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黒竜は異世界に帰る  作者: 夢見シン
第二章
47/62

霊山の住人

 予告無く長期の休載を申し訳無く思います。


 本当にすみません、そしてお待たせしました。


 あと、しばらく見ない間にブックマーク登録が100件超えていました。


 皆さんの応援を大変ありがたく思います。



 また余談ですが、11話にてモブキャラに”ネーナ”と名付けていたみたいで諸々矛盾が出そうなので改名しています。”庭師のネーナさん”改め”庭師のナナさん”です。気が向いたら読み直してみてください。

「疑う訳じゃねぇけど……俄かには信じらんねぇ。霊山て魔獣の巣窟だろ? 人が住める環境じゃねぇだろうに」


 場所は調査団本部。初仕事を任されようとしているアキト達に告げられた衝撃的事実は少なくない波紋を皆の心に生み出した。


 アキトですら驚愕の色を隠せていないのだから、事の異様さは言わずもがなである。


 その気持ちはよく分かると言いたそうなレオルドは、そんなアキトの訝しみを決して不快に捉えず追記事項を口にした。


「私達もこの報告を聞いた時は耳を疑った。しかし事実だ。未だに正体は不明だが、霊山には確かに人が居て……おそらく、魔獣と共生している」


 その言葉に今度こそ完全に絶句する日本人一同。アキトも文字通り開いた口が塞がらない状態でフリーズしていた。


 共生だと? 何が何と? 人と魔獣が? んなアホな、有り得ねぇだろ!?


 言葉にできない怒号混じりの疑問が脳内で再生されては上書きされて、混乱に極みに陥りそうなアキト達を見兼ねてか、レオルドが皆を現実に引き戻そうと言葉を尽くす。


「あ~、少々言い過ぎたようだな。ダイダラ霊山に生息する全て……あくまで調査団で把握している魔獣に限った話だが、その全てと共生できている訳ではない。ただし、特定の種と共に活動しているのは確実だ。調査に当たった幾つものパーティが目撃しているのでな」

「それでも異様っちゃ異様だが……それは一先ず置いておいて、要は接触して調査に協力できねぇか交渉して欲しいと?」

「う、うむ。察しが良くて助かる。そしてお前の気持ちはよく分かる」


 未だに思考が混乱の坩堝に在るのを自覚しつつ、取り敢えず如何とも言い難いモヤモヤ感を一時棚上げし、アキトはレオルド達が求めている成果を先読みする事に成功した。


 内心を汲んでくれているのか、それをルネスが労ってくれた。どうやら彼女も人と魔獣の共生という事実を受け入れつつも信じ難い現実として捉えているようだ。


 このタイミングでアキト以外の面子も何とか事態を噛み砕けたようで、


「仕事の内容は理解しました。続けて進捗状況を聞いても良いですか? あいつら……ヨハン達から引き継ぐなら、彼らがどこまで進めていたかを知っておきたいので」


 賢司がいつも通りにそつ無く事務手続きを提案する。対してルネスが「手際が良いな」と感心しつつ進捗状況を説明し出した。ただし、感心とは裏腹にその表情は物凄く言い難そうで、その様子を賢司が訝しむ。


「状況はお世辞にも良好とは言えん。思い出して欲しいのは、昨日にヨハン達が何故に騒ぎを起こしたかという事だ」

「確か霊山の調査中に、同行してたペッピーさんが下手を打ったから制裁したって言ってましたね。実際はただの言い掛かりですけど、それが――」


 そこまで言いかけて、賢司は滅茶苦茶嫌な予感がして「まさか……」と顔を顰めた。色々察して残りのメンバーの表情も「う~わ」と言いたそうに歪む。


 それらを更に察したルネスが申し訳無さそうに無言で頷き、もう告げる必要は無いのだがレオルドが全員の行き着いた現実を渋々と宣告した。


「その任務が正に件の人物との交渉だったのだ。上手く接触できたまでは良かったが、奴らはよりによって強硬に”彼”ないし”彼女”を拘束しようとしてしまってなぁ」


 交渉もへったくれも無い短絡さに自然と全員が溜息を吐く。聞いた所によると相手に戦闘の意志は無かったようで、上手く話し合いに持って行けそうな場面でヨハン達によるまさかの凶行。


 咄嗟にペッピーが割って入って最悪の事態は避けられたものの、それを任務妨害と捉えてベース帰還後に続けて凶行に及んだ場面にアキト達は出くわしたらしい。


 昨日出頭後にそれらの事実確認を行った際には、流石のレオルドも頭を抱えた。


 ヨハン達は対応が生温いと逆にレオルドの方針を批判し、相手の敵対行動に対して適切な対応を取ったと主張したが、そもそも任務開始前に方針説明をした上でヨハン達もそれを容認していたのだから、このタイミングでそれを言うのは筋違いであり言いたければ最初に言えとレオルド自ら論破した。


 その間ルネスは何も言わず居たらしいが、実際は余りにヨハン達が無頼過ぎて剣に手を掛けるのを必死に堪えていただけだったそうだ。


 事情を知ったアキトは天を仰ぎ、暫くして視線をレオルドとルネスに向ける。その目には若干の非難の色が含まれていた。


「……重要な仕事を任せてくれる事は素直に嬉しく思う。しかし、重要だろうが恐ろしく困難が予想される案件を俺らに任せる意図は? そこまで信頼されるような事した自覚がねぇし、何よりそんな重要案件を何でよりによってあんな奴らに任した? そして今思ったんだが、そこまでのポカやらかしたくせに連中の罰が謹慎一週間て軽くない?」


 溜め込んだ諸々を一息に吐き出したアキトにレオルドが「おぉっ」と感心まじりに慄く。


「至極真っ当な意見だな。まぁ、諸君やヨハン達にこの件を任せたい理由は後で語るとして、奴らの懲罰が軽いのは……少々、複雑な事情があってだな……」

「……?」


 一日二日の付き合いとは言え、快活な印象が強いレオルドの煮え切らない態度にアキトを始め仲間達も揃って疑問符を浮かべ、それと同時に強烈な既視感(デジャビュ)が飛来した。


 思い出されるは故郷である【地球】の学び舎にて、とあるケダモノの蛮行を如何ともし難い表情で語る教員達の姿。それらが見事にアキト達の眼前の獅子紳士とダブる。


「成程……あのヨハン達の背後に厄介な後ろ盾が居るんだな」

「…………‼」


 アキトの呟きに目を見開いて驚きを露わにするレオルドとルネスを余所に、【地球】出身の若者達は心の底から心労を蓄積しているであろう獅子族に共感の意を示した。


「心中をお察しします」

「苦労されてたんですね……気付いてあげられず、申し訳ありません」

「お前らが察しの良い輩なのは分かったが、何故にそこまで優し気な顔でこちらを見る!?」


 賢司と愛奈から慈愛の籠ったコメントを頂戴して、その異常なまでの理解の良さにルネスさんが若干引いた。レオルド達的に情けない面を見せたというのに、非難するより寄り添う態度の若者達に一体いきなりどうしたと言いたそうだ。


「あんたらの気持ちがよく分かる……って言えるだけの経験があるって事だよ」

「……そうか、君らも相当な苦労を重ねてきたのだな」

「…………気遣いに感謝する」

「「………………」」


 どこか分かり合ったようなアキトとレオルドを見ながらルネスが静かに謝辞を述べる。ただ華蓮と美矢の目が胡乱としている事には気付いていなかった。


 彼女らに続いて賢司と愛奈の視線も胡乱となる。


 確かにここに居る【地球】組は故郷で強大な後ろ盾を得ていたケダモノ――剛田の所業に苦労した経験があったが、よりによってそれを全く意に介していなかったアキトがレオルド達と分かり合うのは違うだろうと腹の底から言いたかった。


「情けない話だが、奴らの推薦者は調査団にとって無下にできない相手でな。これでは奴らに無能な指揮官と蔑まれても仕方無しだ」

「レオルド様、それとこれとは話が違います。だが……先の一件は上手くあちらの非を公にできたから良いが、奴らと事を起こした場合厄介事になるのは確実だ。お前達も余程の事が無い限りヨハン一派とは距離を置いておけ」

「了解。気をつけるよ」

「「「「……………………」」」」


 果たして気をつけなければならないのはどちらだろう?


 賢司、華蓮、愛奈に美矢は同時に同じ懸念を抱く。何せ目の前の前世真っ黒竜はそういった権力を笠に着る輩をものともしない不条理の化身なのだから。


 それを知らずに歯向かったケダモノ男子など【地球】で見事に転落した挙句、【スフィア】でどこぞのアクティブ皇女の奴隷に成り下がったのだから。


 仮にヨハン達がアキトに手を出そうものなら、確実に破滅への道を激走する事は間違い無い。


 そしてその隣にはきっと共犯者なイケメン君も確実に居る訳で、その光景を同時に幻視した女子三人はすぐ隣でうんうん頷いている賢司に揃ってジト目を向けていた。


 そんな調査団の内情よりも複雑な少年少女の心情を置き去りにして、アキトとレオルドのディスカッションは続く。


「って事は、連中がこの仕事を任されたのも外から圧力を掛けられた所為か?」

「いや、実はそうではないのだ。これについては業腹だが、先程述べたようにヨハンのパーティが適任な理由があってな。そして、それはさしてまだ実績の無い君らにこの件を任せたい理由でもある。まぁ昨日の一件で実績は兎も角、君らに対する信頼は相当なものだと思うがな。私からは勿論、ルネスからも」

「レ、レオルド様!? いきなり何を……ふん、まぁ可愛い妹分を助けて貰った恩くらいは感じている。だ、だがそれだけだ! 実力の程を認めた訳ではないからな‼」


 やり取りの最中でルネスがツンデレを発揮したのをスルー――ただ一人美矢がルネスの有様に悶えて更にそれに勘付いたルネスの背筋が粟立ったがそれも放置――し、話のキモとなる”理由”とやらをアキトが聞き出そうとして、それを賢司が横から掻っ攫った。


「その理由というのは……ひょっとして”人間族だけのパーティ”という事ですか?」


 その発言に対する反応は様々だが、レオルドは少々驚いた風に笑みを作るとそれを肯定した。


「君らは本当に聡いな。その通り、調査団には多くの団員が居るが人間族だけで組んでいるパーティはヨハンらと君らだけでな、この任務に就く者は人間族である事が条件故にヨハンのパーティを外すと君らのパーティが適任となるのだ」


 その言葉で思い出されるのは警備隊長であるオルグとの会話だ。


『寧ろここいらじゃ嬢ちゃん達みたいに人間族だけのパーティの方が少数派だぞ』


 ソルファレン王国で活動するハンターの大半は獣人族のみ、もしくは獣人族と人間族の混合パーティである。その比率はここダイダラ霊山調査団でも変わらない。


 選抜して臨時のパーティを結成する案もあったらしいが、ダイダラ霊山のような未知の空間で咄嗟の対応や連携を誤るリスクを考慮して却下された経緯もあり、アキト達が参加する以前は唯一の人間族パーティである――実力はあれど態度等に諸々難がある――ヨハン達に白羽の矢が立ったのだ。


 そのヨハンらが降ろされればアキト達にお鉢が回ってくるのは当然と言えば当然であった。厳密にはアキトらはスフィア人――人間族ではなく、地球人――人間なのだが外見上の差異は皆無なので細かい指摘は置いておく。


 そうして元々決定に異議がある訳でもないので、レオルド達の説明にすんなり納得したアキトは纏めに入った。


「大体の経緯は理解した。残るは何故人間族のみで任務に当たるかだが……大方は件の住人側への配慮って所だろ」

「相手が獣人族のみに対してやけに攻撃的とかかな? そこの所どうです?」

「話が進み易くて助かるが察しが良過ぎて寧ろ気持ち悪いなお前ら。正しくその通りだよ。……お前達、実は年齢を誤魔化していないか? 手前ら獣人族にとって人間族の外観の差異というのは少し見分け辛くてな、いっそ実は三十路を越えていると言われれば納得もし易いんだが」


 アキトと賢司の推測を苦笑いでルネスが肯定した。後半の質問については愛奈達女子が全力で異議ありし、異常なのは男子二人だけと説明して、それでアキトと賢司が抗議するも見事に却下された。


「いや俺は半分冗談だったから。ズバリ言い当てた賢司と一緒にされると困るぞ」

「つまり半分は確信があったって事でしょ。その程度で一般枠に滑り込まないでくれる。……それよりも、その住人さんが獣人族だけを攻撃する理由は……分かってませんよね」

「……分かっていたらとっくにそれを踏まえて他の方法を考えている。間違ってもヨハンらなんぞに任せるものか」


 これまでの証言を聞くに、あの三人は昨日の一件よりも以前から問題児だったのだろう。


 それはさておき、今一番の問題である霊山の住人についてだが、今までに幾つかのパーティが接触しており、その度に相手の敵性行動の末に撤退に追い込まれているとの事。


 更に攻撃を受けるのは専ら獣人族で、人間族の者は仲間の援護などでこちらから手を出さなければ基本放置される謎行為。


 被害者達の目撃情報によると住人は獣毛皮の外套を纏っているらしく、素顔を見えなかったがおそらく人間族だと推察されている。


「なしてそんな事分かるん? ちゃんと見えた訳やないんやろ?」

「口元しか見えなかったらしいが、毛皮ではなく素肌が見えたそうだ。獣人族なら毛があるからな」

「何だ? 獣人族嫌いの人間族って……住人様は”南部出身者”なのか?」


 美矢の質問にルネスが答えると、続けてアキトからもクエスチョンが飛んだ。転移組には聞き慣れないフレーズであったが、誰も話の腰を折る事はしない。それよりも話の続きを優先させる。


「いや、それは無いと考えている。攻撃された者達だが……重傷を負った者は何人か居ても、命に関わる外傷を追った者は一人も居ない。”南部出身者”なら有り得ない対応だ。重ねて被害を受けた獣人族によると、あれは戦う事が目的と言うより追い出そうとしていたように感じたらしい」


 ルネスの返答にアキトは考え込むように口に手を当てて暫し沈黙した。しかし本当に瞬きの時間だけそうしてすぐに向き直る。住人の行動理由を考察しようとしたが判断材料が少な過ぎると気付き、考える暇があったらとっとと当人に聞けば良いと割り切ったからだ。


 同じ結論に至った賢司からも同様の提案が飛んで来る。


「分かりようの無い理由を考察するより、当人から聞いた方が解決は早いね」

「だな。とっとと準備に入ろう」

「判断が早いのは良い事だけど……ちゃんと話ができる保証ってあるの?」


 今すぐにでもダイダラ霊山に入山しそうな勢いのアキトと賢司を窘めたのは華蓮だった。二人の判断を信用してはいるが、華蓮の頭からは一つの懸念が消えてくれないからだ。


「大丈夫やろレンレン。あのヨハンやらネーナやらミハイルやらが攻撃されんで済んだんやで。ウチらやったら余裕でイケるって」

「美矢ちゃん……そのヨハンさん達が前回やらかしちゃったから、今回からは人間族でも危ういんじゃないかって華蓮ちゃんは言ってるんだよ」


 その通りと言いたそうに華蓮が頷く。その懸念に思い至っていなかった美矢は途端に狼狽しだした。


「ホンマや! どないしよアキやん!?」

「落ち着け騒がしい。……確実って言える程の保証が無いのは否めないが、何とかするさ。どっちにしろ件の住人をどうにかせん事にはまともな調査もできないんだし」

「そうだね。まぁ、やりようはあるよ」


 不安が無い訳ではなかったが、アキト達にとっては【地球】帰還の手掛かりを得る絶好の機会でもある。多少の困難があろうと引くという選択肢は有り得ない。


 当然、華蓮も美矢も参加する事に異議など無い。先の発言はあくまで彼女らのパーティ内の立ち位置に由来している。


 賑やかしムードメーカーな美矢と、少々行き過ぎなメンバーのツッコミ……もといブレーキ役な華蓮。戦闘時以外でも各々の役割はそれなりに決まっていた。


 そうなると、もう一人の賑やか物理的癒し系(決してサンドバッグと言ってはいけない)な約一名の所在が気になる所で、


「って言うか話がそろそろ纏まりそうなのに立石君来ないね。ひょっとしてまだ具合悪いのかな?」


 正統派気遣い癒し系な愛奈が守の身を心配するように発言し、アキトと美矢も「「確かに」」と便乗し始めて、事の真相を正確に推察できる華蓮と賢司が「「やっぱりなぁ~」」と嘆息したので、それを疑問に感じた面々に賢司がようやく守のウィークポイントを暴露するのだった。


 ====================


 ベースキャンプ内を歩く三人の少年少女――アキト、賢司と美矢は極めて面倒臭そうに歩を進めていた。


 因みに愛奈と華蓮はお留守番だ。これからの野暮用に全員で行く必要は無いだろうという判断であった。その野暮用とは……、


「方向音痴なら最初からそう言えよ。迎えに行くなんざ二度手間じゃねぇか」


 迷子の守君のお迎えである。


 初めてそれを聞かされた時、賢司と華蓮以外の面子は何かのギャグかと真剣に疑った。


 残念ながらマジな訳で、アキトの魔力感知で探しても良かったが、あれは効果範囲を広げると魔力の圧が周辺の人々に悪影響を及ぼす可能性があるので、今回は使用しなかった。


 別に今更自重する気は皆無なアキトであったが、この程度の事態にそこまで周りに迷惑を掛けたくないというアキトにしては珍しい配慮だった。それだけ呆れているとも言える。


 という訳で今回の索敵は賢司に任せてある。頼りになるのは親友の第六感……ではなく、付与魔法を用いたマーキングを辿った捜索であった。


 効果時間や距離の制限はあるが、賢司は自身が付与魔法を施した者を感知する事ができる。アキトのそれとは違い、前以て仕込んでおく手間があるも周囲へ影響を与えない点から使い勝手は良い。


 パーティメンバーには常時何らかの付与を掛けている為に守の現在地も特定可能だった。本部にて索敵した所、全く見当違いなベースキャンプの端っこに居ると判明した時はその場に居る全員が首を傾げる羽目になった。


『筋金入りかっ!』と叫んだのは誰だっただろう? 言うなれば全員がそう叫びたかった。


「分かってはいたんだけど、流石にこの距離で迷うとは……嫌な予感はしてたんだけどねぇ」

「よくよく思い起こせばあいつが一人で動いてる場面て見た事ねぇわ。まさかこんな真実が秘められてたとは」


 よくよく思い出せば、エクトラの街で自由時間を過ごした時くらいだろう。確か色町に行って暫く女子達から白眼視されていたが、あれは真剣に迷ったのだろうとようやく気付く。


 希望的観測を含めて親友のポンコツ具合を見誤った賢司と、余りにぶっ飛んだ守の方向音痴具合の所為でそのミスを責めるに責め切れないアキトが渋面をぶら下げて目的地に向かうのだった。


 その二人より少々遅れて進む美矢。その表情は何か思案に耽っているようで、


「なぁアキやん、さっきの話に出て来たワードについてなんやけど――」

「うん?」

「”南部出身者”って何?」


 本当はさっき話の途中にでも聞きたかったが、空気を読んで流した美矢。その時のアキトとルネスの様子が少々強張っていた事からきっとよろしくない意味があると察し、この先に起こるかもしれない厄介事に備えようと今しかないタイミングで聞き込んできたのだった。


「そのまま聞いたら大陸の南部生まれの人って意味やろうけど、話の流れからやと別の意味があるんちゃう?」

「……面白い話でもないぞ。聞けばお前なんか絶対不快に感じるだろうし」

「大体の想像はついとるで。せやけどどうせやったら半端に知るよりしっかり知りたいなぁって」


 大凡は察しているのだろう。そこまで言うのならとアキトは美矢に言葉の意味を語った。


「多分お察しの通りだよ。大陸の南部では人間族と獣人族は仲が悪くてな。そんな土地柄、獣人族を嫌う人間族を”南部出身者”って揶揄するもんなんだ」


【スフィア】の大陸北部は現在魔人族の領土だ。そして中部と南部は人間族の領土であり、ギャレリア帝国やソルファレン王国を含む大陸中部では土地によって人口比に偏りはあれど、人間族と獣人族の仲は良好である。


 しかしこれが大陸南部だと話が変わってくる。南部では両種族の折り合いは極めて険悪であり、ほぼ完全に勢力毎に住み分けがされている。その上で各種族の勢力圏内に於いて敵対種族は奴隷もしくはそれと同等の扱いとなっているのだ。


 そういった被差別民が人間族、獣人族問わず極稀に南部から中部へ逃げ出して来る事があり、彼らは十中八九異種族に対して敵意を持つ。


 霊山の住人がそうでないと推察されているのは獣人族のみに攻勢に出るのは置いておいて、その攻勢具合が控え目だからだ。これが正真正銘”南部出身者”なら間違い無く死人が出ている。


 大陸南部に於いて種族間の溝はそれだけ深いのだ。


 そこまで話を聞いて案の定、美矢の表情は暗くなった。


 ギャレリア帝国では例として国軍や領軍に獣人族を兵士に登用するなど、種族としての隔意はほぼ皆無だ。獣人族は魔法が使えない為に騎士にはなれないが、軍で将軍職に就く獣人族も居る。


 ハンター業界でも同様で、寧ろ戦闘能力の高い彼らは重宝されている。


 モフモフ動物が大好きな美矢にとってこの世界の獣人族は――ある意味で極めて失礼なのだが――最高に癒される素敵種族であり、そんな彼らが人間族と手を取り合う姿は理不尽に連れて来られた【スフィア】にて美矢が来て良かったと思える数少ない美点なのだ。


 なのに場所が変わればそうはならない事実が存在する現実に見るからに雰囲気が落ち込んだ。


 堪らずアキトが慰めるように美矢の頭をポンポンと撫でる。


「人種や種族が違えば摩擦も起きる。それは【スフィア】でも【地球】でも変わらねぇよ。でもそれはあくまで現実の一部であって……全てじゃない。帝国で……そしてここで人間族と獣人族が手を取り合っているのもれっきとした現実だよ」

「アキやん…………。うん、そうやな」


 アキトの言葉で気持ちを幾分か持ち直して、美矢は再び笑う。パーティの元気印はやっぱり笑っていないといけないなぁとアキトがほっこりしていると隣から賢司が知的に補足した。


「それに南部で種族間の関係が悪いのって、人の本質って言うよりは多分宗教的な問題が一番大きいと思うよ。南部の国々はギャレリア帝国より”ヴァシュロン聖法国”の影響を強く受けてるらしいからね」


 その言葉で思い出されるのは聖地にて、天使に向かって皇女の近衛騎士団副団長であるセレナが放った一言だ。アキトは特にそれを強く意識しかけるも、直後に別の何かに意識を引っ張られた。


「……? アキやん、どないした――」


 美矢が言い切る前に独特な圧迫感が伝搬する。アキトが魔力感知の感度を強めたのだ。その後すぐに賢司も状況を察したのか付与魔法のマーキングに意識を集中させる。


 二人揃って予想が的中したのか、少しの間を置いて駆け出した。すぐさま美矢も後を追う。そして走りながら――急ぎつつも美矢を置いて行かないペースを保っていた――美矢は二人に問い掛けた。


「ちょっ、いきなりどうしたん!?」


 その問いにアキトが端的に答えると、美矢の意識もすぐに警戒状態に移行した。


「この先で守が戦ってる」

 読んでくださっている方、心よりありがとうございます。


 次話を来週土曜日に投稿します。


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