傲慢イケメンに「お前を消す方法」を聞いたら天使になった。
初投稿です。
そう、今更だから書きたかった異世界転生(未満)もの!!
楽しんで貰えたら、タンバリン鳴らして喜びます。
そこは、何もない白い部屋だった。
さっきまで感じていた病院特有の消毒の匂いも、胸を抉る慟哭も聴こえない。
ああ、わたしの人生は終わったんだな。
そう漠然と理解した。
どうしようもなく苦しかったさっきまでの体が、嘘のように軽い。
わたしは思わず、
「あー解放されたわぁ。」
そう呟いた。
そうしたら、何だか急にいろいろとスッキリして、その場に座り込む。
「いやー、もう、ほんっとーに苦しかったわぁ。」
長く患っていた病が急変し、呼吸が苦しくなってからどれくらい耐えていたのか、まぁもう終わった事だ。
わたしは、解放されたのだ。
「で、ここはなんだろう?三途の川って、やっぱり伝説なのかぁ。」
…ちょっと期待してたのになぁ。
大好きだったバアちゃんが迎えに来てくれるんじゃないかと期待していたのだが、世の中そんなに甘くはないようだ。
キョロキョロと辺りを見回してみる。
本当に何もない、ただの白い部屋だった。
と、何の前触れもなしに、目の前に扉が現れた。
「お。おお。ワンチャンある?」
その扉が開き、人影が見えた。
わたしは思わず立ち上がり、駆け出す。
「バアちゃん!バアちゃん!会いたかった!」
「ちょっと早かったかもだけど、わたし頑張ったんだよ!褒めて褒めてー!!」
現れた人影に突進し、抱き着いた。
懐かしいバアちゃんの匂い…は、しなかった。
花のような良い香りと肉厚で柔らかくない抱き心地。
あ、これ違うわ。
すぐに期待と違う誰かだと、体が理解する。
そっと離れると、三歩下がって相手を覗き見た。
イケメンがいた。
語彙力が足りないと言わないでいただきたい。
確かにわたしの日本語力は先生にも残念だと言われたくらいだが、そうではなくて、言葉に表すのが難しいほどのイケメンが、そこに居たのだ。
光の当たり具合で色合いの変わる白い髪。
バッサバッサと擬音が聴こえそうな、長い睫毛。
その下には、やわらかい印象を与える透き通った瑪瑙色の瞳。
少し困ったような口元には、まるで咲き誇る桜の様な唇が添えられ、眩ゆい美しさに可愛さをプラスしている。
わたしの乏しい語彙力では、これ以上の表現は難しい。
「わーお。」
それがわたしの、精一杯の反応となった。
桜色の唇が動いた。
「不敬な娘よ、これより其方を我が愛子の身代わりとして異界へと送る。」
意味がわからなかった。
「はい?」
とりあえず、輝くばかりのイケメンは、どうやら中身までがイケメンという訳では無かったようだ。
世の中そんなに甘くはないか。
詳しい説明を求め、何やら偉そうに説明をしてくれた内容をまとめると、心が無になりそうになった。
曰く、イケメン様は異界繋ぎの神さまで、将来異界へ聖女として送るために見守ってきた少女が、まるで娘の様に可愛くなって手放し難くなったから、似た年齢のちょうど生を終えた魂で代用しちゃいますーって事らしい
「どういうことですかね?」
「これ以上語る事はない。異界つなぎは非常に高位な魂にしか出来ない名誉な事。誇るが良い。」
そういう事らしい。
意味がわからない。
「わたしには、三途の川でバアちゃんに迎えに来てもらって、頑張ったねーと頭を撫でてもらうという理想の昇天方法があるんですけど。」
「其方の魂は異界で新たな生を受け、平穏と安寧を与える役目を担うこととなる。」
イケメンは、わたしの話を聞いていないかのように続ける。
「本来ならば我が愛し子の役目ではあるが、我はあれを手放したくはない。」
遠くを見つめるその目には深い愛情が見て取れるが、わたしの心の無はそれを美しいとは認めなかった。
「押し付けはんたーい!正しい魂の輪廻をー!」
「ゆえに、この名誉を、新たなる生の可能性を其方に与えよう。」
「意味がわかりませーん。横暴だー。」
「だが、何も備えのない其方が向こうへただ渡っても、その役目を担う事は出来ぬであろう。」
わたしの言葉は、何処までも聴こえていないイケメンに、何かが湧き上がってくる。
「そこで、我から其方へ祝福を送ろう。望みの祝福をいうが良い。」
なんでも叶えてやろう。そうイケメンは言った。
なんでも、そうか、なんでもか。
「おまえを消す方法。」
その瞬間、何かがわたしの中から噴き出した。
血が逆流する様な、体の奥から湧き出る熱くて目眩がする様な何か。
時間の感覚が狂い、短かったのか、長かったのか…
収まった時には、ひどい疲労感と脱力感で、膝をついていた。
「な…に?」
カラカラの喉が、掠れた声を出す。
水が欲しい。
そう思った時だ。
目の前に、そっと水の入ったコップが差し出された。
「どうぞ。マイマスター。」
「ありがとー」
言葉に意識を向けるより、喉が渇いていた。
受け取った水を一気に飲み干す。
「かーっ!!うめえー!!」
五臓六腑に染み渡るとは、正にこの事だ。
「喜んでもらえて光栄です、マスター。」
天使の様な可愛い声に気付いたのは、その時だった。
「はえ?」
目の前に天使が居た。
またかよと思うかもしれないが、わたしには、これ以上表現できる語彙力が無いのである。
光の当たり具合で変わる白い髪。
バッサバッサと擬音が聴こえそな長い…ま、つげ?
「ん?」
これ、さっき同じ事を思った気がする。
深い森の中、まるでおとぎ話のフェアリーズサークルの様な広場に、わたしは文字通り舞い降りた。
柔らかい草の感触と緑の匂い、それが実在しているのだと実感させる。
ここは、わたしが生きて、そして生ききった世界とは文化や種族さえも違う異世界なんだと、天使は説明してくれた。
「マスター、先のわたしの無礼をお許しください。ですがマスター、どうかマスターに、このつなぎの役目をお願いしたいのです。これだけは、わたしだけではなく、あちらの神との不可侵契約の為にも必要な事なのです。」
なんでも、向こうの神様と、天界レベルでの争いを避けるための相互助け合いの一環なのだそう。
自分の世界では浄化できない力の歪みを、お互いでカバーし合うための、いわゆる交換出張サービス(栄転)なのだとか。
そういう事ってあるんだなぁと思いながらも、わたしは自分の希望を通そうとして…
「先のわたしが、姑息にも件の聖女とあなたの魂の登録を書き換えてしまい、もどすことが出来なくなってしまったのです…」
「わかった。お姉さんに任せて。」
両手を祈る様に握り込み、必死に訴えかけてくる天使の凶悪なまでに保護欲を唆る姿に、いとも簡単に籠絡することになった。
え?だって無理でしょ?目の前にいるの天使だよ?
目をほんのり潤ませて「マスターお願い」とか言われちゃつたら、聞いちゃうでしょ?
わたしじゃなくても抗えないと思います。
ちなみにこの天使、消えた傲慢イケメンの再生誕した姿なのだとか。
なんでも願いを叶えるという言葉が発動、神を消す力がわたしに宿り、一度消滅し、わたし心の中の何かをベースに再構築されたのだそうな。
流石神様、再生早い。
何かって?何かな。
ワカラナイナー。
「よーし。せっかくだし、のんびり楽しませて貰おうかなー。」
天使が言うには、平穏と安寧を与える役目には、厳密な拘束はないらしい。
わたしがこの世界に居るだけで、自然と歪みを正すことに繋がるんだとか。
「マスターを危ない目に合わせたく無いのですが、わたしがついていく事は許されていないし、でも、でも、マスターを送らないと、神の戦いはその世界を危険に晒してしまうのです。」
わたしも行きたいと、ポロポロ泣く天使の可愛さに、危うく心臓がもう一度止まるところだった。
「せめて、わたしの心を一緒に付き添わせて下さい。」と手渡されたのは、天使の瞳と同じ色の石が嵌められた、花の細工を施した可愛い指輪だった。
お揃いの指輪で、届けられる想いは少ないが加護になるからと、その場で嵌めてくれた。
左手の薬指にな!!
わたし、天使と結婚しちゃったー!
とか内心ウハウハしたとか、そんな事無いですよ。
うん。
断じて事案ではないです。
天使に人間の結婚指輪の概念は無いだろうし、わたしもまだ結婚するような年齢でもない。
だってわたし、まだ花の享年17歳の乙女ですからー!
指輪は、わたしと天使と、異界の神々にしか認識されないらしく、安心した。
わたしは今日から、もう一度生きることになる。
元の世界での生に後悔はないが、不自由はたくさんあったし、未練もある。
自由に動けなかった体とはおさらばしたので、この体を目一杯楽しんでやる。
可愛い服着て、美味しいもの食べて、可愛く着飾ってー…
楽しい家族計画も大丈夫らしいので、新しい世界では乙女らしい恋愛なんかも楽しんでみたいものだ。
「マスターのお婿さんになりたいという人は、わたしの面接を受けてもらいます。」
ふんすー。と、天使が息巻いていたのが気になるが、きっと大丈夫だろう。
バアちゃん、楽しい思い出話増やしていくから、もうちょっと待っててね!!
新しい世界の名前は…
テンザー・ベアインシュティス
とりあえず、まずは美味しいものが食べたいです。
意気揚々と踏み出したわたしの頭の中に、指輪を通して天使の可愛い声が響く。
「そうでした、言い忘れていたのです。マスターの神を消す力は、そのままマスターの中に残っていますから、自由に使って下さいね。」
…なにそれ、こわい。
いつかは投稿サイトを使ってみたかった。
そんな野望を叶えてみました。
拙い文章と語彙力のない主人公を楽しんで貰えていたら、タンバリン両手持ちで喜びます。
後書きまで見て頂き、ありがとうございます。