子猫たちは猫探しを始める 3
「貴様、何の思惑あっての狼藉だ? 返答次第ではただではおかぬぞ!」
腰が抜けてへたり込んだ青太郎に向かって百合丸がずいっと足を摺り「きええぇい!」と裂帛の声をあげて間合いを詰める。
百合丸が全身から覇気を迸らせている姿に愛姫は思わず見惚れた。
『おぉ、なんという気合いじゃ。忍として名高い服部家の血筋であるはずなのに百合丸はまるで剣豪のようじゃな!』
出来ればこのまま見ていたかったが、そうすると大変なことになると気がついて、愛姫は慌てて二人の間に割り入って青太郎を庇った。
「いや、待て。待て待て、百合丸。違う、違うのじゃ」
「ぬ? いったいどういうことでござるか、愛ひ――むぐっ!?」
そのまま『愛姫』と言いかけた百合丸。その口をいつの間にか背後に来ていた霧が後ろから手を伸ばして塞いだ。
「ウリ丸、きっと早とちり。こんな間の抜けた顔のへたれなお兄ちゃんが、誘拐なんて大事をやれるはずがない、なの。あと、お愛ちゃんをそっちの名で呼ぼうとしちゃ駄目、なの」
「むぐ……むぐむぐっ!」
背中に張り付かれて口と一緒に鼻まで塞がれた百合丸は息が出来ず、苦しさから逃れるため必死になって頷いた。
「――っぷはぁ! き、霧殿、押さえるのなら口だけにするでござる! 鼻まで塞がれては危うく涅槃へと旅立つところだったぞ!?」
「こうでもしないと、そこの間の抜けた顔のお兄ちゃんが涅槃に旅立ってた。なの」
悪びれる様子もなくしれっとそう言い放って百合丸の涎で汚れた掌を百合丸の着物で拭いた。
「……こら、どうして拙者の着物で拭くのだ」
「涎を元の持ち主に返しているだけ、なの」
「やめるでござる! いくら元は自分のものとはいえ、そんなふうに返されたのでは気分的に嫌でござる!」
二人が言い争っているのを呆けた顔で見ていた青太郎は愛姫を見上げて尋ねた。
「な……なんなんだ、この子らは? おまえさんらはいったい何者なんだい?」
「妾たちか? ……そうじゃな、さしずめ猫柳家美少女家臣団とでも言えばよかろうかの?」
即興で思いついたやや恥ずかしい名前を自慢げに臆面もなく言い切ってしまえるあたりが、さすが姫様というところか。
「猫柳家? 聞いたことないな。どこぞの狂言一座かい?」
「無礼な。猫柳家は歴とした旗本じゃぞ」
青太郎は首をかしげて頭の中にある旗本の名簿と照らし合わせてみたが……、
「やっぱり知らないね。それよりもあの子をどうにかしておくれよ。まだ少し疑った目でチラチラと私を見てるんだけど」
「あぁ、そうじゃな。百合丸、霧、実はじゃな――」
「ほぉ、猫探しでござるか」
「変な商売、なの」
愛姫から事情を聞かされた二人は神社の裏手の石段に腰を下ろしてべっこう飴を舐めながら胡乱な目つきで青太郎を見ている。
「うっさいやい。変でも商売になるんだからいいじゃないか」
「話を聞いているうちになにやら楽しそうなので妾も混ぜて貰おうかと思って……。心配させてすまなかったな、おまえたち」
「愛ひ……お愛ちゃん。そういう事は、拙者らに一言相談してからにして下され。本当に焦ったでござるよ」
「一等驚かされたのは刀を向けられた私なんだけどね。せっかちな誰かさんのせいで……」
むくれた顔で愚痴をこぼす青太郎に百合丸はキッと鋭い視線を向ける。
「な、なんだい。本当のことじゃないか!」
百合丸が急に立ち上がって青太郎の正面に来たものだから、青太郎はまた刀を向けられるのではと思って震えた。
しかし――、
「青太郎殿の言う通り、拙者の勘違いですまぬことをした。許されい」
百合丸はぴっと姿勢を正して深々と頭を下げた。
「ひえっ!? あ、うん。いいよ……もう」
予想外の素直な謝罪を受けた青太郎は思わず変な声を上げて束の間呆気にとられたが、すぐにその謝辞を受け入れた。
「青太郎、簡単に許すなんて案外太っ腹、なの」
「そう? ま、まあ、まあね、そんなこともあるけどね」
滅多に褒められることのない青太郎は、とたんに得意気になって胸を逸らした。
「お人好しのお馬鹿とも言う、なの」
「非道い! なんて言い草だい!?」
「霧よ、そこは思っていても言ってはいけないんじゃないのかの? 妾のように心の中だけに留めておくが良い」
「ちょっと!? あんたも思ってるの? この小っこいのが非道いこと言ってるけど、あんたも中々に非道いぞ、それは」
「あ、あははは……。もう一つ飴を食べるかの?」
「そんなんじゃ誤魔化されないよ、まったく……」
そう言いながらも、もう一つべっこう飴を貰った青太郎は簡単に誤魔化された。




