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黒竜は異世界に帰る  作者: 夢見シン
第一章 ギャレリア帝国編
15/62

ガールズトーク

 帝都を離れて護衛で赴いたタウロ砦。ここに至ってようやく”オペレーション帝国脱出”の詳細を伝えられた愛奈はまるで遊びの輪に入れて貰えた幼子のように歓喜した。


 予め、いつまでも帝国に居座らない方針だけは愛奈に伝えてあったが、それをある理由から早めた事、当時は愛奈が寝込んでおり回復に専念して欲しかった事、加えて寝込んでいた事は計画に全く支障をもたらしていない旨を伝えてフォローしつつ、最後に自分達の計画が帝国側に漏れる危険を冒したくなかった事をアキトは改めて愛奈にプレゼンした。


 脱出を早めた理由――帝国がアキト達転移組に求める価値と、それと引き換えにした人命について聞かされた時に愛奈は滅多にしない険しい表情を見せ、その上で自分が最も帝国に求められるが故に監視までされていた事実を反芻して微かに体を震わせるも、同時に光を目に宿すだけの気丈さも見せてみせた。


 愛奈がとっくに監視の事実と併せてアキトの意図を汲んでいた事も考慮して、少々彼女を見くびっていたのではとアキトは軽く反省した。


 そして今回の本洗礼への同行が都合良い機会である為に、この日に合わせて諸々の準備を進めて来た経緯と既に粗方の準備が終わっているという報告を済ませてアキトは伝えられる全てを愛奈に伝え終わる。締めに愛奈から質問が一つ。


「それでアキ、剛田君は連れて行かないの?」

「連れて行く訳ねぇだろ。何であんな人間時限爆弾みたいな奴に背中を狙われるリスクを背負わにゃならん」


 愛奈の問いに正にそれが摂理だと言わん勢いでアキトは言い切った。


「愛奈、お前あいつに狙われてるって自覚あるか? あのケダモノキングを僅かでも気遣われると俺の硝子のチキンハートにひびが入るぞ」

「あなたの硝子に見せかけたダイヤモンドハートに傷が付くものなら拝んでみたい気もするけど、別に気遣ってはいないわよ。ただ彼もあたしと同じくらい帝国に目を付けられてるでしょ? 気は遣わなくても命の心配くらいはしてあげても罰は当たらないわよ」


 タウロ砦に来ていない時点で置いてけぼりは確定している。総合力は愛奈に次いで次席、戦闘力なら(帝国が把握できている中で)主席な剛田も監視の対象であるので、帝都に置いて行くのは危険ではないかと愛奈は懸念していた。


「能力を評価されてる時点で利用はされるだろうが取って食われる事はねぇよ。それに、連れては行かねぇが帰還手段が手に入ったら迎えに行くくらいはしてやるよ。……あいつが帰還を望んでるんであれば」


 少なくとも殺される事は無いだろう。悪用されるかもしれないが流石にそこまでは気を遣ってやれないアキトは愛奈の懸念をぶった切った。最終的に【地球】に送り帰してやるだけで十分だと。


 そんな剛田が最近は引き籠りになっていると風の噂で聞いた愛奈さん。アキトに何かしたかとジト目で睨むも、当のアキトは大した事はしてないとこれまた言い切った。取り敢えず、”お約束条項その五”に抵触するような嘘は吐いていない。


 実は賢司と守の協力を得て帝城内の結界と愛奈の監視用結界を利用する形で、剛田が愛奈を認識し辛くなるよう細工していたり、それに痺れを切らした剛田がアキトを闇討ちして来たので返り討ちにして徹底的に脅しつけた事実が存在したとしても、その程度の事はアキトにとって何かしたうちに入らないのだから。


 取り敢えず、発動後の魔法を感知できるという未知の技能を開花させた愛奈は当然アキト達が施した細工についても認識しており、故にきっと剛田がアキトに何かしただろうと察しもついていたが、アキトが”お約束条項”を持ち出してなお口を噤むなら追及は無意味とも悟っているのでこれ以上の根掘り葉掘りは回避された。


 暫し談笑を交えてほのぼのと買い出しを続けるアキトと愛奈。そろそろ必要な物資は揃ったかというタイミングで、不意に感知した気配に二人同時に反応を示した。


 愛奈は前述の魔法感知で強化魔法の気配を読み取り背後からの襲撃を体を転身させて回避しようとした。


 アキトは純粋に敵意? を察知して襲撃者が愛奈に飛び付く前に対象を捕縛した。そうして首根っこ――実際は上着の背中部分――を掴んで持ち上げた襲撃者と目線を交錯した。


 身長に差がある所為で目線を合わせると襲撃者は足をプラプラさせる羽目になるも、それでもニコニコしながら「やるではないか」と快活に言い放った。スカーレットである。


「あぁ~~~~、何してんの姫さん?」

「アキトに捕縛されている真っ最中なのじゃ」

「……すまん、聞き方が不味かった。何をしようとしたんだ?」


 右手はスカーレットを宙吊りにしているので左手で頭を抱えつつ、アキトは端から見れば確実に不敬罪を問われるだろう態勢を維持しつつ問い掛けを続行する。


 一方のスカーレットは自身の扱いに一片の不満を漏らさずに、そして一切の悪気も感じさせずにあっけらかんと返答した。


「私用で出歩いておったら二人を見かけてな、丁度よく手持ち無沙だった故に愛奈に背後から抱き着こうとしただけじゃよ」

「ただ手持ち無沙なだけで抱き着こうとした理由も果てしなく理解不能だが、取り敢えずそのワキワキさせた手で具体的にどこにしがみつくつもりだったか吐いて貰おうか」


 やや絶対零度感が増した視線で問うた所でスカーレットは微塵も怯む事は無い。逆にスカーレットの意図を察した愛奈が胸元を手で覆いながら大いに怯んだ。


「姫さん……そういうのは藤林にしてくれないか。あいつなら揉まれた所で困る程は膨らんでねぇし」

「華蓮が困らんでも妾が困るのじゃ。この前にやってみたら想像以上に平らな所為で掴み損ねそうになったのでな」


 かつて剣姫様を激怒させたぽっちゃりキューピッドと同じ評価をついつい口走っちゃう元黒竜。対するアクティブ皇女も前回の暴挙を全く反省していない様子でアキトの失言に乗っかる始末。何より質が悪いのは二人共、近場で発生する怒気に気付きながらも悪ふざけを決行している訳で、


「取り敢えず二人共……どこから斬り飛ばされたいか教えてくれないかしら?」


 実は近くに居た……と言うよりスカーレットに同行していた華蓮が背後に怒りのオーラを纏いながらゆらりと腰の剣に手を掛けていた。


 アキトとスカーレット……華蓮がそこに居ると知りながらお構い無しにディスるダイヤモンドハートの持ち主。硝子のチキンハートなどと、どの口でほざいていたのか。


 取り敢えず美少女がしちゃいけないだろう据わった眼光で睨む華蓮と睨まれているアキトとスカーレットに、さり気に一緒に居る相変わらず無表情がデフォルトなセレナが集まる画は中々にカオスだと言っておこう。何せ余りの空気に周囲半径五メートルに誰も近付けなくなっているのだから。


 その場で愛奈だけが華蓮の佇まいに「ひっ」と短く悲鳴を上げて縮こまっている有様は実に正しいリアクションだと言える。多分この場で一番の被害者であろう。


「華蓮よ、皆が怯えておるので怒気を収めて欲しいのじゃ。と言うか砦内で無闇に抜剣するのは規律違反じゃから控えて欲しいのじゃ」

「華蓮殿、規律違反はわたくし見逃せませんよ」

「私の所為!? まさかの私だけの所為!? よりにもよってスカリーがそれを言う!? そしてセレナさんも主君の暴言はスルーなの!?」

「申し訳ありません。心中お察ししますが、わたくしは殿下の傍付きですので」

「分かっててやってたし! 徹底的な姫贔屓、分かってはいるけど理不尽過ぎるわ!」


 スカーレットだけでなくセレナにまで弄られる華蓮……剣姫様は本日不憫の星の下で照らされているらしい。それでもいつも通りのツッコミリアクションを返す辺り流石は華蓮であった。


「弄られてるとこ悪いが、藤林……愛奈が怯えてるから取り敢えず頭冷やして」

「…………分かったわよ」


 しかし元凶の片割れであるアキトの不条理発言(確信犯)に対して華蓮は素直に――ノリが悪く――身を引いてしまった。アキトさんちょっと肩透かしを食らってしまった。愛奈も思わずキョトンとした。


 華蓮の珍しい反応をアキトはそんな事もあるか程度に流すも、愛奈の方は妙に不審に思ったのか華蓮を凝視している。


 スカーレットも予想外な華蓮の反応に戸惑っていた。どこか空気が乱れそうな雰囲気にアキトはすかさず話題の転換を図る。


「それはそうと珍しい……って訳でもない組み合わせで一体どこに向かってたんだ? この先はハンターズギルドがあるぐらいだろうに」

「ん……うむ。どうもこうも、そのハンターズギルドに用があるのじゃ」


 やや反応が遅れるもアキトの話題転換に乗っかるスカーレット。聞いた所、明日から樹海に入るので予めその旨をハンターズギルドへ報告しに行く途中だったそうな。


 一応、帝国側とギルド側でイズフ樹海の管理場所はきっちり区分けされており、聖地への道程は帝国の縄張りとなっている。だがそれでも許可無く縄張りを越える輩が居ない訳ではなく、又はうっかり迷ってしまう間抜けも居たりするので、ギルド側に前以て注意勧告をして貰う必要があるのだ。


 当然、砦内に於けるギルドの責任者と会うので騎士団からも責任者であるスカーレットが出向くのが筋となる。セレナはその護衛として同行していた。


「なら藤林は何故に付いて来た? 必要ねぇだろうに」

「…………自分から付いて来たんじゃないわよ。連れて来られたの」

「な~に、暇そうにしておったからの。妾からの気遣いじゃ」

「お前ら仲良いな」

「…………まぁね」


 やはり華蓮の態度がアキトに対してどこか余所余所しい。当のアキトはそこまで気にした素振りは見せていないが、愛奈とスカーレットは変に意識せずにはいられない。セレナは淡々と無表情維持なので内面が図り辛い。話題転換しても相変わらずな空気に本来ならこのまま別れた方が無難なのだが、


「……ねぇアキ、あたし達も同行しない。あたし、ハンターズギルドって見てみたいかも」


 そこで愛奈からまさかの提案。ギョッとしたのはスカーレットだ。言葉にはできなかったが「この状況で何故その提案!?」、「空気読んで!?」と言いた気なのがよく分かる。案の定アキトは軽い態度でそれを了承し、皇女は「あんたもかい!」と胸中で軽く絶叫した。因みに傍付きは「では参りましょう」と空気を意にも介さず平常運転だった。


 華蓮のアキトに対する態度の理由や、愛奈の謎の提案の意図を消化しきれぬままに、奇抜な空気を纏った皇女一行はハンターズギルドを目指す。道中、擦れ違う人々が微妙に距離を空けていたのはここだけの話。


 ====================


 ギルドでの話し合いは大した問題も無くスムーズに進んだ。細かく語るなら、問題が全く無かった訳ではないが大した問題ではなかったのだ。


 それはスカーレットがギルドマスターに面会した際に、


『いやいや姫様、貴女が公務でここを訪れるなど珍しい』

『ちょっ、まっ! マスターよ何を――』


 と、皇女が素で慌てふためく事態が発生しても大した問題ではなかった。どうやらお忍びでタウロ砦に訪れてはハンターとして魔獣狩りに勤しんでいたらしく、流石に独りで狩りに出掛ける行動を慎んで貰いたいギルドマスターが確信犯的に人前でポロリした事実があろうと問題ではない。


『……ギルドマスター殿、そこの所を詳しくお願いします』

『セ、セレナよ……これには樹海の深淵より深い訳が――』


 重ねて傍付きクール美女が何とも悪寒を誘うそれはそれは陰影エフェクトを付加した笑みでギルドマスターに詰め寄り、狙った展開になった筈のギルマスが『やべぇ、タイミング見誤ったかも』と若干後悔しながらもスカーレットの所業を次々と暴露した事も問題ではない。


『殿下……貴女という御人は、わたくし達が騎士団運営や貴女様の公務を肩代わりしている隙に御一人だけで魔獣狩りを楽しんでおられたのですね』

『ゆ、許しておくれセレナ! これはあれなのじゃ、妾の内なるパトスが滾った故の不可避なあれなのじゃ‼』


 最後に陰影さが天元に達しそうな笑顔で迫るセレナにスカーレットがガクブルで表情を青褪めさせ、その場の全員がセレナさんSUGEEEEな極寒過ぎる空気に晒されたとしても、要はハンターズギルドとの話し合いは円滑に終えられたので問題はないのだ。と言うか無かった事にするしかない程にセレナさんが怖かったのである。


 そうして滞り無く進んだ筈なのに何故かグッタリしたギルマス以下ギルド職員達に別れを告げ、文字通り首根っこを掴まれ「あうぅ」と呻きながら傍付き女騎士に引き摺られて行く皇女を見送った後、


『女の子同士で色々見て回りたいから、また後でね』


 アキトにそう言ってから、愛奈は華蓮を連れ立って商業区を見回りつつ現在に至っていた。アキトは華蓮が一緒なら大丈夫だろうと買い込んだ物資を抱えて先に戻っている。


「随分アクティブな皇女様だとは思ってたけど、ちょくちょく魔獣狩りに来てたなんて流石に驚いたね」

「そうね……確かにスカリーならそこら辺の魔獣なんて敵じゃないけども、皇族としては如何なものと激しく突っ込みたい所だわ。それはセレナさんにお任せして大丈夫だけど」


 異世界版ウインドウショッピングに興じつつ、二人の話題は自然とスカーレットに傾く。一国の皇女が単独で魔獣狩りなど以ての外とは異世界だろうと国際常識であるのに、愛奈も華蓮もセレナ程スカーレットを非難する気にはなれない。


 それもその筈、何せスカーレットのステータスはこのようになっているのだ。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 スカーレット・セシリー・ギャレリア  15歳  女


 体力  :1200

 精神力 :900

 魔力  :850

 変換効率:80.9%

 魔法適正:地E 水C 火A 風C 光A 闇D

 魔法技能:魔槍術、爆裂魔法、強化魔法

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 敢えて言おう、凄まじいの一言だと。


 勿論、転移組に比べれば一歩物足りないものではあるが、【スフィア】の人間族の基準で考えれば文句無しで超人格である。


 実は”帝国の最強戦力”、”緋槍の戦姫”と言った異名を持つ武闘派皇女……それがスカーレットなのだ。


 元を言えばタウロ砦を魔改造した理由も、存分に魔獣相手に戦いたい、なので腰を据えて拠点にできる自分好みの場が欲しいといったものなのだから筋金入りの戦好きである。


 しかし彼女は決して自分本位な人物ではなく、切っ掛けは自身の希望を優先するとは言え結果的にタウロ砦は豊かに発展を遂げている。他にもアクティブ皇女故に国内各地に似た理由で赴いては何らかの形で街や村を発展させるなど、自分だけでなく多くの国民の生活向上を成し遂げているのだ。


 本人は『妾が赴く地が侘しいとつまらんのじゃ。皆が笑っておらんと妾が楽しめんのでな』と自分本位な態度を装い、自身の功績を全く誇る事をしないが関わった国民達は笑顔でスカーレットを称えている。


 故に実兄であるガーランドからは蛇蝎の如く疎まれている訳で、皮肉と言えば皮肉であった。


 辛辣に言うなら兄側からの嫉妬であるのでスカーレットに非は無い。特に近年は大きな戦も無かったので軍務を預かるガーランドと国民の生活に寄り添うスカーレットでは人気に差が出るのは仕方が無い。


 ならばスカーレットの武力を軍務に生かせば良かったのだが、狭量なガーランドはそれを何より嫌った。嫉妬する相手に借りを作りたくなかったのだ。何よりギャレリア帝国では女帝の即位が認められている為に、ガーランドがスカーレットを明確な政敵として見ている事も悪感情に拍車を掛けていた。


 当のスカーレットは帝位に微塵も興味が無く、寧ろ厄介事の種としか思っていないので完全にガーランドの一人相撲なのだが、それらを諭しつつの歩み寄りも悉く徒労に終わり、スカーレットは半ば兄を見限ってしまっていた。


 以上の事実を緋鳳騎士団との愚痴り会でそれこそ耳にタコができるのではと言う程聞かされた華蓮は、それらを隣の愛奈に聞かせつつ自身も存分にガーランドを罵倒していた。


「ほんと、ケツの穴の小さい男! 大体軍務って何やってんのって話じゃない? 魔人族とは実際大きな戦はしてないってんだから、寧ろアレが無駄に戦争煽ってんじゃないのって感じよ!」

「あぁ~、うん……そうだね。……どうしようアキ、思った以上に藤林さん溜まってるよ」


 周囲に人が多い状況で一応は聞かれない方が良いだろう話題を、華蓮は器用にも小声で怒鳴るという手法で発散している。実は華蓮が思い詰めているだろうと予想し連れ出した愛奈であったが、予想以上に鬱憤を溜め込んでいる様子な華蓮にちょっと引き気味だった。


 それも続けての発言で一気に霧散する事にはなったが。


「それに引き換え、スカリーは頑張ってるわよ。パッと見は破天荒な振る舞いで周りを引っ搔き回してるみたいに見えるけど……実際に私は引っ搔き回されてるけど、あの子は皆を笑顔にしようと一生懸命だわ。あの子や騎士団の皆と話してるとそれがよく分かるの」


 慈しむ様な、それでいてどこか悲痛さを感じさせる華蓮のスカーレットに対する想いを聞き、愛奈は胸に去来する切なさを抱き締めて悟る……華蓮が何を抱えているかを。


「いっそ妹の爪の垢でも煎じて飲めば良いのよ、あの短絡バカ皇子! ……スカリーは嫌がるだろうけど」

「……クスクス」

「……? 何、神子柴さん?」

「あ~ごめん、何かさ、本当にスカーレット姫と仲が良いなぁって」

「う……! そ、そうかな?」

「うん、見てるとホントの姉妹みたいに見えるし」


 愛奈にも覚えがある感情だった。異世界人である自分に良くしてくれた守護騎士団の面々に対する想いが確かに愛奈の中にある。例え相手の気持ちに帝国の目的に沿って欲しい打算が含まれていたとしても、自身に芽生えた気持ちは間違い無く本物なのだ。


 スカーレットに対する華蓮の想いはそれより深いのだろうという事はこれまでの二人のやり取りを見ていれば否が応でも察しが付く。だからこそ華蓮が抱える迷いも己が事のように愛奈には分かった。


「……助けてあげたいって思うよね」

「え、……あ~、うん。そう、できる事なら……ね」

「ふ~ん……」


 どこか歯切れの悪い華蓮に向かって変に笑みを浮かべる愛奈。見覚えの無い愛奈さんの一面に華蓮さん戸惑う。


「え~っと、神子柴さん? そんな妖しげな、あなたの仲良しなちょっとおかしな親友女子に似た雰囲気で一体どうしたの?」


 割と失礼な感じで美矢を評されるも、愛奈は構わずニヤニヤ。内心で結構その通りと思ったのは内緒である。きっと関西娘が泣いてしまうから。


「藤林さん……『できる事なら』じゃなくて、『そうしたい』の間違いだよね」

「へっ! いや、その」


 突然の追及にキョドる華蓮。


「…………迷ってるよね、素直に帰るか、この世界で何かすべきかで」

「あ……う…………」


 愛奈の発言に言葉を失う華蓮。暫しの沈黙の後、内心を見透かされた所為か凡そ普段の華蓮らしくないしどろもどろな弁明が紡がれた。まるで彼女の迷いを表すように。


「ちがっ……あの、決して帰りたくない訳じゃなくて……寧ろ早く帰りたいのは皆と一緒なんだけど。その……えっと」

「落ち着いて、別に非難してるんじゃないのよ」

「ふぇ?」

「んん……その気持ちはよく分かるわって言いたかったの」


 ギャップ萌えだろうか? いつもの凛とした雰囲気からかけ離れた今にも泣き出しそうな華蓮の有様に若干見悶えつつ、愛奈は落ち着かせるよう優しく語りかけた。


「迷っちゃうよね、帰りたいんだけど……そのまま帰って良いんだろうかって」

「…………神子柴さん」

「無理矢理に知らない世界へ呼ばれて、いきなり戦えなんて言われると迷惑だけど、親しくなった人の助けになりたいって思うのは間違ってないと思うよ。帰りたいからってそういう全部を切り捨てるって、凄く大変な事だもの」


 己の胸中を掬い上げるように寄り添う愛奈に華蓮の心は綻んでいった。同時にもしやという疑念が頭をよぎり、それを確認すべきか逡巡するも愛奈はそれすら汲み取ってみせた。


「全部知っているの、帝国があたし達に何をさせたいかも、その為に犠牲を出してる事も」

「……! 一体誰から……って、竜宮しか居ないわね」

「全てを言われて知った訳じゃないわ。ある程度は気付いてたの、それでアキから聞き出したわ……さっき」


 聞かされた話は本当に非道で、他人事と割り切るにはハードルが高過ぎて、アキトを信じる愛奈をして受け止めるのに労を掛けた。それはアキトの犠牲者に対する余りに情の無い対応も含まれる。


 ならばアキトへの信頼が薄い華蓮なら余計にハードルは高い筈で、


「神子柴さんは……竜宮を信じてるの?」


 今の自重を放棄気味なアキトを華蓮が不審に感じても無理らからぬ事と愛奈には理解できた。


 華蓮の質問に対して無言で頷いた愛奈は、その時に見えた華蓮の憂いを帯びた表情から改めて華蓮の胸中を察する。そしてそれ故に華蓮の心の底に沈殿する不信に確信を得た。


「ねぇ、藤林さん……」


 だからこそ、それを祓うべく愛奈は言葉を重ねた。彼女の気持ちに誰より寄り添えると思ったからこそ、それができるのは自分だと感じたのだ。


「アキを……信じてあげて」


 華蓮の中にある、アキトへの不信を祓うのは自分の役目だと。

 読んでくださっている方、心よりありがとうございます。


 次回は来週土曜日に投稿予定です。

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