エピローグ
エピローグ
「教授たちは一緒に来てくれないんですか?」
「時枝君が完全に回復するまでは、こちらの世界の医療カプセルが手放せないのでな」
「な、治るんですか?」
「何年かかるか、何十年かかるかもしれん」
それまで真顔で時枝を見つめていた教授は、急にニヤけた顔を僕に向けた。
「ま、時枝君次第か」
僕らは放置してあった時空転移装置ゲルシュタイン号の前に立っていた。
誰の呼びかけにも答えず、白い空の彼方を見つめている時枝。
伝わらなくてもかまわない。僕は意を決して口を開いた。
「あの......さ。また会える、よな?」
「......」
時枝に変化はない。ただ、ほんの少しだけ口元が緩んだ気がした。
「そのときは私も一緒ですからねっ」
七海は険しい顔で僕の腕にしがみつく。
「わかったわかった」
「ねーねー、時枝が治ったら教授はどうするわけ?」
真魚は教授に言った。
「それはデリケートな問題だねえ」
教授は寂しそうに笑った。
僕は真魚を睨みつけた。歳を考えろ、無神経少女め。
「だが、時枝君はどうかな。聞けば常に直球勝負してくるというではないか」
「あーなんか、だんだんムカついてきたっ」
真魚は僕のもう片方の腕にしがみつく。
「真魚も、わかったから手を離せっ」
僕は二人を引っぺがした。
そして、涙が止まらなくなった。
「教授......」
「また会えるさ」
僕と教授は強く抱き合った。
僕と真魚と七海を乗せたゲルシュタイン号は、帰るべき世界に向けて時空転移した。
* * *
数日後。
「和帆ー、手紙が届いてるよー。それにしても今どき、紙のやつ使うかなー。なになに?......麻波・J!? ジェイってなんだ?」
真魚の奇声が玄関から聞こえた。
「こらっ! 勝手に人の手紙を見るんじゃないっ」
自室から飛び出し玄関に駆けつけた僕は、真魚から封筒を奪い取った。
今や骨董品のペーパーナイフで慎重に封を切る。飾り気のない無地の便せん。見覚えのある文字。やはり麻波からのエアメールだ。
本当はね、私、記憶が戻っていたの。マンションの屋上で再会した、あの日の1年ちょっと前にね。だけどその時は私、もう結婚してたから......。嘘ついててごめんなさい。でも......私は今でもあなたのことが大好きです。 麻波
手紙の他に写真が一枚入っていた。薄茶色の髪の赤ん坊が笑顔の麻波と一緒に映っている。女の子のベビー服だ。やっぱり似てるな。
余白に名前が書いてあった。
美帆・M・ヨーゲンセン......急に目頭が熱くなった。
「ホントはあの日に帰りたい〜、とか思ってるワケ?」
真魚は僕の脇腹を小突いた。
「それはどうかな?」
僕は目をこすりながらリビングの方へ歩きだした。
「あーっ! 七海姉ェ。和帆ったらひどいんだよー!......七海姉ェ?」
キッチンから出てきた七海は目を潤ませていた。
「私もハグハグして欲しいなぁ......」
「だめだこりゃ」
僕を追いかけてきた真魚は立ち止まってうなだれた。
「二人とも、こっち来いよ」
僕は手招きした。
そばに寄った真魚と七海は僕を見上げる。
「じゃんけんしろ」
「なんでよ?」「えっ?」
「勝った方にキスしてやろう」
「バカー! 何様のつもりよ!」「そんな決め方はちょっと......」
そう言いながらも二人は握り拳を作っていた。
「じゃーんけん」「じゃんけん」
「はわっ!?」「んはっ!?」
僕の唇がどこに当たったかは覚えていない。
真魚と七海の顔を見た。たぶん外してはいなかったと思う。
おわり




