続・転移組はチート? 剣姫様一行の実情
今回の話は前回と一つの話にする予定でしたが、文字数の関係で分割する運びとなりました。
ただ、切り良く区切ったつもりが文字数のバランスが悪く、その為に今回は少々短めとなっています。
今日に於ける【スフィア】――主に人間族の扱う魔法の基礎体系は一〇〇年前には構築されていた。それまでに存在した魔法を系統別に整理し、使い手の才覚によってどういった魔法を重点的に習得すべきかを議論したのが始まりだったと言われている。
そうして完全とは言えなくとも魔法は属性別、技能別に分けられ、魔導士――過去にはそう呼ばれていた――達は己の才を見定めた上で最も適性のある魔法の習得に努めるようになる。結果、魔法の習得率は目に見えて上昇し、それは種族規模での魔法の普及という恩恵を生み出した。
時を重ねて大陸歴五〇八年。人間族では現在、魔力を用いる術を”魔法”と”魔術”に大別している。
魔法とは古来より存在する、魔力を用いて事象を再現する法である。
この世の事象は全て、世界を構成する”地水火風”の四大源素に生命を表す”空”を加えた五大源素から生じると考えられており、魔法式を使って自然現象を人の手で再現する事を魔法と呼ぶのだ。
現代に於いては更に”空”を肉体を表す”光”、魂魄を表す”闇”に分けて、”地水火風光闇”とした六属性で大別されるのが主流となっており、魔力をこれらの属性に変化させ発動形態を加える事で魔法は行使される。
発動形態の例を挙げるなら、肉体に干渉する光属性、生命を育む働きを持つ地と水属性の魔力を使って他者を癒す魔法を”治癒魔法”と言い、転移組では愛奈と剛田が魔法技能として所持している。他に剛田が所持している光属性の魔力を自身の身体能力の強化に使用する”強化魔法”、地水火風の魔力を一方向への破壊エネルギーに転化する”突撃魔法”、自身を中心として周囲を攻撃する”爆裂魔法”が挙げられる。
余談だが、離れた場所を広範囲にわたって薙ぎ払う”殲滅魔法”という技能も存在するが、転移組には所持者が居なかった。実はガーランドが最も欲していた技能だったらしく、公然と転移組に八つ当たりしたのは言うまでも無い。
次に魔術とは、魔法と違う系統の技術を組み合わせた術を指す。
過去には魔法と一括りにされていたが、現代魔法に体系化された際に新しく魔術として独立した経緯がある。美矢が持つ魔法技能”魔工術”は鍛冶に魔法を組み合わせた技術であり、魔法の発動を補助、強化する”魔導具”の製作に欠かせない技能だ。
戦闘職向けの魔術で代表として、剣と魔法を組み合わせた”魔剣術”、槍と魔法を組み合わせた”魔槍術”、徒手格闘と魔法を組み合わせた”魔闘術”が有名である。
帝国騎士の前衛を務める者なら、戦闘職向け魔術の他に先に挙げた”強化魔法”が使えれば言う事無しで、転移組の剛田に至っては戦闘用魔術を二つに強化魔法、その上で後衛戦闘職が欲する魔法技能を三つも有しているので正に一人軍隊と言えるレベルな訳で、その力を帝国ひいては人間族の為に捧げる覚悟で訓練に臨めと騎士達から詰め寄られても仕方が無い事なのだ。
よって、
「俺みたいに魔法適正が低くて魔法技能も一切持ってない輩は訓練をサボっても仕方が無い、と」
誰に聞かせるでもない、ナレーション風の独白を終えるアキト。図書室でしたためたメモ帳を片手に独り言を延々と呟く姿は誰かに見られれば悶死するレベルで痛く恥ずかしい。
ただし、メモの内容は至って真面目に纏めた知識集である。アキトが【スフィア】で竜族をやっていたのは二〇〇年前……現代魔法が構築されたのが一〇〇年前なので、今ある魔法技術はアキトにとっても初めて触れる代物なのだ。
確かに前世と比べて人間社会に魔法が普及しているのは実感できる。度々帝城を抜け出しては庶民の暮らしぶりを観察してきたアキトの率直な結論だった。騎士でもない――魔法技能を持たない一般人でも魔力は有している訳で、そして実は魔法を使うのに必ず特定の魔法技能を持っていなければいけない訳ではないので、火種を生んだり水を冷やす程度できる者は庶民にも存在する。
勿論、魔法技能は必要無くとも魔法適正は属性毎に必要であり、あくまで生活に於いて実用的なレベルなので戦闘に耐える程に速くも強くもならない。それでも過去に一部の才ある者しか習得できなかった魔法を細やかとは言え一般人まで使えるようになったのは、現代魔法体系によって適正と習得方法が見直されたお陰だとアキトは素直に感心した。
一方で、魔法が普及してはいるが、発展は滞っていると言うのも素直な感想だった。
普及率の割に、魔法の技術そのものは二〇〇年前と大差無いようにアキトは感じていた。これだけ時間が経っているなら扱う魔法の規模の拡大なり、魔法式の効率化なり、高性能な魔導具の開発なりが成されていても良いだろうに。
それとも自分の価値観が人間とかけ離れているのだろうか?
元々、竜族の魔法の概念は人間族とは大きく違っているので、魔法に関してはどうしても竜として考えてしまうアキトは少々無茶な展望を人々に求めているのではと考え込んだりもする。
もっとも、明らかに有益な技能を正しく評価できていない面も確かに在るので、自身の価値観を踏まえても胸のモヤモヤは治まらない。何よりその不遇な扱いを受けている者はアキトにとって近しい者達なのだから余計にだ。
そうやって溜息を漏らしながら視線を帝城の敷地内にある屋外練兵場に向けると、見える見知った三つのシルエット……華蓮、賢司と守の三人が各々訓練を行っている真っ最中だった。
因みに三人はアキトに気付いていない。それはアキトが隠形真っ最中で、何故に隠形を駆使しているかと言うと、以前に訓練視察を敢行した際に華蓮から『サボるなっ!』と叱責された為だったりする。また叱られると面倒なので今回は草葉の陰から見守ろうと決めるアキトだった。
そんな華蓮の御膝元なので、当然の如く賢司と守は真面目を通り越して必死に訓練に励んでいる。怠けると剣姫様の制裁が怖いのである。強いて言うなら怖いだけではなく、二人とも華蓮の気持ちを理解しているから手を抜かないとも言える。華蓮がそこまで真剣に訓練に励む理由は勿論、御使いの務めを果たす為……の訳はなく、純粋に生き残る為だ。
華蓮はアキトや賢司のように頭が異様に回るという訳ではないが、状況を冷静に受け止める器量は優れており、召喚当初は混乱したものの時間を置く事で現状どう行動すべきかを的確に判断できていた。そうして帰還手段の存在を確信するアキトや賢司と違い、帰る手段が無い事を受け入れた彼女が決めた行動指針は”鍛える”だった。
このまま御使いとして魔人族との戦争に利用されるにしろ、それ以外の選択肢があるにしろ、明らかに【地球】よりも倫理観が低い上に治安も悪い異世界で生き抜く為には、まず戦う術を身に付けなければならないと華蓮は(アキトを除いた)誰よりも早く痛感したのだ。
そんな中、不幸中の幸いに【スフィア】の高濃度源素の影響で魔力を発現した転移組一同。魔法の習得は強くなる必須条件だと理解した華蓮は人一倍訓練に勤しんだ。
勿論、賢司によって帰還の可能性と、その為に魔人国を目指す旨は華蓮にも伝えられているが、それを聞いた剣姫様は『ならば尚更鍛えなければ』と改めて訓練に火を灯して今に至っている。
なのに……華蓮達を取り巻く環境は奇妙と言わざるしかない。
転移組には各々の適性に合わせて指導役が就いており、それは騎士団規模のスタッフチームである事が当たり前だ。それは素行に難ありでも能力は転移組随一の剛田と、性格、能力の総合力で高評価を得ている愛奈の指導を騎士団一つが担当している事や、非戦闘職とは言え師団から指導を受けている美矢を見れば分かり易い。
それに引き換え華蓮達は三人一緒に訓練に励み、その訓練も指導されていると言うより自主的に行っているようにしか見えない。周囲にも同様に訓練を行っている者達が居るが、彼らは指導ではなく華蓮達と同じく自主訓練に励んでいる様子だった。
それもその筈、彼らは華蓮達の指導役ではない。それ所か騎士ですらない兵士だ。そんな彼らと汗を流しながら時に切磋琢磨し、時に肩を叩き合う姿は中々に青春っぽくて見ていて気持ち良いが、何故にこんな状況に至ったのか。その理由と経緯には三人のステータスが大きく関係している。
まずは華蓮のステータスはこうだ。
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藤林 華蓮 17歳 女
体力 :2200
精神力 :1800
魔力 :800
変換効率:40.0%
魔法適正:地E 水C 火B 風B 光A 闇D
魔法技能:魔刀剣術、強化魔法
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パッと見るだけなら相当なハイスペックと言える。ステータス上の戦闘力なら剛田に次ぐのは間違い無い。これで問題になるとすれば……魔力変換効率と、所有する魔法技能”魔刀剣術”の扱いと、華蓮の性別だ。
ギャレリア帝国にも女性騎士は存在するが、例外を除いて殆どが後衛職という事実も存在する。理由は簡単で、女性騎士は男性騎士に比べて体力で劣るからである。
騎士に於いて前衛と後衛を分けるのは魔法技能だけではない。体力と精神力のどちらに秀でているかも重要な判断基準となる。そもそも体力に秀でると前衛向きの技能を、精神力に秀でると後衛向きの技能を有する傾向が強いので迷う事が稀で、女性で前衛向きの技能を持つ者自体が珍しいらしい。
華蓮はそんな定説を無視して、体力に秀でている上に近接戦闘向けの魔術と強化魔法の技能持ちと言う前衛職として文句無しのステータスを有していた。しかしここで「おや?」となる数値が変換効率40.0%だった。
魔力変換効率は七割を超えれば上級騎士となるが、五割を下回ると下級騎士となる。要は魔法技能を持っているが、魔力量が少なくて大した魔法が使えないミソッかす扱いされる不遇の人達だ。華蓮の場合は体力、精神力がずば抜けているので魔力量だけなら上級騎士を上回るのだが、それをしっかりと評価できない人物が軍上層部に居るのが大問題だった。そう、短絡皇子ガーランドだ。
元より彼は召喚当初のやり取りから剛田並に華蓮の事を毛嫌いしていた。そんなガーランドにとって華蓮の変換効率の低さは格好の攻撃材料になってしまったらしく、理不尽にも役立たずのレッテルを張られ指導役を割り当てて貰えなかったのだ。更に追い打ちをかけたのが”魔刀剣術”の技能だった。
この”魔刀剣術”、”魔剣術”の派生とも言える魔法技能で、剣術ではなく刀術を用いる魔術である。どうやら【スフィア】にも刀はあるらしいが、お約束と言うか帝国には無かった。遠い異国で作られており、当然”魔刀剣術”もその異国で使われている魔術であり、ギャレリア帝国にはその使い手は居らず、指南書の類も殆ど無い。つまり指導してくれる者が居ない……よって指導する必要は無いというガーランドクオリティな処置によって、華蓮は独力で訓練する羽目に陥ってしまったのだ。
それでも華蓮はめげずに自分から騎士団を訪ねて指導を仰ごうとしたのだが、ここで止めを刺したのが女である事だった。
この世界、日本に比べて男尊女卑の風潮が強く、己の適性に見合った騎士団を訪ねたは良いが、そこは当然前衛職に特化した騎士団で、団員構成は男性が十割な男尊女卑の巣窟だった訳で、テンプレの如く華蓮は侮りと嘲笑の洗礼を受ける事になる。
曰く、『女の分際で剣など生意気だ』、『魔刀剣術などお遊びだろうに』や『殿下に見放された輩め』と言った罵詈雑言をたらふく浴びて、結果どうなったかと言うと……そこは普段は理知的でも理不尽や横暴に対してこれでもかと反発する”紅蓮の剣姫様”だ。何と肉体言語で返答し、騎士団の三分の一にも及ぶ重傷者を量産したとの事。そもそも魔法無しの素の身体能力で強化魔法を使った上級騎士を歯牙にもかけない能力を有する上、”魔剣術”に頼らなくとも【地球】で磨いた剣道の力量を以てすれば当然の結果とも言えた。
そんなこんなで皇子だけでなく騎士団にも嫌気が差した華蓮は、それなら兵士に混じって自主訓練でもした方が万倍マシと開き直って今に至るという訳だ。ただ、前述の事実から「今更訓練いる?」と誰もが思ったのはここだけの話。
そんな彼女にとって一番の幸運だったのが賢司の存在だろう。以前、アキトに対して『帝国騎士団の訓練内容って効率悪くない?』と念話で語った通り、賢司は帝国式の魔法訓練に少々思う所があったらしく、指導を担当する騎士団を放置して独自に訓練を積んでいた。
そしてその常識外れの聡明さを駆使して、何と独力で魔法を習得してしまったのだ。因みに”念話”もその一つである。そんな賢司だが華蓮の置かれた状況を知るや真っ先に彼女のもとに駆け付け、独自の魔法訓練法を華蓮に教授したのだ。そのお陰で華蓮は”強化魔法”の習得に成功し、今では帝国騎士を軽く凌駕する使い手に変貌していた。
続いて賢司はと言うと、ステータスは以下の通り。
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城島 賢司 16歳 男
体力 :800
精神力 :2500
魔力 :1500
変換効率:90.9%
魔法適正:地B 水B 火B 風B 光B 闇A
魔法技能:付与魔法
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見事な後衛特化な能力値、変換効率に至っては驚異の九割越えだ。魔法適正も全体的に平均を上回っているので、これで魔法技能さえ恵まれていれば剛田や愛奈に並ぶチートとなっていただろう。しかし所有する魔法技能は”付与魔法”のみ。
この”付与魔法”、味方の魔法を強化したり、味方の物理攻撃に魔法属性を付与したりと聞くだけなら結構有益な魔法だと思えるのだが、これまた帝国ではあまり優遇されておらず、その所為で賢司に対する評価もやや微妙なものとなっている。
因みに賢司が習得している”念話”は魔法技能として確立されていない為にステータスに表示される事は無い。一応、魂魄――精神に作用する闇属性魔法に分類されているので、闇適正の高い賢司は習得できたと考察される。後は習得に必ずしも魔法技能が必須ではない事の一例とも言えた。
それは兎も角、後衛として高い素養を有しているので後天的な魔法技能の習得を期待されて、後衛職特化の騎士団に指導を受けていた賢司だったが、周囲の期待とは裏腹に自身が生まれ持った”付与魔法”に強い関心を持ち、指導役にもそっちの指導を求めたらしい。
結果は言わずもがな、即答で却下。それまでに魔法の訓練方法について思う所があった賢司はこれをきっかけに騎士団からの指導を拒否し、独学で訓練に励むようになった。
時を同じくして華蓮の置かれた状況を知った賢司は、華蓮を誘って共に訓練を行うようになって今に至った。余談だが、賢司が華蓮と彼女が訪ねた騎士団との間で起こった出来事を知った後、ただでさえ団員数が激減して困窮していた騎士団に更なる団員数の半減という悲劇が降りかかったらしいが、真相を知る者は居なかった。ちょっとした異世界ホラーだ。
最後に守のステータスはこのようになっている。
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立石 守 16歳 男
体力 :1800
精神力 :1500
魔力 :1200
変換効率:72.7%
魔法適正:地A 水C 火C 風A 光D 闇E
魔法技能:結界魔法
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基礎能力は華蓮に次いで優れており、転移組第三席と言った所だ。ただしこれまた魔法技能が(帝国的に)よろしくなかった。
守が持つ技能”結界魔法”は拠点を保護する魔法障壁を生成する魔法で、現在人間族で確認されている魔法技能の中で最も規模が大きい魔法とされている。最も有名なのは帝都アヴァロンを覆う大結界で、帝国が有する”結界騎士団”が総出で展開している。
つまり魔法技能としては重宝される類なのだが、そもそも使われる魔法式が膨大で個人で発動できない欠点がある。それ故に前線で活用される事は無く、専ら拠点防衛に携わる裏方であり、付け加えるなら大勢で発動する事が前提である為に守のように一人が基礎能力が優れていた所で利点が少ない。
その所為で守の扱いは魔法技能が無いのに無駄に基礎能力の高いアキトや非戦闘職である美矢に近く、案の定”結界騎士団”の指導を受ける事となった守に求められたのは帝都の大結界維持であった。
無論、守に帝都を防衛する気など皆無で、賢司からいずれ帝都を去る計画を聞かされてからは殊更に課せられた訓練を放棄するようになった。
そして華蓮と賢司が一緒に居るなら当然そこには守も呼ばれる訳で、帝国側の意向を完全に無視した幼馴染三人の訓練が今日まで続く事となったのだ。
元々微妙な能力だった為か既に帝国側も彼女らを見限っており、華蓮、賢司、守の三人組が好きにしてようが咎める者は居ない。華蓮達もそれを一切気にしない所か、寧ろ嬉々として訓練に励んでいる様子だった。
端から――特に帝国側から見れば何とも無意味な研鑽を積んでいるように見えるだろう。しかしアキトには分かっていた。きっかけは兎も角、現在の三人が敢えて帝国側から重宝されないよう振る舞っていることを。
――重畳、重畳。これは計画を早めても問題無さそうだな。
剣姫様一行の訓練を満足そうに眺めながら、アキトは練兵場に背を向けた。去り際に”念話”を行うのも忘れない。
『今夜ミーティングを行う。場所は愛奈の部屋で宜しく』
『……了解』
応えた人物が誰かなど問うまでも無い。元黒竜と共犯者による帝国脱出計画が現実味を帯びてきた。
読んでくださっている方、心よりありがとうございます。
次回は来週土曜日に投稿予定です。




