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黒竜は異世界に帰る  作者: 夢見シン
第二章
51/62

その頃の調査団ベースキャンプ

 更新が遅れて申し訳ありません。


 そして今年最後の更新となります。

「……双方、敵意を収めるんだ。これ以上続くようなら武力を以て介入する」


 アキトが守を追ってキャンプを後にして暫く経った頃。


 どう見ても戦闘跡地にしか見えない一角に残された賢司と美矢は、初日に世話になった警備隊長であるオルグの率いるベースキャンプ警備隊に包囲されていた。


 ついでに二人以外に当事者としてミハイルが居て、彼は賢司の胸倉を掴み上げている。対する賢司は抵抗らしい抵抗をしていないがその目は怯む事無くミハイルを睨みつけており、美矢は友人を害そうとするミハイルの背後から魔導具である杖を突き付けた状態で膠着していた。


 そこまで至った経緯は至極単純で、アキトが守を追ってダイダラ霊山に向かった旨を賢司が”伝心”を使って本部に居る華蓮達に伝え、増援が来るまで待機していた所に意識を回復させたミハイルが詰め寄って来たのだ。


 無理もない対応である。何せ自分をノックアウトした相手の仲間がそこに居れば文句の一つも言いたくはなるだろう。加えて回復したネーナが酷い状態のヨハンを発見した事もミハイルの激情に油を注ぐ要因となった。


 一方の賢司達も守が害された事から、とてもではないが素直に相手の言い分を聞き入れる事などできず、警備隊、そして騒ぎに釣られた野次馬が集まる頃には両者は一触即発の雰囲気となっていた。


 守が居ない為に、この場で一番の重傷者となっていたヨハンにネーナが救護班と共に迅速な応急処置を施す中、今にも一戦しでかしそうな雰囲気の賢司達に警備隊の緊張は否が応でも高まる。


「『武力を以て介入』だぁ? ……上等じゃねぇか、邪魔するならテメェら全員仲良く寝かせてやるよ」

「そんな事させない……って言うか、寝るのはあんたになると思うよ」


 そんな空気を余所に、オルグ達警備隊の面々に野獣じみた眼光を宿すミハイルが恫喝を放つと、それを全く意に介さない賢司が静かにはっきりと切り返した。


 暗にお前如き返り討ちにするのは容易いと言われたようなもので、オルグ達に向きかけていたミハイルの敵意(ヘイト)は再び賢司に向き直る。想定通りの反応だったのか、一切動じてない賢司も真っ向からその視線を受け止めた。その眼光に負けず劣らずの敵意を宿して。


「何その顔? まさか無理だとでも? こっちの連れを傷物にしてくれた輩をただで見逃す訳が無いだろ」

「……んだとテメェ!? そっちの連れこそうちの大将ボロボロにしてくれてんだろうがっ! ただで済むと思ってんじゃ……ん……げ…………がぁあああアアアアアアアアアアアアアアアアぁああっ‼」


 急な状況の変化にどよめく周囲。それもそうだ。敵意を交錯させていた両者の内、一方がいきなり苦しみ出したのだから。


 賢司の煽り文句に反応して殺意を混じらせた怒号を返したミハイルだったが、言い終える途中で急に悶えながら悲鳴を上げた。掴んでいた賢司の襟も手放し、地面をのた打ち回る。


 その様に警備隊や野次馬は勿論、美矢ですら戸惑いを隠せなかった。


「何やコイツ!? 急に苦しみおってからに…………って、ケンちゃん?」


 しかし美矢はすぐに察する。これが賢司の仕業であると。よく見ればミハイルの右脇腹辺りに白色に発光する魔力の針が刺さっていた。


 凄く見覚えがあるそれは賢司の光属性付与魔法”幻痛針”だ。


 肉体に作用する光属性の付与は、本来仲間の身体強化を行うのが常道なのだが、賢司はこれを感覚神経の強化――特に痛覚を強化するのに活用した。何の為にと言われれば、拷問の為である。


 賢司の【スフィア】に於けるライフワークの一つが魔法の研究開発であり、その中でも付与魔法の活用法の研究は念入りに行っていた。


 如何にして仲間を援護し、敵を害するかを考えた末に考案された魔法の一つで、その練度は今日までアキトに付き合って殲滅した盗賊団の生き残りを練習台(モルモット)にする事で相当なものとなっている。


 それこそ肌の上を虫が這い回るような不快感から、布が擦れるだけで傷口をやすりで削られるような激痛まで自由自在に対象へプレゼントできる程に。その気になれば痛みだけでショック死させる事も可能だった。


 因みに美矢が察し良く気付けたのは自身で経験済みだったからだ。以前アキトと賢司をネタに脳内妄想を腐心し過ぎたおしおきとして容赦無く付与された記憶が蘇り、美矢の顔が盛大にドン引いた。


 アキトと賢司の人間性をフォローする為に余談を語るなら、その時は痛みでなく急所をくすぐられるような感覚を痙攣するまで付与されて、結果としてその晩に失神する程度で済まされた。それでも十二分にトラウマだというのは美矢の談。


 そんなおしおき程度から本気の拷問まで幅広く活用できる付与を、賢司はミハイルに殆ど最大出力で行使していた。常人ならショック死してもおかしくない効果がある。


 実際、死んでも構わないくらいに賢司は思っていたし、美矢も美矢で引いてはいたがミハイルに対して一切同情してはいなかった。守を傷つけた代償にはまだ安いだろうと、二人は本気で怒っていたからだ


 最早転がる地面の感触すら激痛を伴う所為で微動だにできず、ただ蹲って震えるしかできないミハイルを賢司も美矢も冷え切った目で見下ろす。


 やや置いてけぼりな警備隊の面々は、三人の当事者達の様相を呆然と眺めるしかできない。その空気を一変させたのは黒い獅子姫――ルネスだった。


 周囲を取り囲む隊員を軽々と跳び越えて事の中心地に降り立ったルネスはそのまま賢司の手を取ると即座に地面に組み伏せる。突然の展開に美矢が狼狽した。


「ちょっ、ルネスはん!? いきなり――」

「ごめんなさい、貴女も大人しくしてね」


 しかし言い切る前に背後から首と腕を抑えられ無力化された。気配無く忍び寄ったのは兎獣人のペッピーだ。瞬く間に制圧された状況に大勢が面食らうが、隊長であるオルグは努めて冷静に振る舞う。


「見事ですな副団長。ペッピー嬢も相変わらず凄まじい。ここから見ても全く気付けなかった」

「これがわたしの売りですから。それよりオルグ隊長、この場を頼みます。このお二方はわたしと姐さんで本部まで連行しますので」


 昨日の負傷が嘘のように気配を殺して忍び寄ったペッピーにオルグが賛辞を投げると、ペッピーは妙に大人しくなった美矢を連れて歩き出した。合わせてルネスも組み伏せた賢司を起こすとペッピーの言った通りに連行し始める。対してオルグはどうしてと問い掛けた。


「本部まで? 警備隊詰所の牢屋でなく?」

「魔法で他者を害するような危険な輩だ。手前らが直接絞ろう。ミハイルもかなり怪しいが、一応実力行使は控えていたからな。そっちは警備隊で対応してくれ」


 つまりより危険人物だからより重い追及をこちらでするという事だ。確かにミハイルの有様を見ればかなり凶悪な仕打ちをしたようなものなので納得と言えば納得だった。ただルネスが直接尋問するとなるとそれは苛烈を極めるだろうなと、オルグを始め警備隊の面々は賢司と美矢に対して同情心が湧いた。


 そしていざ連行されるタイミングで賢司がオルグに告げる。


「あっオルグさん。そこの青野獣は五分ほっとけば元に戻るので。逆に言うと五分間はどうにもできないから、連行するならその後でお願いします」

「喋るな。大人しく歩け」


 この状況でも相変わらず平常運転な賢司をルネスが窘める。ただ警備隊として言われた内容については素直に有り難かった。未だに動けないミハイルは他人が触れようものなら発狂ものの激痛が走る有様なので、連行するには付与が施された状態をどうにかして貰わないといけないからだ。


 継続的に魔力を供給すれば何時間でも状態を維持できるが、幸いと言うかそれを断てば数分程度で付与は自動解除される。それでも後五分もこのままという事実に、警備隊の隊員達は賢司の人物像をかなり畏怖される方向に固定した。ここまでしておきながら平然とミハイルを”青野獣”と罵る様もそれを助長する。


 兎も角、ルネスとペッピーの介入により刃傷沙汰一歩手前なトラブルは解決した。ミハイルをどうにかする為にオルグ率いる警備隊はその場に残る事となり、賢司と美矢はルネス達に連行され本部へと向かった。


 残った者達の中にこれが半ば仕組まれた結末だと気付く者は誰一人居なかった。


 ====================


「上手くいきましたね、ルネス姐さん」

「あぁ、いきなりな提案をされた時はどうしたものかと思ったが」


 場所は調査団本部の団長室。騒ぎを起こした者達の聴取を行う名目でルネスは賢司達をここに連れて来ていた。実際は聴取ではなく最初から仕組まれた予定通りに行動した結果である。


 提案者は当然、賢司であった。


 アキトに後を任された賢司は後の状況を冷静に分析した上で立ち回りを決めていた。守が何故にヨハン達と一戦交えたかについては親友の内面をよく知るが故に、大凡の仮説を立てていたがそれは今回はどうでも良く、守がヨハン達と一戦交えたという事実と……それ以上にアキトがヨハンを半殺しにした現実が重要だった。


 理由は何であれ調査員同士で諍いを起こしたのだ。そして双方の当事者はこの場に居ない、もしくは会話ができない状態なので残された賢司達に追及の矛先が向くのは明白だった。キャンプ内で騒ぎを起こせば警備隊に拘束されるのが基本であるからだ。


 だがアキトが守の助命と併せて体良く霊山に赴いた現状に於いて、きっとアキトは守を救った後でそのまま霊山に留まるだろうと予測していた賢司は、可能な限り送られてくる情報を生かし易い立場で居たい故に拘束される事態を避けたいと考えた。


 その結果ヨハンらは兎も角、賢司達だけは警備隊でなくルネスらに拘束される形を取り繕うのが都合が良いと結論付けたのだ。


 その為に一計を案じると、守の件も含めたそれらを”伝心”で本部に残っていた華蓮に伝え、ルネス達にご足労を掛けて貰った訳だ。


 ルネスとペッピーが二人を組み伏せたのも予め決めていた事で、その行為に説得力を持たせる為に賢司は敢えて悪辣な手段に出たのだった。それでも七割以上は守を害した事に対する報復であった事は分かる者には分かっていたが。


 よって賢司は要望を聞き入れてくれた感謝と併せて、騒ぎを起こした事についての謝罪も忘れない。


「必要があったとは言えトラブルを招いた事実を申し訳無く思います。それと上手く対処してくれた事に感謝します。”伝心”は僕からの一方通行で了承したかどうかの返事が聞けないから、実はちょっと不安だったんですよね」

「本当にやるのかどうか疑わしかったのは認める。しかしいざ現場に着いてみたら本当に騒ぎになっていればやるしかあるまい。まぁ咄嗟の事で手前らの対応も少々荒かった事だし、お相子としておいてやる」


 やはり少々過激な案だと感じていたのか、ルネスが若干非難するような視線で賢司を見た。それでも理解があるように苦笑いを浮かべる様に嫌悪の色は微塵も感じない。


 状況が落ち着いたタイミングで口を開いたのは華蓮だった。その口調は動揺が隠せないくらいに落ち着きが無かった。


「それより、守は無事なの賢司!? 怪我してたって……死んじゃったりはしないでしょうね!? もし――」

「落ち着いて華蓮。守は大丈夫だよ、アキトが付いてる訳だし」

「でも連れ去られたって……! もし竜宮が間に合わなかったら……!?」

「そんな事にはならない。アキトを信じるんだ……大丈夫、きっと大丈夫だから」


 諭すように賢司が華蓮を宥めた。賢司も不安が全く無い訳ではないが、パーティ全員にはアキトから万能薬である【竜血】が渡されている。ここに居るメンバーは勿論、守とアキトも所持しているので仮に守が自身の分を使用できなくともアキトが飲ませて治療をしているだろうと確信していた。


 何よりアキトが仲間の期待を裏切る筈が無い。その事に気付き、完全にではなくとも華蓮も落ち着きを取り戻す。以前のようにアキトに不信を抱くような事は無かった。


「……そうね。ごめんなさい、取り乱しちゃって」

「良いよ。僕も実はアキトに結構きつい事言っちゃったし……帰って来たら謝らないと」


 再び乱れかけた雰囲気が落ち着きを取り戻すと、副団長であるルネスが口を開いた。その振る舞いは初対面時と比べて丸くなったものの、やはりルネスらしい厳かな調査団の副官としての威厳を纏っていた。


「お前らの心情は察して余りあるが……団としてはもたらされる成果を軽んじる訳にはいかんぞ。今回の対応は少々規律を乱している。それでも聞き入れたのはお前らに任せた任務の為に必要と判断したからだ。結果を出せないなら処置を考え直さないといかない」


 仲間を救う為の行動だったと理解はしているが、それでも秩序を軽んじる行いであったとルネスは言う。容認したのは守の救命に理解を示したのもあるが、それ以上に霊山の住人とのコンタクトが図れると説得されたからだ。つまり、調査の一環として容認した面が強い。


 あくまで結果を伴ってこその温情だと警告するルネス。それは決して悪感情を含まない組織を預かる者として責任を感じさせる発言であった。例え理解していても並の者なら委縮してしまいそうな迫力があったが、賢司達は怯まないし反感も持たない。


 それはレオルドやルネスの立場を理解していると共にアキトを信頼しているからだ。彼なら絶対にしくじらないと……だから胸を張って言える。


「大丈夫ですよルネスさん。アキならきっと上手くしますから。彼、あたし達の期待を裏切った事は無いんです」

「う……む……。お前がそこまで言うなら……こちらも信じてやっても……良いが」

「ははははは、うん。良き関係のようだな」


 言い切る愛奈にルネスがややバツが悪そうに返答した。妹分のペッピーの件で恩がある愛奈の言葉と、元々が責任感からの態度だった事もあり、その反応はすこぶる良好だ。それでもやはりツンデレ属性が否めないが。


 眺めるレオルドが楽しそうなのはアキト達の信頼感が好ましいのか、それともルネスの反応がただ面白いだけか……きっと両方だろう。


「きっとアキトなら今頃、守を助けた上で例の住人とも接触を図れている筈です。もしかしたらそろそろ連絡が来るかも――」


 などと賢司が喋っていたら、それは突然訪れた。アキトからの”念話”である。先程までの穏やかな雰囲気から一変、一堂に緊張が走る。特に賢司の態度が顕著だった。


「もしもしアキト!? まず守は無事…………そう、良かった‼ 無事なんだね……うん、本当に良かった」


 その知らせに安堵が広がる。華蓮は思わず涙ぐみ、そこに寄り添う愛奈と美矢の目も潤んでいた。眺めるレオルド達の眼差しも温かい。


 感慨に浸る事暫し、賢司は”念話”の続けた。


「あぁ、うん。それで霊山には入れたんだね? ……うん。…………話ができたの? それは……皆にも聞かせて良い? …………うん、分かった」


 同時に狼を連れたダイダラ霊山の住人であるレイランとも接触できたらしく、賢司はそれらの情報を即座にレオルド達と共有する事にした。


 結論として、もたらされた事実に一同は盛大に驚愕する事となった。

 読んでくださっている方、心よりありがとうございます。


 次話更新は来年一月十一日を予定しています。


 今年一年も《黒竜は異世界に帰る》にお付き合いいただきありがとうございました。


 今年は私事の為に更新がまばらになってしまった事をお詫びします。


 来年以降もどうにか連載を続けていく所存ですので、応援をよろしくお願いします。


 それでは皆さん、良いお年を。

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