真っ赤な心臓
心電図は三拍子だ。
パン、ポン、ポン
生きている音だ
八十二年目の春、その心臓は床の上に眠っていた
寂しそうだった
部屋の中はVacancy(ウ゛ャカンシー)
やがて一人入ってきた。
心電図が波打つ
そわそわと動き、右手に握られたハンカチが揺れる
夕陽がこの部屋を染める
もう一人入って来た
白い服を着ていた。厚い眼鏡を付けていた。
日焼けした手がカーテンを閉めた
最後に彼自身がやって来た。
涙を浮かべていた
今まで頑張った『ぼく』にお礼を言いに来たと言っていた
世界がまた始まる気がした
八十二年間動き続けた真っ赤な心臓が証言する
一時のまどろみのあと、世界にまた朝が訪れる
彼が証言台から去ると、部屋の中が静かになった
真っ赤な心臓よ 静かに眠れ
真っ赤な心臓よ 今宵の寝床は決まったか
心臓図はただ黙って、傍観していた
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