってなかったか。私は日本橋の狐――」


 ごぉーん。


 青太郎が自己紹介をしている途中で遠く上野の山から鐘の音が延びてきた。


「ああっ! 寺の鐘が鳴った。そろそろ夕餉の時間でござる。すぐに帰らねば!」


「なんじゃ、もう少しここにいてもよかろう」


 まだ遊び足りない子猫のように鼻を鳴らす愛姫だったが、いつも表情に乏しい霧が珍しく焦った顔で愛姫の手を引いた。


「それはダメ、なの。菊姐さんは通い女中。だから刻限までに家に帰らないと霧たちの晩ご飯を作らないでさっさと帰ってしまう、なの」


「そうなのか。手厳しいんじゃのう、あの菊花という女中は」


「手厳しいというか、恐ろしいのでござるよ。この処置も『我らへの(しつけ)』と『菊花殿の労力削減』の二つの効果を狙った恐ろしい一手(いって)なのでござる」


 単純に菊花が楽をしたがっているだけなのでは……と愛姫は思ったが、叔父とはいえ他人の家の事に口出しをするのは良くないと考えて、あえて何も言わなかった。


「どうやら妾たちは是非もなく帰らねばならぬようじゃ。青太郎、明日はきっちり手伝ってやる。それではの!」


 愛姫は青太郎にそう言い残すと百合丸たちに手を引かれながら神社の鳥居のほうに去っていった。


 ぽつんと一人取り残された青太郎は暫く何も言わずに突っ立って三人を見送っていたが、ハッとある事実に気が付いて口元をほころばせた。


「もしかして、あの子らが私の初めての友達なのか? これは杵柄神社の神様が呉れた御縁だろうか。だとしたら小判の一枚でも賽銭箱に入れてやらねばな」


 青太郎はニヤニヤと顔を崩しながら拝殿の方へと向かって行った。

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