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幼女のお股がツルツルなので徳川幕府は滅亡するらしい  作者: マルクマ
第二幕 みんなが子猫を探してる
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風神風花 2

「そいつぁ無理だ。いくら命があっても足りやしねぇ」


 疑惑の目を向けていた剣士は『やはりそうか』と言わんばかりに刀を掴んで立ち上がった。


 他の者も続いて腰を浮かせると風花は「慌てるんじゃあ無いよ馬鹿者どもが」と笑いを含んだ声で引き留める。


「見つけ出して殺せと言っただろう。お姫様は城を抜け出して今は城下にいる」


「なに? それは本当か」


「あぁ、今は南北の町奉行所の十手持ちが必死になって小娘一人を探し回っている」


「岡っ引きに見つかる前に我らで姫さんを見つけ出して()れって事か」


「そういうことだ。今回の仕事は早さ勝負。あたしらは姫さんが幕府側の者に見つかって城に連れ戻される前に見つけ出して(ころ)さなければならない。だから一人でも多くの人手が欲しいし、(まと)(まと)だからこそ報酬も破格の白餅だ。姫さんをやれなくてもこの仕事に参加してくれた者には相応の慰労金も出す。どうだ、これでも不満があるか?」


 風花は「納得したなら座れ」と苦笑しながら手を上下させた。


 再び腰を下ろした面々に風花は一枚の紙を広げて見せる。


「これが愛姫の似せ絵だ。とあるお偉いさんから特徴を訊き出して、それを絵師に描かせた」


「これが……愛姫」


「歳は今年でちょうど十。見ての通りの容貌だ」


「ほぉ……。ちぃとばかり情の(こわ)そうな顔つきだが、なかなかの器量好(きりょうよ)しじゃねぇか。あと五つ六つも歳を重ねれば良い女になっただろうに、誰からの依頼か知らねぇがここで殺されるたぁ勿体ねぇ事だねぇ」


 小猿が愛姫の似顔絵を見て残念そうに唸る。


「このまま育ってもどうせわしらが抱けるわけじゃない。勿体ないも糞もあるか」


 法衣の男がフンッと大きな鼻を鳴らした。


「げへへへ。違ぇねぇ……」


 男たちが似せ絵を回してそれぞれが愛姫の外見を網膜に焼き付けていると、町人風の男が静かに襖を開けて入ってきた。


「遅かったな佐吉。危うく美味しい話を食いっぱぐれるところだったぞ」


 佐吉と呼ばれたその男はさも当然のように風花の隣に腰を下ろすと目を糸のように細めて柔和にゅうわな笑顔を作った。


「それがねぇ、雷蔵のほうからも声が掛かったんですよ」


 その言葉に風花の表情がピシリと強張った。


「雷蔵が?」


「ほぉ? まだあの野郎はこっちの仕事をしてるのか」


「表の世界だけで満足してりゃいいものを」


「欲深いからこそ表でも裏でも名が上がるんだ」


「言えてるな」


 男どもは久しぶりに聞いた昔の仲間の名に束の間饒舌(じょうぜつ)になった。


「で、あの野郎はなんと? つぅか、いつの間に来てやがったんだい佐吉」


 佐吉はにやりと笑う。


 中肉中背で特徴と呼べるようなところがまるでない佐吉は存在感がひどく希薄で、こうして面と向かって話をしていても印象には残りにくい。


 ちょっと目を離せばどんな顔だったかも思い出せないくらいなので、裏の世界では『のっぺら佐吉』という通り名がつけられている。


「雷蔵は小娘を一人探し出して保護したいそうですよ。報酬はなんと白餅一つ」


「おい。そりゃ愛姫の事か」


 先ほどと比べて明らかに機嫌の悪くなった風花が眉尻を吊り上げて噛みつくように訊くと、佐吉は暴風雨を受けた柳のように風花の怒気を受け流してニコリと微笑んだ。


「て事は、こっちも同じ仕事かな?」


「いや、保護するなんて面倒な仕事じゃない。こっちは殺しだ」


「姐さんのところは相変わらず血生臭いですねぇ」


 佐吉は「ふふふ」と苦笑しながら、近くにあった湯呑を取り上げて酒瓶から手酌で酒を注ぐ。


「佐助、同じ(まと)の仕事ならあたしの仕事をしろ。いいな?」


「さぁて、どうしましょうかねぇ……っぷ。相変わらず不味いなここの酒は」


 佐吉は柔和な笑顔のまま湯呑を壁に投げつけて粉々に砕いた。

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