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黒竜は異世界に帰る  作者: 夢見シン
第二章
43/62

獅子族レオルドと、プラスもう一人

 随分と間が開いてしまいすいません。


 私生活が立て込んでまして暫く投稿がまちまちになりそうです。

「ようこそ若人達よ。私はレオルド、この調査団で団長を務めている者だ」


 胸に響く低音ボイスに加えて威風堂々という言葉を体現したような佇まいに、挨拶をされた若者達――特に女子達が思わず圧倒されると同時に呆けてしまった。


 動物を擬人化した容貌の獣人族に人間の美醜感は当て嵌まらないだろうが、それを踏まえてもレオルドは端正な顔立ちをしたナイスミドルに見えたのだろう。バリトンボイスがその一助となったのは間違いない。


 それを察した獅子団長はそれはそれは面白そうに口を開く。


「ふむ、獣人族は珍しいのかな? それとも獅子族の面持ちはお嬢さん方には少々刺激が強過ぎたか?」


 聞きようによっては獣人族を否定的に見ている相手を皮肉ったようにも聞こえるが、アキト達の内面を十分に見透かした上でのジョークだと容易に察しがついたのでアキトも乗っかって軽口を返す。


「いやいや、あんたが思いの外に格好良いもんで見入っただけだよ……特に女性陣が」

「何と……これは少々罪作りな真似をしてしまったようだ」


 対してレオルドも存分にノリ良く笑ってみせた。


 ――成程、結構フランクな性格みたいだな。


 初めて面と向かって獣人族と相対した故にやや緊張気味な地球人の中に在って、元より同族意識が強くとも異種族に対して隔意を持たない元黒竜――アキトは極々自然に獅子族レオルドと打ち解けたようだ。


 相手が年齢的プラス雰囲気的によく知った【地球】の県警本部長に似ているのも打ち解けた一因となっている。


 それから一拍置いて、会話の矢面に立たされた女子達が一斉に会話に割り込んできた。まるで自分達が不躾に異性に見惚れていたという誤解を解く為に。


「ちょっ、アキ!? いきなり失礼でしょ! すいません! 連れが不躾に――」

「そうよ! 大体、別に見惚れてなんか……いや決してレオルドさんが格好悪い訳じゃなくて――」

「……モフモフしたい」

「「……‼」」


 愛奈がアキトを窘めると同時にレオルドに謝罪し、華蓮が続いて弁明しつつレオルドに対してフォローを入れる中、約一名が心の願望を駄々洩れさせていた。愛奈と華蓮の視線が驚愕と共にその者に向けられる。


 言わずもがな美矢であった。その視線はレオルドの立派な鬣に固定されている。


 彼女の意図を読んで、流石のアキトもギョッとした。幾ら何でも初対面で失礼過ぎる。ただ一方のレオルドはと言うと、


「む……『モフモフ』というのが何かは知らんが……察するに私の鬣に触りたいという事かな? 別に構わないが――」

「エエのっ!?」


 まさかの了承。そして美矢が凄く喰い付いた。


 堪らず全員――アキトすら――が「マジでっ!?」と言いたそうな視線でレオルドを射抜いた。当のレオルドは……思いの外、美矢が過剰な反応を示したのでやや慄き気味だった。しかし言ってしまった手前止める訳にもいかず、


「あ……うん、何が君をそこまで駆り立てるのかは知らないが、減る物でもないし存分に触るが良い」


 そう言って獅子団長は膝を着いて美矢に背丈を合わせると、どうぞと言わんばかりに手を広げて美矢を招いた。


 そしてまるで花に誘われる蝶のように美矢はゆっくりと、それでいて躊躇い無くその手をレオルドの鬣に埋もれさせ、優しく撫でたのだった。


「ふわぁ~~、もうちょいゴワゴワしとるかなぁ~って思たけど、凄いモフモフぅ~フワフワぁ~」


 それ程間を置かずに片手から両手で獅子族紳士の鬣を撫でまくる関西娘。最早僅かばかりにあった遠慮の精神すら完全に放棄した美矢の表情は恍惚に満たされて、ちょっと「見せられないよっ!」な自主規制が入りそうな有様だ。


 対してレオルドは流石に不快なのではと思えば、意外とご満悦そうだった。


「はははっ、日々の手入れを怠った事は無いからな。それにしても変わったお嬢さんだ。ここには我ら獣人族に遠慮が無い輩は多く居るが、触らせてくれなどと頼んできた者は君が初めてだぞ」

「何で? こない綺麗な毛並みやのに」


 美矢としてはモフりたくなるのは真理としたい所。ただし、同じ【地球】出身者であろうとその意見には同意しかねる場面だった。


 男子三人はそこまでモフモフに関心がある訳ではなく、残りの女子二人もある程度共感はできるが、何の躊躇いも無く成人獣人男性の体毛に触れたいと思える程に神経が図太くはなかった。


 若干、愛奈の手がウズウズしているのをアキトは見逃さなかったが、敢えてそこには触れないように気を遣う。


 暫しモフモフを堪能する美少女と、為すがままに鬣をモフられる獣人のおっさんという形容し難い光景を眺めるアキト達とオルグを含めたその場の調査団員達。「何この状況?」な心境の面々を現実に回帰させたのは……突如響いた女性の怒声だった。


「貴様……一体何をしている!?」


 その響きにアキト達――美矢はトリップしているので除外――はギョッとして声の方向に顔を向ける。対して調査団の面々は一瞬ビクッと体を震わせると、事態を察して皆が「あちゃ~」と言いたそうに天を仰いだ。


 怒声の主はレオルド同様に茶褐色の体毛に覆われた獅子族だった。ただし黒い鬣を持たず、顔つきだけでは判別は難しいが、体のラインが曲線を帯びている事と声色から女性の獅子族であると察しがついた。


「……ほえ?」


 心がモフモフの異次元に飛んでいた美矢が遅れた上に極めて間の抜けた反応を示す。重ねて表情はこれでもかとだらしなく弛んでいるので件のライオンレディを見ているのかさえ危うかった。


 それを見た獅子族女性は……分かり易過ぎる程に激怒した。眉間……と言うか鼻筋に深く皺を寄せて、牙を剥いた姿は普通に洒落にならんだろうと誰もが感じた。


「何が『ほえ?』だ!? ふざけているのか!? 今すぐレオルド様から離れ――」


 正に伸ばされた手が美矢に届こうとした時に、その手を掴み牙を剥く女性獅子族を止めたのはアキトだった。女獅子は糾弾の声を途切れさせ一瞬強直するも、すぐさま矛先をアキトへと変更した。


「何の真似だ貴様!? そこを退け! そしてその手を放せ!」

「待て落ち着け。確かに眼前の光景は如何ともし難い状況ではあるんだが、あんたの気持ちも分からなくはないんだが、一応これ双方合意の上での有様なんだ。てな訳で、手を出すのは一旦待って、まずはお話し合いといこう」


 いっそ唸り声が聞こえそうな剣幕の相手に、言い分は丁寧だが一欠片も動じずに退かないアキト。その内心は幼馴染の――恐ろしく情けない――窮地を救おうとする心と、その幼馴染を害そうとする輩ではあるが胸中を察して凄く同情できそうな獅子族女性を気遣う心で板挟みになっていた。


 普段なら友人を害する相手には一切の情を掛けずに排除するのがアキト流ではあるが、流石に今回は美矢の所業を顧みて自重せざるを得ない。


 膠着状態に陥ったを見計らって、アキトは当事者その二であるレオルドに助け舟を要求した。盛大に溜息を漏らしながら。


「……団長さん、あんたの身内だろう? いい加減執り成して欲しいんだが」

「ははは、これはすまなんだ。……牙を納めよルネス。新たな同士達を迎えるには些か態度が不適切であろう」

「レオルド様……しかし――」

「それにそこの青年が言ったように、彼女には私が触れて良いように図らったのだ。……ふむ、良き手並みだし、もう少しこのままでも――」

「……‼ 貴方と言う人は! 獅子族の雄が容易く鬣を触らせるなど、そんな羨ま……不埒な真似をさせてはなりません‼」


 ルネスと呼ばれた獅子レディの心の本音がポロリしたのは放置して、アキトはアキトでモフモフ継続中の美矢をレオルドから引き離す。美矢がすんごく名残惜しそうに「あぁ~」と呟いていた。


「そこまでにしておけよ美矢。獅子のお姉さんが恐い顔でこっち睨んでるから」

「う~、せやったらお姉さんも一緒にウチがモフッて――」

「却下! どういう発想の転換だ!?」


 相変わらず手をワキワキさせながら語る美矢にアキトが自重を促す一方で、その提案が耳に届いてしまったルネス嬢は先程までの怒り顔が一転、全身の毛が逆立つ勢いで怯えた表情を浮かべながら後退った。胸周りを両腕で覆う姿が、ちょっと前とは打って変わって非常に女性らしい。


 少々混沌とし過ぎた状況にそろそろ耐え難くなってきたアキトは、場の転換を図って自己紹介をする事にした。暗に美矢のような怪しい輩ではないと証明する為でもある。


「あ~、諸々で遅くなったがこちらも名乗らせて貰うよ。竜宮アキトだ、団長さん。竜宮が姓で名はアキトでよろしく頼む。そしてこのモフモフ変態娘が鷹村美矢だ」

「誰が変態や! ウチはただ綺麗な毛並みを撫でまわすのが好きなだけや!」


 アキトの雑な紹介に異議を吼える美矢。だが何一つ弁解になっていない発言にルネスは尚も距離を取り続けており、周囲の何人かの男性獣人族も微妙に引いている。


 どうやら美矢の所業に対して生理的悪寒を抱くのに性差は関係無いらしく、レオルドが特別オープンな性分である事がはっきりした。


 当のレオルドはその紹介をそれはそれは愉快そうに笑いながら聞いており、その様子はアキトにとって殊更に某県警本部長――白井源一を彷彿とさせた。


 懐かしさを感じているのはアキトだけでなく源一と面識がある愛奈と美矢も同様で、美矢が妙になら馴れ馴れしいのも【地球】で源一に娘のように可愛がられていた所為なのだが、それを察しているのはアキトと愛奈のみである。


「うむ、アキト、愛奈、美矢、華蓮、賢司に守だな。歓迎するぞ若き同士よ。あぁ、獣人族は姓を持たんのでな、名前呼びで構わないか?」

「全然構わないよ。そっちは団長さんとレオルドさんとどっちが良い?」

「貴様っ! 何を馴れ馴れしく――」

「好きに呼んでくれて構わんよ。何なら親しみを込めてレオさんと呼んでも――」

「レオルド様っ!?」

「……アキト、親しみがあるのは結構だけど、他の人の目もあるし”レオルド団長”でいこう。それで良いですね、レオルド団長」

「ふーむ、賢司よ……私の性分は皆が知っている故に気にする者は居らんぞ。実際に”レオさん”と呼ぶ者も居るしな」


 アキトが賢司に窘められる様子を眺めて若干つまらなそうに呟くレオルド。それに対して賢司はすかさず反論を放つ。


「現状すぐそこに例外――滅茶苦茶気にしてるお姉さんが居るじゃないですか。彼女の目が光ってる内は無理です」


 これにはレオルドも苦笑いするしかない。目が光るというより実際は牙を剥いているルネスを見て、レオルドは賢司の言い分を了承せざるを得なかった。


「……やむを得んな。まぁ呼び方については追々として、まずは旅の疲れを癒すと良いだろう。幸い増設したばかりの隊舎に空きがあるのでな、今日の所はゆっくり休んで明日から団員として職務に励んでくれ」


 言われる程疲労が溜まっている訳でもなかったが、職務に励むにはまず事前に説明を受けなければならない部分もある訳で、そうなると相手方にも都合があると気遣った結果アキト達はレオルドの厚意に甘える事に決めた。


 そうして案内役の者に連れられて、隊舎を目指す事となる。


 ====================


「……何故に手前がこのような役を……」


 アキト達を先導しつつ、ブツブツ愚痴を零すのは獅子族お姉さんなルネスだった。


 彼女の心情としては決して案内役そのものが嫌な訳ではない。ただ案内する輩が心底気に入らないだけだ。


 敬愛するレオルド団長に不躾と言うも生温い過度な触れ合い――鬣をモフモフ――をしていた変な訛りで話す小娘――美矢に、妙に親し気な口調で打ち解けていた小僧――アキト。


 人との付き合いは第一印象で決まると言われるが、正にその第一印象で以てルネスのアキト達に対する評価はいきなり最底辺であった。


 それを察して凄く居心地が悪い賢司、華蓮、愛奈と守の四名。事の当事者である二人――アキトはそんなルネスの態度に全く動じて居らず、美矢に至っては未だに手をワキワキさせてルネスを眺めている様子で、そんな二人の有様に心労も三割増しな四人であった。


 状況を知って敢えてルネスを案内役に指名したレオルドとしては、打ち解けるきっかけになればと気を回したつもり……と思わせて実は単に面白い展開になるのではと茶目っ気をふんだんに発揮した計らいであり、それに気付かない……と思わせてバッチリ気付いてしまっている賢司と華蓮が今後の展望に頭を抱えているのは言うまでも無かった。


「おい」


 しかし先行き不安な胸中であろうと、相手からの呼び掛けに対して反応が遅れるような無様を晒す事――守が少々ビクッとしていた――はしない転移組六名。ただ余りにぞんざいな言い草だったので返事は言葉でなく表情で返す。


 それが気に入らなかったのか、ルネスは鼻を一吹き鳴らすと続きの言葉を口にした。


「この先に見える平屋が新しく建てた隊舎だ。まずは手前が先に言って話を通してくる。貴様達はここで待ってろ」


 そう言ってさっさと歩を進めてしまったルネスを見送って、彼女が建物内に入ったのを見計らってアキト達はようやく談義を開始した。


「……疲れる」

「美人の不機嫌オーラって精神削るわぁ~。いや正直私の審美眼じゃ美人かどうか分かんないけど」

「あそこまであからさまに敵意剥き出しにしなくてもいいっしょ」

「まぁ無理も無いよ。ファーストコンタクトがお世辞にも良くなかったし」


 賢司、華蓮、守、愛奈の順で素直な感想を垂れ流さずには居られないかった。ルネスの態度を理不尽と捉えながらも、その理由に半ば納得している事が何とも言えない。


 そんな如何ともし難い空気の中で、未だに状況を察し切れていない者が約一名。


「……やっぱりあのお姉さんも一緒にモフッとけば良かったんやろか?」

「ちげぇよモフモフ関西娘。ってーか美矢、現状の有様は一〇〇%お前の所為だぞ」


 アキトからの糾弾に「何で!? 解せぬ!」と不満を漏らす美矢。残された四人は一~二割はアキトの所為でもあると言いたかったが、大部分は美矢の所為だと共通認識を固めていたので何も言わなかった。何も言いたくない程に精神的疲労を蓄積させていたのも否定しないが。


 それは兎も角、納得し切れない美矢をアキトは溜息混じりに諭した。


「あのな美矢、獣人族にとって――」

「貴様らぁ、もう一度言ってみろ‼」


 しかしそれは突然の怒号に遮られる。その声質に思わずビクゥっと体を跳ね上げるアキト達。まさか今のやり取りをルネスに聞かれていたのかと戦々恐々するも、どうやらそれは違うらしかった。


 声がするのは目の前の隊舎の中から。何事かと六人が駆けつけた先で見たのは、床に蹲る獣人族とそれを介抱するルネス、そしてそれを見下ろす人間族の面々だった。

 読んでくださっている方、心よりありがとうございます。


 できるだけ早く次話を投稿します。


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