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幼女のお股がツルツルなので徳川幕府は滅亡するらしい  作者: マルクマ
第一幕 子猫は勝手気ままに散歩に出かける
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子猫は勝手気ままに散歩に出かける 4

 とっとこと小走りに進む三人に余三郎がようやく追いついたのは、猫柳家にほど近い御徒(おかち)通りだった。


 名前の通り『御徒』という足軽身分の下級武士たちが多いこの界隈は、大名たちの上屋敷が並ぶお上品な通りと違って猥雑(わいざつ)としているが、その分下級役人たちの人数は多くて辻々には蕎麦屋や茶店などが立ち並び、日本橋ほどの贅沢な華やかさこそ無いもののそれなりに活気がある。


「待て。おいこら、待てと言ぅておろうが」


 先頭を進む百合丸の前に回り込んで余三郎が三人の行く手を阻んだ。


「殿。話は屋敷についてからでござる!」


 妙に先を急ぐ百合丸。


「ならぬ。これまでの仔細(しさい)を今すぐ申せ」


 両手を広げて立ちふさがる余三郎。

 その脇をすり抜けて先に行こうとする霧の手を掴む。


「殿。急がないと駄目、なの」


 心なしか普段あまり感情を顔に出さない霧にも奇妙な焦りの色がうかがえた。


「いったい何事だ? それにこの子は誰だ」


 慌てている二人とは対照的に身元不明の女の子は妙に落ち着いていて、余三郎と目が合うとニコリと微笑んだ。


 女の子の歳は霧と百合丸の間くらい。


 簡素な柄の着物を着ているのだが、日の光を艶やかに照り返すその生地はとても上等な反物を使った物だと一目でわかる。


 その女の子が物腰の柔らかな、それでいて凛とした様子で欠片の遠慮もなく余三郎の目を直視している。


『う……』


 余三郎は思いのほか強い視線を向けられて思わず腰が退けそうになった。


 目の形はおっとりとした垂れ気味なのに、怖いものを知らないように吊り上がった眉で余三郎を見据えている。


『この目、どこかで見覚えがあるような……』


 身に覚えのある見つめられ方をして、そこから連鎖的にある人物を思い出した。


『似ている。この目はまるで……はっ!?』


 その人物像がはっきりした瞬間、この少女の正体が分かってしまった。


「わかった。急ごう!」


 余三郎は日ごろから鍛錬している体術を使って目の前の女の子をお姫様抱っこで抱え上げると一目散に走り出した。


「殿!?」


 百合丸が、目を大きくして余三郎の後を追っかける。


「……」


 霧も羨ましそうな目で女の子を見ながら余三郎を追って駆け出した。


「殿! 拙者でもそのような抱っこはされたことありませぬぞ!」


依怙贔屓(えこひいき)、なの」


 余三郎の背後に怨嗟(えんさ)の呟きがついてくる。


「この子がおまえたちの走る速さについて来れるはずないだろう。急げ!」


 普段から近所で町人の子供たちと一緒に遊びまわっている霧と百合丸は、なんのかんのと体を動かしているので足が速い。


 それに比べて余三郎が抱えているこの女の子は余三郎の予想が当たっていたならば走ることすら禁じられた世界で生きてきた正真正銘の『深窓(しんそう)御令嬢(ごれいじょう)』なのだ。


 百合丸立ちと同じ速度で走れるわけがない。


「殿、実はこの方は――、」


 走りながら余三郎に説明をしようとする百合丸。


「いい! 見当(けんとう)はついているからこんな街中でこの子の名前を出すな!」


 余三郎は必死になって百合丸の言葉を遮った。


『なんて事だ……』


 走りながら余三郎は頭の痛くなる思いだった。


 余三郎の頭の回転は悪くない。むしろ良いほうだ。


 その余三郎にすればこの子の正体と自分たちが置かれている状況は簡単に理解できた。


 江戸城の中から忽然(こつぜん)と出てきた女の子。


 そして自分の兄である亀宗に似た目を持つ子。


「ほぉ。叔父上(おじうえ)はなかなか走るのが達者(たっしゃ)であるな。天晴(あっぱ)れじゃ」


 胸元からそんな感嘆する声が聞こえて余三郎の予想は確信に変わった。


 余三郎を『叔父上』と呼ぶ女の子。


 間違いない。この子は余三郎の兄、将軍徳川亀宗(かめむね)の一人娘。愛姫(めごひめ)だ。


 正真正銘のお姫様をお姫様抱っこして走る余三郎の額に再び冷たい汗が流れた。

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