No 03
「というわけで、明日から私とアランとクーガの3人でカトリシトに行きます。」
アランと俺は朝っぱらから呼び出され、リーシャ様からの第一声。
・・・何がというわけなんでしょうか・・・。
でもまぁそういうのはどうでもいいとしてとりあえずは
「・・・嫌だ。俺は城から出たくない。」
ようやく側近の仕事に慣れてきたと思ったらこれだ。
外に出て知らない奴と顔合わせるとか冗談じゃない。
そもそも城内でだって極力人と関わりたくないのだ。俺が関わりを持つ人間はアラン、それと実質国をまとめているらしいスーザンってじいさんくらいだ。
そういえば部屋に食事を運んでくる同い年くらいのメイドさんとも話したことはあるな。
リーシャの横に立っていると、顔を合わせる人間は他にもいるものの、会話をすることはまずない。
これだけ関わりが最小限で済んでいるのはリーシャの計らいのおかげだと思う。
まぁとりあえず何が言いたいのかと言うと、知らない人と関わりたくないから城から出たくない。
「仕方ないでしょ・・・。なんか国のトップが集まる会談・・・?みたいなのが強制参加なんだから・・・。」
「リーシャとアランで行けばいいじゃないか。俺は留守番してるよ。」
リーシャが居なければ実質俺に仕事は無い。つまり自由だ。
「だ~め!クーガは私の側近でしょ!」
「マジで嫌だ・・・。城から出るくらいならアランと殴り合ってた方がまだマシだ・・・。」
「おっ!また朝の鍛練やるか?」
「やめろよ・・・。お前と普通の鍛練場で殴りあいして以来、なんか他の兵士にめっちゃヤバい目で視られてんだからな・・・。」
「まぁ、お前は異常だからなあ・・・。」
「うっせ。」
そんなのは自分でよく分かっている。俺の体つきはせいぜい身体のできたスポーツ選手程度にしか見えない。
それなのに身体能力を0.3倍とか訳の分からんセーブをして、それでボルトよりも速く走れたりするレベルだ。
これは筋力の成長とかそういう次元の話ではないんじゃないかと思う。
多分、変異とか進化とかいう類だ。
アランとの地獄の修行に耐えるために肉体が変化したのだろう。
自分でも突飛すぎる発想だとは思うけど、そうとでも考えなければ説明がつかない。
確かに筋肉はついている。腹筋はシックスパック、やや細身ながらも全身にしっかり筋肉がついているのも分かる。
だけど、それだけだ。これくらいの身体をしている奴らなんてごまんといるはずだ。別に特別すごいことではないと思う。
なのに、身体能力0.3倍の状態で熊男のようなアランと互角にやりあえている。
しかも、異常さはそれだけでは収まらない。
俺は修行が終わってから1度だけ身体能力を1倍、つまりは元に戻したことがある。
正直、自分でも訳が分からなかった。あれは単純に0.3倍から3倍ちょいになったとかいうレベルではない。
自分の力が何十倍にもなったように感じた。
多分、全身の能力が掛け合わされるせいだ。
身体能力強化の強化は、単純な総合力の値ではないのだと思う。
例えば殴るという行為、これは肩、腕、腰、下半身に至るまで、様々な筋力、バネを使う。
肩、腕、腰の筋力、バネ、1つ1つが3倍にもなれば、殴るという行為の結果は3倍なんてもんじゃ済まない。
そういうことだと思う。というかそういうことだと思うことにした。
「・・・どうしたの?」
・・・知らないうちに関係ないこと考えちまったみたいだ。
「・・・いや、何でもない。」
「そう?まぁとりあえず明日出発ね!」
「おう。」
アランは特になんの問題もない様子で答える。
これ以上の抵抗は無駄だろうな・・・。
「・・・分かったよ。」
城から出るとか・・・憂鬱だ・・・。