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黒竜は異世界に帰る  作者: 夢見シン
第二章
55/62

語らい……からの、やっぱり急展開

 今回の内容に合わせて、前話のレイランとガウランの関係を”姉弟”から”兄妹”に修正しました。

 それから多くの事を語り合った。


 アキトは竜として死んでからレイアによって異世界に転生した事を。


 マオランは既に寿命が尽きかけていた時にレイアによって延命された事を。


 アキトが続けていきなり【スフィア】に呼び出されて、【地球】に帰還する為にレイアの分霊を集めている旨を話すと、マオランもいずれアキトが【スフィア】に戻って来る事をレイアから聞かされており、その時に渡して欲しいと分霊を託されていた事を告白した。


『その後に先程言った通り、この地の守護を任されたのだ。摂理に反した延命とは言え、その間何もしないというのも困るので引き受けた次第だ』

「それに何か意味があったのか、それとも単純に分霊を散らばらせる位置関係を考慮したのか分かんねぇな」

『もしかしたら大した意味は無く、無理に延命させた我に気を遣ったやもしれぬな。それより異世界とは……まだまだ我の知らぬ世界があるというのは中々に浪漫があるではないか。先の妙な特性も異世界人ならではという事か』

「転生も含めて相当に刺激的な経験だったよ。出会った友……守も含めて五人と一緒に飛ばされたんだが、皆が地球人としての特性だけじゃなく人として個性的な面白れぇ奴らでな、十七年程度の異世界人生活だが前世に勝るとも劣らない充実した生だった」

『遺言みたいに語るな。我じゃあるまいし』


 そこまで言ってカンラカンラ笑い合う元黒竜と霊獣狼を、守が心ここに在らずと言った様子で眺めていた。それまでに話された内容も聞こえてはいたが殆ど右から左に聞き流して全く飲み込めていない。


 守の心境は今やそれ所ではなかった。


 守を含めて転移組の全員が最も望むのは【地球】への帰還である。その為なら如何なる事態も乗り越える気概を持っていたが、これは流石に重い。


 マオランは残り少ない命をレイアの分霊を宿す事で繋いでいる。それはつまりレイアの分霊を手に入れる為にはマオランを殺さなければならないのだと守は理解していた。


 そして直前のレイランの様子から、彼女がマオランを親同然に想っている事も理解できていた。


 自分達の望みの為に、誰かの大事な命を奪う。こんな事は想像だにしていなかった。


 そんな守の胸中を十分に察しながら、アキトは敢えて放任してマオランとの語らいを続ける。


「そういうお前は何か遺言ある? 高確率で看取る事になるし、あるなら聞いておきたいんだが」


 デリカシーの欠片も無い。守も真っ青な発言に守が思わずビクンと反応するが、言われたマオランは他人事のように面白がっているのみ。


『そう急かすな人でなしめ。急いでいるのは分かるが我を死に急がせるな。我自身、そろそろ眠りにつきたい所存だが少々待たねばならん事情があるのだよ』

「それってあのレイランって娘の事か?」

『あの娘は関係無い。いや……放置はできぬが、それは我が気にする事でお主の気を煩わせる事ではない』

「……となると……この霊脈がそろそろ役目を終えそうだとか?」


 アキトとしては考えられる可能性を順番に口にしただけだったが、どうやら二番目が当たりだったようでマオランは静かに首を縦に振った。


『数年前から予兆はあった。そして半年程前から目に見えて源素が薄れてきてな、今のように限定的ながら人の子が足を踏み入れるようになってしまった』


 言われてアキトがさり気に疑問だった事案が解決する。本来”霊脈”は魔獣にとって最良の領域であり、人間族や獣人族では生存できない場所である。しかし現在のダイダラ霊山は限定的ではあるも人が侵入できる場所として成り立っている。


 おそらくは霊脈としての機能を喪失しかかっているのではと予想はしていたが、マオランの説明によってアキトの仮説は証明された。


「……となると、今お前が居なくなれば淀みになるな。そうなると起きるのは……氾濫だな」


 アキトの言う”氾濫”とは、言ってしまえば魔獣の大移動である。何らかの事情で住処を追われた大量の魔獣が一斉に新天地へ移動する現象であり、この世界の住人にとっては厄介極まりない天災だ。


 規模によっては街の一つや二つが地図から消える被害を叩き出し、対処には国そのものが当たる重大な事案となる。


 これにマオランの存在が関わってくるのは、そもそも霊獣が何の為に霊脈の守護を務めているかについて知らねばならない。


 霊脈とはアキトが守に語ったように世界を巡る源素を生み出す場所であるが、自然現象であるが故にその生成量は常時一定という訳ではない。


 時に想定外に大量な源素を生み出す事もあり、それは異常に高濃度の源素が留まる地帯――”淀み”を生み出す原因となる事もあれば、そうでなくともその地に生息する魔獣達に悪影響を与える。


 それらを防ぐ為に霊獣はその地に留まると、生成される源素量を一定に保つよう霊脈に干渉するのだ。


 人族や魔獣、竜のように体内で生成される魔力を操作する種族と違い、彼らは自然界の源素そのものに干渉する術を持つ。それが霊獣であり、この世界の平穏を保つある意味”調停者”と呼べる存在なのだ。


 そんな霊獣にとって最大の役目と言えるのが、役目を終える霊脈の後始末である。


 マオランが以前は別の霊脈の守護をしていたように、霊脈とは永い年月を経ると源素の生成機能を失う。


 そうなるとただ源素濃度の高い霊域となるなり、または通常の土地に変わるなりして別のどこかに新しく霊脈が生まれたりするのだがそれは一旦置いておいて、この機能喪失には段階がある。


 第一段階では霊脈の源素濃度が低くなる。そして一定期間この状態が続いた第二段階に移行すると、かつてない程の大量の源素を放出する。それは最期の大生産とも言える現象で、それを終えると霊脈は機能を失うのだが、生み出された源素を放置するとそれが大問題となる。


 放置されればその地は十中八九”淀み”となるからだ。如何に人よりも源素耐性が高い魔獣といえど、淀み程の源素濃度は不快に感じるので確実に氾濫が起きる事となるだろう。


 なので守護に当たる霊獣は自身の持てる源素干渉能力を最大限に活用してこれを収める。それが彼らにとって最も大事な役割なのだ。


『じきに源素の大放出が起きるだろう。残念ながらガウランにはまだそれを収める力が無い。よってそれまで我は生きなければならん』

「別にこの周辺がどうなろうがどうでも良くないか? お前だって無理矢理生かされてまで務めを強要されるのは不本意だろうに」

『ふふふふ、相変わらず竜は他者に対して情が無いな。しかしそうはいかんよ。例え不本意だろうと生きている以上”霊獣”としての務めを全うする……我は死ぬときまで”霊獣”としての矜持を持っていたい』


 己の存在意義を譲らないマオランにアキトは微笑んだ。調査団のベースキャンプは元よりこのソルファレン王国がどうなろうと知った事でないアキトだが、古き友が自身の矜持を遵守したいというなら是非も無い。


 元々こちらの求めが聞き入れて貰えるとは思っていなかったので、あっさりアキトはマオランの希望を尊重する事にした。何より信頼する友人が、不本意に生き永らえていようとも誇りを持って生きようとしてくれる事が嬉しかった。


「良し、そうなると調査団からの邪魔も入って欲しくないな。俺の仲間もキャンプには居るし、話の分かるお偉いさんも居る。言えば今までみたいにレイランと犬に露払いして貰う必要は無くなると思うぞ」

『助かる。この時期は可能な限り些事に煩わされたくないのでな。……ついでだが、犬と言ってやるな』


 苦笑いしながら己の分身への扱いに苦情を言うマオランに、アキトは適当な相槌を打つと”念話”を発動してキャンプに居る賢司にこれまでの情報を伝えた。それらは賢司からレオルドやルネスに伝えられるが、その際は当然レイアや自分達の目的を伏せて、あくまでダイダラ霊山の調査結果として報告されるだろう。


 そうして途切れた会話の隙間に、”レイラン”が少々話題となった為に意識がそこだけに向いていた守が唐突にマオランへ疑問を滑り込ませた。


「なぁマオラン、レイランは何でここに? いつから霊山に住んでんだ?」


 急激な話題転換。ただ守はこれまでの会話を聞き流していたので自覚は無かった。


 その問いにも守として深い意味があった訳ではない。悪い意味でいつも通り話の流れを無視したKY発言であり、良い意味では今聞いておきたいという直感に従ったまで。


 普段いつも通りのメンバーなら呆れ口調に『今それを聞く?』とツッコまれるのが定番だが、マオランは違って戸惑い無く穏やかに答えてくれた。


『レイランか? ……今から十年少し前になるか、ガウランが幼いレイランと死にかけたあの娘の母親と一緒に連れて来たのだ』


 淡々と語られた過去に守が目を剥く。それってまさか……。


『あ~誤解するでない。ガウランが襲って無理矢理連れて来たのではない。そもそも我ら霊獣は大気中の源素を摂取していれば生きられる。食事は嗜好もしくはまとまった源素を補給したい時以外にする必要が無い。仮に食すにしても人は魔獣に比べて保有する源素が少な過ぎて足しにならん』


 言われて守はホっと胸を撫で下ろした。それを見て、実は当時ガウランに対して同じ疑惑を抱いたマオランが問い詰めた所、『非常食』と宣ったのできつく叱責した事実をマオランは飲み込んだ。世の中には知らなくて良い事実がある。


 当時はガウランも生まれたばかりで少々やんちゃで、よく霊山を抜け出しては外から余計な物を持ち帰っていたらしく、レイラン母子もその一つだったらしい。


『その頃まだこの地は霊脈として真っ当な機能を有していたのでな、とても人が生きられる環境ではなかった故にすぐさま我が母子を結界で保護したが、残念ながら母親の方はここに来る前から既に虫の息でな、我にレイランを託して息絶えたのだ』

「……それでレイランを引き取ったのか? どうして? 縁も所縁も無い他人だったろうに」


 守の次なる問いに、マオランは可笑しそうに笑うと更に答えを重ねた。


『お主はアカツキに似た考えをするのだな。あ~待て、責めている訳ではない。寧ろ自然な疑問だと自覚しておるよ。……正直に言えば、我にも分からん。失望するかもしれんが気紛れと言えばその通りだろう。他に理由があるとすれば――』


 先程アキトに対して『情が無い』と言った手前、同じく情が無いと言ってしまったと感じたマオランがフォローを入れた。別に守は気にしていない……何となく自覚があるし、そこがアキトに対して守が最もシンパシーを感じる点でもあるのだから。


 それとマオランに対して失望もしない。衝動や直感で動く時もある……昨日レイランを助けた守のように。ただ他にも理由がありそうに話を続けるマオランに守が耳を傾けているのに、マオランは話の続きを一向に再開しようとしない。


「……マオラン?」

『ん……あぁ、すまんな。他の理由が多々あってどれから言おうかと……。強いて言うなら情が湧いた、不憫に思ったと言った所か』


 割とありきたりな理由ではあったが、それで育てようとして実際ここまで育てたのなら十分に尊敬に値すると守は感じた。だからだろうか、その詳細を知りたいと強く思う。誰かの心情に踏み込もうとするのは守としては珍しい。


「人里に下ろして誰かに任せようとは思わなかったの? 霊獣であるあんたが人の子を育てようって素人目に見ても無茶な感じがするんだけど」

『全くだ。悪戦苦闘の連続だったよ。この十年余り……永く生きる我の生の中でも一際苦労する日々だった。まぁ、それと同時に面白く活力に溢れる日々でもあったがそれは置いて……我も人の元へ預けるべきとも思ったが、それはあの娘の為にならんとも思ったのだ』

「それは何で?」

『それを話す前に確認しておきたい。守は”半獣人”を知っているか?』


 唐突に新たなキーワ-ドが飛び出た。普通なら話が飛んだと戸惑う場面だが守にとっては問題ではない。だって守自身がしょっちゅう話を飛ばす名手だし。


「初めて聞いたけど、大体察しはつくよ。レイランみたいなのを言うんだろ?」

『その通りだ。レイランはただの獣人族ではない。獣人族は皆が獣を人のような体格にした外見をしており、レイランのように人間族の見た目に獣の尾や耳を持つ外見をした者は居ない。あれは獣人族と人間族の血が交わって生まれた子なのだ』


 大体の予想はできていた。ここに来るまでに見た目様々な獣人族を見て来た守もレイランのような外見をした獣人族は見た事が無い。そこに守がよく嗜んでいた【地球】由来のファンタジー知識を導入する事で、珍しく察しの良い推理を披露する結果となった。


「半獣人は両種族から疎まれてるって事?」

『その通り。嘆かわしい事だがな。災厄を招く存在として扱われるのだよ。我からすれば根も葉もない迷信だ。しかし偶に人里の様子を見る限りその意識は未だに人族の間で根強く残っていてな、仮にレイランを人の世に渡らせても良い結果にならんと思ったのだ。それではあの娘の実母との誓いを果たせん』

「レイランのお母さんは人間族だった?」

『うむ』


 ならば父親は獣人族だったのだろう。この国の者だったのかはさて置き、この時点で腑に落ちない点を守が問い質した。


「でも人間族と獣人族との混血なんて結構居そうなもんじゃない? この国なら異種族同士が仲良く暮らしてるんだし、種族を越えて結婚する男女ってそれなりに居る気がするんだけど」

『確かの居る……っと言うより昔から一定数異種族間でも婚姻を結ぶ者達は居た。それこそアカツキの前世の時代からな。しかし、異種族同士で子を成した場合は大抵父か母のどちらかの血しか受け継がれんのだ』

「つまり純潔の人間族か獣人族しか生まれてこないと?」


 マオランが言うように、人間族と獣人族の間に生まれる子は父親と母親のどちらかの種族となる。半獣人として生まれてくる命は数十年に一人居るか居ないかという低確率なのだ。


 故に半ば伝説として扱われているのだが、それが災厄の象徴としての迷信に拍車を掛けている現実がある。産んだ親ですら忌避する程に。


『レイランもそうだっと思う。我と会った時には既に物心がついていたのでな。それに関しては我も詳しく聞いた事は無いが、おそらく父である獣人族から拒絶されたのであろう。あの娘は自分と母親を害した者と同類である獣人族を烈火の如く嫌っている。今ではその延長で人間族を含めた人そのものを嫌悪している始末、とても人の世界で生きていけん』


 守は知らない事実だが、レイランがダイダラ霊山に侵入して来るハンター達の中で特に獣人族に対して苛烈であった理由がそれだった。そして人間族に対してもあくまで獣人族と比較して嫌悪が薄いというだけで、レイランは基本的に人が嫌いなのだ。


 本来なら調査団への事情説明をもっと早くするべきだったのに今までそうしなかったのは、レイランが純粋に嫌がっていたから。結果として人間族にも粗雑に対応されたと感じたレイランの人嫌いはぶっちゃけ加速している最中だったりする。しかし、


「そうなんか? 俺っちには普通に話しかけて来るぜあの娘」


 アキトに対しては先程のやり取り以前にただ強者として警戒しているだけとして、守自身はレイランに対してそんな印象は全く受けていない。それを聞いてここぞとばかりにマオランが鼻息を荒くする。


『そう、そうなのだよ守よ』

「うおぅ! 何!?」

『それは我も気になっていなのだ。お主、どうやってレイランに気に入られた? その娘が命を救おうとまで気を許すなど我でも驚きだ。一体何をしたのだ?』

「い、いやぁ~大した事した覚えは無いんだけど――」

『まぁ詳細はこの際どうでも良い。これは後でアカツキにも相談しようと思っていたが、まずは守に聞いて欲しい』

「ハイナンデスカ?」


 距離を詰めるマオランの余りの圧力にカタコトになる守。そして続いたマオランのお願いに今度こそ脳がフリーズする。


『守よ、レイランをここから連れ出してはくれんか?』

「……………………ふぇ?」


 いきなり過ぎる提案に間抜けな声しか出せなかった。その言葉の意味をすぐ噛み砕くには守の脳内キャパシティーはちょっと頼りないのだ。何とか分かり易く飲み込もうとあくせくする守だったが、そこに横槍を入れる者が居た。……と言うかアキトしか居ない。


「マオラン、話がある……何か話してたか?」


 話の腰を折られても守は勿論マオランも不快な態度は見せなかった。寧ろ守は安堵したくらい。しかしそれはすぐに緊張をはらんだものとなる。それはアキトの纏う雰囲気がついさっきとは打って変わってやや気張ったものだったからだ。


 良くない状況だと察したマオランが意を汲む。


『構わん。して、何があった?』

「さっき賢司に……キャンプに居る俺達の仲間に”念話”を入れたんだが、ちょっと厄介な事態になった。経緯は諸々端折って結論から言うと、ここに人の軍が攻めて来るぞ」

「どうしてそうなった!?」


 これっぽっちも状況を察する事ができない守が堪らず吼えた。

 次回は久しぶりに賢司達の視点となります。



 読んでくださっている方、心よりありがとうございます。


 次話を再来週の土曜日に投稿します。


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[一言]  前話を見直した。ガウランの方が年上設定ですね。  そして賢司も結構やんちゃで面白いから次回が楽しみ。
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