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黒竜は異世界に帰る  作者: 夢見シン
第一章 ギャレリア帝国編
20/62

紅の剣舞と氷華の舞い

 戦闘描写……上手く表現できてるかな……。

「何でこうなった?」


 帝国魔工師団特性の赤紅色を基調とした騎士服を身に纏い、細やかな胸元にはここが陽の光も差さない屋内でなければ陽光で煌めくミスリル製の胸当てを身に付け、世の女性の大半が羨む美脚を純白のロングブーツとホットパンツで絶対領域に昇華させた紅蓮の剣姫――華蓮は多分に諦念を混じらせた思いを吐露していた。


 余談だが、華蓮の装備には当初は純白のミニスカートだった物を、華蓮が断固として拒否った為にホットパンツスタイルに落ち着いたという経緯が存在する。


 華蓮にしてみれば守りに不安が残る仕様ではあるが、完成品を試着した時に魔工師団員達は揃ってキメ顔サムズアップを掲げた。当時の華蓮はその意味を全く理解できていない。いつの世も美点というものは誰でもない本人が一番気付いていないモノなのだ。そしてどこの世界にも脚フェチという需要は存在するのだった。


 閑話休題それはともかく


 現在、華蓮の手には暫定的愛刀である、胸当て同様ミスリル製の長刀が握られており、つまり現在進行形で戦闘中の状態なのだが、緊張状態を継続しつつもどこかアンニュイな雰囲気が蔓延している事に困惑を隠せない剣姫様。


 その原因となっているのが、


「次はぁ~、こっちぃ~がぁ~、手薄だと思うわぁ~」

「あの……ミントさん、この緊迫した状況でもその口調は変わらないんですか?」

「ごめんなさいねぇ~、これはぁ~もう~癖と言うかぁ~、自然にぃ~そうなっちゃうものなのぉ~」


 同行者であるミント・エル・ナシェルの妙に間延びする喋り方であった。後方から的確な指示で華蓮を誘導してくれているが、普段なら問題無いのんびりおっとり気質なお姉さんスタイルもこの状況で貫かれると強制的に気が緩みそうで困る。


 もう一人の同行者である愛奈が思わずツッコむも、どうやらどうにもならない性質のようで……全てを受け入れた天使っ娘はスゴスゴと退散の意を示した。要は負けである。


 ――まさかこっちの戦意を鈍らせる策略じゃないでしょうね?


 そんな事を華蓮は内心で疑っていた。彼女がそう思うのも至極当たり前と言える状況が現状だった。


 始まりはタウロ砦の商業区にて、ミントに隠れ家的なカフェへと招かれた時点まで遡る。


 他に客が居ない事を、知る人ぞ知る隠れ家名店だからと勝手に納得してしまった自身を華蓮がはっ倒したい衝動に駆られたのは、出された紅茶に含まれた痺れ薬で体の自由が奪われた直後だった。


 その後、一人平気な様子で店の裏で待機していたガーランドの配下――金獅子騎士団の鎧を纏った騎士数名とやり取りを交わすミントを見て、華蓮と愛奈は嵌められた事実を悟った。


 ガーランドの狙いが愛奈であることは明白であり、金獅子の騎士団員はあからさまに華蓮を始末するべしといった態度を取るも、それはミントによって執り成され一緒に拉致られる羽目になる。思えばお陰で命拾いしたし、愛奈と離れ離れにならずに済んだと言えばそうそう悪い状況でもなかったので、ある意味命の恩人とも言えそうではあったが、それと同時にこの時点でミントは華蓮にとって明らかな敵となっていた。


 しかし事態の急転はこれだけで終わらなかった。拘束されて馬車で移送される最中、突如として襲撃を受けたのだ。目隠しをされていたので詳しい状況は把握できなかったが、漂う血の匂いと不意に聞き取れた『これはぁ~どういう事かしらぁ~』という特徴的過ぎる呟きにより敵方にとっても不測の事態だと辛うじて察するも、結局は為すがまま――直後に妙な浮遊感と風圧に晒されて――気付けば古びた教会の礼拝堂に運び込まれていたのがつい先程だ。


 そこでようやく目隠しから解放されると眼前の人物に華蓮の目が点になった。


 そこに居たのはアーリア教会教皇――アレハンドロ・アルブ・コーネリウスその人だったのだから。


 未だに混乱冷めやらぬ心境で更なる追い打ち、視界が一面白銀に染まったと思えばこれまた急に拘束が解かれて愛奈と一緒に壁際に退避させられていたのだから……ミントの手によって。


 そして理解が追い付かないまま室内に居た教会聖騎士達と剣を交える羽目に陥って今に至るという訳だ。


「……っ! 一体、何のつもりなの!?」


 背に愛奈とミントを庇いながら迫る聖騎士の斬撃を必死に受け、捌く。反撃は考えていない。それより立ち位置に気を配り、敵に囲まれないよう立ち振る舞わなければいけない。そんなギリギリの攻防の中、堪らず強い語気で華蓮はミントを問い質した。自分と愛奈を嵌めておきながら何故今更庇うのかと。


「案外ぃ~余裕ねぇ~華蓮さん~、戦いのぉ~最中にぃ~気を逸らしちゃ~駄目よぉ~」

「その無駄に尺を取る喋り方で余裕とか言われたくないわよ!」


 はぐらかされた上に気勢まで削がれてしまった。しかしちゃんとツッコミを返す辺り、実は意外と余裕なんじゃと愛奈が思ってしまったのは内緒である。


 ただ実際はと言うと、華蓮は決して余裕などではなかった。相対する敵勢はアーリア教会が独自に保有する戦力――教会聖騎士。魔法技能を有する信徒から選抜し、戦闘訓練を積んだ教会所属の精鋭だ。その能力はガーランドの近衛である金獅子騎士団員を瞬殺した手腕からも侮れるものではない。


 その精鋭が華蓮の眼前に五人……その内三人が前衛として華蓮と剣戟を交わしていた。


 教会仕様の白銀に輝く全身騎士鎧に身を包んだ聖騎士が、騎士剣を幾重にも閃かせて華蓮を襲う。同時に斬りかかる愚を彼らは決して犯さない。一人が剣を振るい、それを華蓮が受け止める……そのタイミングを狙って二人目が死角から迫る。


 剣気を察知した華蓮は受け太刀の状態から身を翻させて回避……そこへ止めとばかりに三人目が強襲してくるが、華蓮は蹴撃を以てそれを押し返した。


 一見すれば一対三の劣勢を跳ね除けているように見えるが、実際は防戦一方のジリ貧である。このような攻防を既に幾度繰り返しただろうか、その所為で少しずつ……でも確実に華蓮の体力は削られていた。


 更に駄目押しとばかりに残りの二人――前衛の三人とは違い神官服の上から軽鎧を身に付けた後衛職の聖騎士が杖から火球を放つ。


 前衛を払い除けたばかりで体勢を崩した華蓮だったが、瞬時に構えると愛刀を煌めかせて迎撃に移った。


「……”閃刃”っ‼」


 脇構えから右逆袈裟斬りの要領で放たれた斬撃は光る帯を引き一つ目の火球を粉砕し、そのまま流れる動作で華蓮は跳躍すると勢いを殺さずに二つ目の火球も撃ち落とした。


 魔剣術に於ける初歩の技――”閃刃”。華蓮は魔剣術の技能を有していないが、彼女が有する魔刀剣術はそもそもが魔剣術の派生である。故に幾らかは技術が共通しており、魔剣術の初歩程度なら華蓮でも使えるのだ。


 攻撃魔法を防ぐには結界魔法で防ぐか、同じ攻撃魔法で相殺するしかない。”閃刃”は斬撃に魔力を纏う事で武器による攻撃に魔法効果を付与する技であり、これを用いれば華蓮でも剣で攻撃魔法を防ぐ事も可能だった。


 勿論、本来なら属性の相性を考慮した方が効率は良く、ただの魔力を纏っただけの剣で火属性の突撃魔法を打ち払うのは多分に力技の上に恐ろしく高難度な芸当で、華蓮の卓越した技量があって初めて成せる荒業であった。


「ふむ、魔剣術で突撃魔法を防ぐなど前代未聞だな。流石は御使いと言った所か」

「御褒めに預かり光栄だわ」


 教皇アレハンドロの素直な賛辞に華蓮は皮肉交じりに返答する。その間も決して目の前の敵からは目も気も離さない。


 ――っつーか、こいつら……全員フルフェイスの兜被ってるから表情とか視線とか読み辛過ぎるわよ。


 内心で聖騎士達に毒づきながら、同時に華蓮はその練度に驚嘆していた。


 何度も先程のような連携を繰り返している聖騎士達だが、その度に一切言葉や合図といったものを交わしてしないのだ。まるで五人が一つの生命体かのように一糸乱れぬ連携を放つ様は兵士は勿論、帝国騎士と比べても凄まじい技量だ。少なくとも以前に華蓮(と賢司)が半壊させた騎士団とは雲泥の技量差である。


 壁際に追い込まれ、三人の前衛に半円状に包囲され、その後方から後衛二人に狙われながら華蓮はそんな事を考えていた。それと同時に現状の考察も怠らない。


 ――ギリギリを保ってはいるけど、それは後衛が派手な魔法を使ってないからよね。やろうと思えば幾らでも押し切れるでしょうに、それをしないのはやっぱり愛奈を狙っているから……彼女に危害を加えたくないからかしら?


 ここが教会なのも関係しているのだろうか? とも考え、もっと規模の大きい魔法なら簡単に制圧できるだろうにそれをしない理由として華蓮は愛奈を真っ先に思い浮かべた。


 ガーランドは愛奈を狙っていた。それを邪魔した教会は少なくとも皇子とは敵対していると考えた方が自然だ。ならば教会は教会で愛奈を狙う理由があるだろうが、それなら偏屈皇子同様に愛奈だけを狙う理由は何だ? 


「来るわよぉ~」


 思考のドツボに嵌りかけた華蓮を現実に引き戻したのはミントの警告だった。視線を向けた先に見えた光景に華蓮は硬直する。


 後衛聖騎士の二人がドッジボールサイズの火球をダース単位で宙に漂わせていた。さっきまでの攻勢とは敵意の質が違い過ぎる。


 ――ちょっ、手加減されてるって思った矢先に……反則でしょ!


 これだけの物量を防ぎ切る術を華蓮は持っていない。すぐさま引くべきと判断するが、目の前の三人がそれを許してくれないだろう。と言うかこのままでは仲間を巻き込む事は確実だった。


「貴方達、正気なの!? 味方ごと討つ気!? って言うかあんた達も何で逃げないの!?」


 華蓮の問い掛けに聖騎士は誰一人として答えない。その姿に華蓮の背筋に冷たいものが疾駆する。


 恐怖が無いのか? 命が惜しくはないのか? 傷付く事を厭わないのか? そんな疑問を尽く噛み砕くように、後衛から面を覆う程の弾幕が放たれた。そして直後にそれは起きた。


「……”氷華”」


 紡がれた言霊に従って、幾重に舞う氷の花弁が華蓮と聖騎士達の隙間を奔流となって吹き荒れた。それは飛来する火属性突撃魔法”緋弾”の弾幕を一つ残らず相殺し、同時に聖騎士から華蓮達を守る。そして事象が収まると、僅かに生じた意識の隙間を縫って次手が講じられた。


「……”蒼剣”」


 空気中の水分を凝固させ作り出された氷の剣が氷の花吹雪を突破し、前衛の聖騎士の合間を抜けて後衛聖騎士を襲撃する。咄嗟の事態に対応し切れなかった聖騎士は二人共がその刃に射抜かれ、白銀の装束を赤く染めて崩れ落ちた。


 治癒魔法のスペシャリストである筈のミントが行使した。防御、攪乱、攻撃と見事な魔法コンビネーションが敵の陣形を崩す。予想外な展開に呆気に取られる華蓮だったが、刹那の判断で思考を切り替えた。こちらのターンはまだ終わらない。


 時間にしてコンマ数秒の間を置き、”蒼剣”に次いで一陣の疾風が氷の花吹雪から飛び出した。


 限界まで姿勢を低く保った華蓮が最も近い位置に居た聖騎士に向けて、勢いそのままに構えた愛刀を斬り上げる。剣は鎧の隙間に吸い込まれ、一人目の右腕を肩口から斬り飛ばした。


 倒れる一人目に一瞥も向けず、華蓮の目は自身に剣を振り上げる二人目に固定される。振り下ろされる剣を身を回転させ、低い姿勢を維持しながらの横転身で回避しつつ愛刀を薙ぎ……二人目の両足を膝下から斬り裂いた。


 そのまま二人目を渾身の力を込めて蹴り飛ばす。その先に居た三人目が同胞を受け止めるも態勢が崩れ、更に華蓮を見失った。直後に三人目に影が差す。二人目を死角にし跳躍した華蓮が上段に構えた愛刀の峰を兜に叩き込んだ。兜は陥没し、三人目も沈黙した。


 ミントが”蒼剣”を放ってからここまでの所要時間は僅か三秒足らず。一人一秒も掛からない早業で前衛が全滅し、先のミントが仕留めた分も合わせて教皇率いる聖騎士達は全滅した。


「…………見事だ」


 だと言うのに、アレハンドロには僅かの動揺も見て取れなかった。それを訝しむように……ミントが口を開いた。


「随分~余裕ですねぇ~、用意したぁ~戦力がぁ~無力化されちゃったんですよぉ~」

「何……素直に感心しただけの事。あの馬鹿皇子の節穴と言うも可愛らしい審美眼など当てにはしていなかったが、華蓮殿は予想以上の腕前ではないか。……それにミントよ」

「なんですかぁ~」

「お前はいつの間に突撃魔法と爆裂魔法を習得したのだ? お前が有する技能は治癒魔法と付与魔法の筈だが――」

「企業秘密ですよぉ~、教皇様でもぉ~お教えできません~」


 この時点でアレハンドロは勿論、愛奈と華蓮も知らない事だが、ネタバレするならノマム達が製作した新型魔導具のお陰であった。つまり未だに状況が把握できていない愛奈と華蓮は知る由も無いが、ミントはスカーレットが用意した間者なのだ。


 転移組二人の理解が追い付く暇も無く、ミントとアレハンドロの舌戦は続く。


「ふむ、お前はガーランドの密偵だろう、なれば吾輩に隠し事をするのはその任に背く行為ではないのか?」

「そのぉ~ガーランド殿下のぉ~近衛をぉ~始末しちゃった人にぃ~言われたくはないですよぉ~。そもそもぉ~こんな段取りは予定されてませんしぃ~、貴方こそぉ~何を企んでいるんですかぁ~?」

「全てはアーリア様の御心のままに……これは神の御意志によるものなのだよ」


 答えになっていない。アレハンドロからガーランドに対する敬称が省かれている事も含めて、彼が帝国に敵対行動を取っている事実は明白だが狙いがはっきりしない。取り敢えずミントの正体は華蓮の想定通りだった訳で、実はスカーレットの配下である事実を知らない彼女にしてみればミントはガーランド側の都合で華蓮達を守っていると解釈もできるので、事の成り行きを華蓮は慎重に見守っていた。


「謀反でもぉ~起こす気ですかぁ~?」

「ミントよ、そもそも我らアーリア教会は帝国に忠誠を誓っている訳ではない。ギャレリアと手を組むのはあくまで利害が一致していたからに過ぎん。それが今日までだったという事だ」

「狙いはぁ~愛奈さんと華蓮さんですかぁ~?」


 薄々勘付いてはいたが、やはり狙いは転移組の身柄のようだ。ただし、愛奈のみを欲していたガーランドとは違い、華蓮の身も要求しているようであった。


 ――どっちも敵って事で良いのかしら……。


 前門のアレハンドロに後門のミント……そして愛奈がミントに庇われているという何とも複雑な状況に晒されて、華蓮は行動を決めかねている。少し前ならミントから愛奈を奪還して強制離脱も辞さなかったが、ミントが多数の魔法技能――実際は魔導具の恩恵――を有している為にそれは躊躇された。


 そんな華蓮を置き去りにして状況は更に進む。


「ミントよ……お前は元を言えば教会の神官であろう、帝国騎士団に身を置くのはあくまで一時帝国と手を組む為に必要な措置でしかない。ならば吾輩に付くのが道理ではないか」

「それはぁ~できない相談ですねぇ~」


 ちょっとしたカミングアウト――実は教会関係者だったミントの素上に若干慄く転移女子二人、しかしそれを気にせずミントは見事にアレハンドロからの誘いを即答で切り捨てた。


「……どういう事だ? 今まで育ててやった恩に背く気か?」


 それに対し、驚きよりも剣呑な雰囲気を増したアレハンドロが詰め寄るが、ミントは全く動じずに言い返した。そもそも動じた所でミントの場合、それを判別するのは非常に困難だが。


「確かにぃ~教皇様にはぁ~数え切れないぃ~御恩がありますよぉ~」

「なれば――」

「でもそれはぁ~、教皇様がぁ~本当にぃ~教皇様であればのぉ~話なのですよぉ~」


 トンチだろうか? そんな事を考えていた華蓮を他所に、ミントは誰よりも抱えていた疑問を敵地へ投下した。


「貴方はぁ~一体ぃ~、誰ですかぁ~? 教皇様をどうしたんですかぁ~?」


 普段通りの間延びする口調で以て、底冷えする程の冷たさを伴ったミントの疑念が礼拝堂の空気を満たした。

 華蓮無双……とはまだ言えない。愛奈の見せ場はまだ先となるでしょう。


 読んでくださっている方、心よりありがとうございます。


 次回は一週間空けて、再来週土曜日に投稿予定です。

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