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澤村愛はめんどくさい

同調圧力

作者: 末摘花

  サスペンス小説での殺意を読んで、それが殺しの動機ですなんて書いてあった文の意味が分からなかった。

  マグマのようにおどろおどろしい、なんとも物騒な殺意です。私が思う殺意は違う。そんなことを本に呟く。私が思う殺意は、もっとゆるやかで、蛇口を捻ると出てくる水みたいなものだ。ぼんやりと脳を支配されるような、中毒性が高いなにか。例えば愛。

  死んでしまいたいという自殺願望も、生きたいという欲求も、すべて愛と呼べばいい。生物学上で最も醜い愛だと言えば、すっきりまとまるのじゃないかと思う。私の名前でもあるそれで、みんな解決してしまうかもしれない。だとしたらしあわせじゃないか?

  欲しいものとか食べたいものとか、三大欲求に忠実になれない私は損をしている。愛が欲しいとかしあわせが欲しいとか、抽象的で、なおかつ自分の意思で手に入らないものが欲しい。逆にそれしか欲しくない。だから自分の誕生日、キリストの没日とかお祝いだとか、そんなめでたい日が嫌いで、好きと見えるようにする顔がうまくなる。私は14歳になりました。14回目ともなると誰も気付かない。例え1回目でも気付かないんだろうけど。

  悲しみとは違い、また確実に幸福なものじゃない。質量保存の法則を律儀に守る、私の心臓の内側の内側。幸福のようなものが減っても悲しみのようなものが増えていく。この感情が知りたくて辞書を読んだ。何冊も、何冊も。6冊くらい読んだ後に、広辞苑に手を伸ばす。繰り返し読んでも分からなくて、なんだかいつもより悲しかった。

  この気持ちを分かってほしくて、友達に話してみても奇怪な目で見られるだけで、真面目に聞いてくれたのは雪名と、幼馴染みの由宇だけ。周りの女子たちはB5の分厚い辞書よりも、A4の華やかなファッション雑誌を読んでいたのだ。幾何学的な服を小物を、流行りだからと収集する。それはしあわせなのかって思う私を、愛は思考のレベルが遥かに上なのだと由宇が諭す。


「愛に分からないなら、わたしには……。ううん、誰にも分からないよ」


  由宇はテストでいちばんの成績しか取らない。わたしの頭の良さと愛の頭の良さは違うよとも言われたことがある。姉妹みたいに育った由宇が、本当に血が繋がっていたらねとくすくす笑った顔が、今まででいちばん好きだ。

「同調圧力に左右されない、そんな愛が好きだし、そんな愛になりたかった」

  こう言った由宇のその顔は、好きではないけど。

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