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黒竜は異世界に帰る  作者: 夢見シン
第二章
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続 黒幕はヴァシュロン聖法国?

 前回と合わせて一話……みたいな話です。

 帝国では教皇アレハンドロの死が公にされた後、アレハンドロに成り代わっていた天使によって乱された教会を正す為に迅速な組織再編が行われたのだが、その際に出るわ出るわアーリア聖教が関わったであろう痕跡の数々。


 教会内でも不穏な気配を以前から懸念していたが案の定、教会内部はかなりの深部までをアーリア聖教に食い潰されていた事が判明したのだ。


 トップであるアレハンドロが乗っ取られていたのだから当然と言えば当然で、現在の教皇である元枢機卿のように要職にあった人材は左遷または排除され、代わりに聖教側の間者が後釜に据えられていたらしい。


 実はこういった流れはアレハンドロが存命だった頃から起きていたようで、アーリア聖教は長い時間を掛けてアーリア神教を侵食していたのだ。


 神教側もそれらを座して見逃していた訳ではない。懸念を抱いてから水面下で疑わしい輩を排斥しようと虎視眈々準備を整えており、ガーランドの失脚を機にアーリア神教はこれまでのアーリア聖教の行いに対し即座に報復へ踏み切ろうとしたのだが、それが実現する事は無かった。


 何故ならスカーレットが無事帝都に凱旋した時と合わせて、聖教側と思しき者達は一斉に帝国から撤退していたからだ。


 先に言った通り、その際にアーリア聖教を示す痕跡は大量に残されてはいたがヴァシュロン聖法国に辿り着く証拠は発見されず、アーリア神教としてもギャレリア帝国としても一切の反撃が許されなかった。


 いや、仮に何らかの証拠が残されていようともヴァシュロン聖法国を責める事など帝国にはできなかっただろう。


 天使の暴虐と聖教の介入は無関係ではない。聖地にてセレナが指摘した通り、天使とアーリア聖教は深い関係にあると誰もが察した。事後処理や組織再編に追われる帝国にあのような人外を擁する聖法国と正面切って戦り合う余力は無い。


 ヴァシュロン聖法国が介入していた事は間違い無いだろうが、今回はその企みを防げただけで御の字だとスカーレットは言っていた。尤も一体何の目的で帝国の内政を混乱させたかまでは分からなかったが。


 魔人国と国境を接する帝国を弱体化させれば人間族にとって損失にしかならない。それともこの機に乗じて人間族の領土を統一してしまおうと画策していたのか?


 狙いを絞る決め手に欠けた故に必要以上の考察は保留しつつ、それでもアキト達は帝国を旅立って以降、これと同じ事が大陸中部で起きるのではと警戒しつつそれに巻き込まれる覚悟も決めて旅を続けて来た。


 聖法国が大陸中で暗躍するなら、大陸を旅する自分達と天使との遭遇は高確率で有り得る。そうなればその向こうにはヴァシュロン聖法国の影が確実に在るのだから。


「予想通りな展開ではあるけど、まさか旅立って一つ目の国で巻き込まれるとは思わんかったよ。でもマジで何が狙い何だろうな? 実は聖法国って魔人族と結託してるとか? 魔人族が侵攻するお手伝いがしたいとか?」


 これまでを振り返って溜息を漏らす守がお試しに推測を述べるが、アキトが即座にその可能性を否定した。


「絶対有り得ねぇ。連中の人間族至上主義は筋金入りだ。奴らは何があろうと自分達以外の種族と手を組まねぇよ。それが例え共通の目的を持つ輩でもな」

「ふーん、まぁ今の魔人族の考えなんて俺っち知らんから目的が共通してるかどうかも分かんねぇけど。それにしても実感籠ってんなぁ……流石前世から因縁のある相手だけはあるじぇ」


 守の呟きの通り、アキトにとってヴァシュロン聖法国は女神アーリアと配下の天使共と同じくらい因縁がある国だ。そもそも二〇〇年前から天使は聖法国と密接な関係だったので等しく敵だった。


 アキトの前世に於いて竜族はアーリアの策略によって大陸中で神敵とされていた。特に人間族はその煽りを強く受けていて、当時の人間族を率いていたのがヴァシュロン聖法国である。


 アキトが竜族として死を迎えた二〇〇年前より以前の時代ではギャレリア帝国は存在しておらず、聖法国は人間族の宗主国として完全な一強として君臨しており、その影響力で以て竜族を人間族の敵として認知させていたのだ。


 竜族にとって人間族そのものは脅威ではなかった。しかし全種族中で数だけは一番の人間族が大陸中に監視の目を張り巡らせ、見つかれば即天使に通報される環境は厄介以外の何でもない。最終的にはアーリア軍勢の切り札である竜封じも人間族――強いて言うなら聖法国民の尽力によって成された事実から、アキトにとってヴァシュロン聖法国も立派な仇敵であった。


 余談ではあるが、当時はアーリア神教、アーリア聖教と分けられず”アーリア教”の一つだけしかなく、その教義は現代のアーリア聖教そのものだったそうだ。


 おそらくアキトが前世で死んでから何らかの事情で宗派が分かたれて、割と真っ当なアーリア神教が起こされたのだろうと、そしてそれを国教とするギャレリア帝国が建国されたのだろうとアキトが語っていた。


 アーリア教の存在は現代の【スフィア】でも認知されており、歴史家や各教会の教徒の間で神教と聖教のどちらが本家かと常々論争が巻き起こっているのだが、当時の歴史を知るアキトによってアーリア聖教が本家である事が確定していた。


 因みにアキトはヴァシュロン聖法国との因縁を仲間内でしか話していないので、帝国やアーリア神教の関係者達はこの事を知らない。正に知らぬが仏である。


 閑話休題それはさておき。アキトと同じく当時を知る生き証人マオランが迷惑そうに零す。


『あの国は今も昔も相変わらずだな。昔より領土を削がれたと言っても力そのものは衰えておらんから質が悪い。自分達の意の反する者達にちょっかいを掛けんと気が済まんのだ』


 まるで聞き分けの無い子どもを叱責するような言い草なマオランに思わずアキトが苦笑いを浮かべた。確かにマオランから見れば大概の輩は子ども同然だが、アキトからすれば聖法国にそんな可愛げなど皆無だからだ。


「マオランよぉ、他人事みたいに言ってっけど今回はお前も連中の標的かもしれねぇって事理解してるか?」

『心配せんでも分かっておる。お主の推測は少々突飛ではあるが、我も可能性を否定できん』

「それなら良いけどよ」

『それでも解せんのだよ。奴等の勝手さはよく知っているが、今更霊獣に手を出す理由が分からん。奴等に疎まれている自覚はあるが……』

「それ以外に……お前何か連中の恨みでも買った?」

『…………覚えが無いな』

「ボケたか婆さん?」

『二度目の死を迎えたいかアカツキ?』


 空気的には関西人が友人同士の会話で「シバく」や「殺す」と言うような感じなのだが、そもそもな生物的な格が違い過ぎるので場を満たす殺気が半端無い。唯一な常人である守の意識が天に召されそうになるが、そこは歯を食いしばってそもそもな疑問を問う。


「んん……! あのよ……そもそもアーリア聖教で霊獣ってどういう扱い?」

「ん? まぁ……魔獣と変わらんかな」

『非常に業腹な話ではあるがな……魔獣などと同列に語られるなど。奴等は霊獣とは言え獣が知恵を持つ事が気に入らんのだ』


 つまりは神敵ではなくただの害獣と見られている。しかし安易に手を出してはいけないと思う程度に畏怖はしている筈だった。少なくともアキトが知る限り聖法国が霊獣を害した事は無い……と言うより天使なら兎も角、人が霊獣にかなう道理など無い。


「となると……長年の努力で霊獣を倒す手段を開発したとか? それを試したくて事を起こした?」


 守にとって殆ど思いつきな発言だったので「んな訳あるか」とツッコまれる事を期待していたが、アキトの反応は肯定的だった。


 逆に守がツッコむ。


「マジか有り得ねぇだろ? そんな下らねえ理由で大災害の引き金引くか?」

「手段そのものは見当もつかねぇけど、実はそれが一番可能性が高いと俺は睨んでる。聖教の教徒にとって教義は絶対……故に人間族以外が知性を持つ事を認められない。獣人族にすら否定的なんだ、意思在る獣なんて容認できる訳がねぇ。その為なら異教の国がどうなろうと知ったこっちゃねぇよ」

『だとしたら浅はかな理由だな。今までは霊獣を御する術が無い故に敢えて見逃していたと言われそうだ。実の所は生み出した力を試さずには居られないだけであろうが……人の業と言っても悲しいものだな。二〇〇年前……竜族を無力化した時もそうだ。それまで不干渉だったというに、天使が竜族に対抗できると知るやすぐに手の平を返した』

「……そう言えばそうだったな」


 当時を思い出してアキトの表情が不快そうに歪んだ。昔も今も聖法国を度し難いと思わずに居られない。それ以上に友を新技術の実験台にしか見られていない事が不愉快だった。


 未だ根拠の無い推測ではあったが、アキトとマオランの中では合点がいったようで黒幕の犯行動機はこれにて確定である。


 そうしてアキトの憤る様子を守は内心複雑な気持ちで眺めていた。


 目的の為にマオランの命を奪おうとしているのはこちらも同じ。寧ろ奪命する事が確定な自分達の方が質が悪いとすら感じていた。


 勿論、当のマオランが自身の命より大切なものを持っている事は理解しているし、アキトがその意を汲んでいる事も痛い程分かっている。しかしそこまで考えているならどうにか命を奪わずに事を成す方法の一つや二つ考えてくれても良いだろうに。


 そんな都合の良過ぎる願望を抱く守だったが、それがマオランに対する気遣いでなくレイランに対する気遣いである事は自覚できていなかった。


 代わりにレイランの行方が無意識に気になりだす。


「……そう言えばレイラン遅くね? ここが荒事の現場になるなら一人にしとくのは危険じゃね?」

『心配してくれるのは嬉しいが、レイランなら自分の身は自分で守れる。それに一人でなくガウランも一緒に居るのでな』

「今の所近くに怪しい気配は無いから大丈夫だろう。……なんて言ってる内に帰って来たみたいだぞ」


 アキトの通告のすぐ後、まるで守の懸念が杞憂であるかのようにレイランが姿を現した。

 読んでくださっている方、心よりありがとうございます。


 次話を再来週土曜日に投稿します。


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