No 02
外は良く晴れた空、心地よい風。
側近に就いた翌日の朝、俺は謁見室で唖然としていた。
「・・・リーシャさん・・・?一体これはなんなのでしょうか・・・?」
目の前にあるのは山のように積まれた紙資料。60センチくらいの高さの塊が20近くある。
「報告書とか、その他諸々。しばらく空けてたうちにたまってたみたい。クーガにはこれに判子を押す手伝いをしてほしいの。」
「・・・判子って・・・これ全部に?」
「まあ、よっぽど変なのじゃなきゃ気にしないでバンバン押してけばいいから。」
「・・・この量に加えて内容の確認までしろと?そもそも変かどうかとか分からんし・・・。」
「・・・基本適当で大丈夫だから。」
微妙な笑顔で言うリーシャ。
おい姫様、そんなんで本当に良いのかよ。
ていうかそもそもだ
「・・・なあ、これって俺の仕事じゃなくねぇ?」
「何言ってんの?クーガは私の側近でしょ。」
「え・・・。側近て基本何もしないで金魚の糞やってれば良いだけの夢ジョブなんじゃないの?」
俺が側近という職業に就くことを渋々ながらも最終的に了承した理由はそこにある。そこにしか無い。
「・・・それは従者とかのことでしょ。側近ってのは秘書的な立場を担ったりしてても間違いじゃないから。」
至極真っ当な顔でリーシャはそう言い切る。
「・・・マジ?」
「うん、マジ。」
詰んだ・・・。さらば俺の楽園生活・・・・・。
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「あ~・・・・・はぁ・・・・・。」
夕暮れ、朱色に染まった謁見室でうめき声とため息がこだまする。
俺は判子を押す、紙をめくっては押す、を永遠繰り返す。
暫くして、再びため息を漏らす。
俺の目の前ではリーシャが寝息をたてている。
開始2時間でダウンしやがった・・・。
リーシャがダウンしてから約6時間、俺は一人で作業を続けた。
リーシャが寝ているのに気づいたときは、殴り起こしてやろうかとまで思ったのだが、結局何も言わずに一人で作業を継続した。
俺が今生きているのも、まともな生活を送れているのも、全部リーシャのおかげだ。
きっとリーシャは疲れている。これくらいのことは俺一人でやっても良いんじゃないだろうか、むしろやるべきだろう。そう思ったからだ。
・・・決してリーシャの気持ちよさそうな寝顔を見てくてなんとなく気が変わったとかそういうのでは無い・・・。
最初は無限のようにも感られた資料の塊も、残すとこあと一塊だ。
・・・この最後ってのが一番長く感じられるんだよな・・・・・。
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「本当ごめん・・・。」
目の前で90度腰を折り曲げ謝罪するリーシャ。
時刻は夜の9時。ついさっき無限の判子押しが終わったのだが、リーシャが起きる気配はなかった。
さすがにそろそろ起こした方が良いと思い起こし、今に至る。
「いや別に怒ってないし気にもしてないから。」
そもそも起こさなかったのは俺だ。
「でも・・・。」
申し訳なさそうに俺を見上げるリーシャ。
俺としては正直こういう反応をされる方が困る。基本的に謝罪なんて受けたことないし、フォローとかどうすればいいのか分からない。
「あ~・・・なんつうか、これくらいのことはやらないと俺の存在意義が無くなって困るからな・・・。だから、大丈夫だ。」
・・・何言ってんだ俺は。なんのフォローにもなってないし、何がどうして大丈夫なのか、全くもって意味不明・・・。実は俺、日本語不自由説。
「・・・やっぱり優しいね、クーガは。」
内心で自分を罵倒していると聞き慣れない言葉が耳に届いた。
「・・・は?」
優しい・・・?俺が・・・?
反応できないでいると、再び今までの人生で無縁だった言葉を聞くことになる。
「ありがとっ!」
・・・こういう時、なんて言うのが正解なんだろうか。
何も言えずに、顔に熱が溜まっていく感覚。
「・・・別に大したことはしてないから・・・。」
思わず顔をそむけ、そっけない態度をとってしまう。
「ううん、本当は私の仕事だったから。それに嬉しかったから。ありがと。」
「・・・わかったよ。・・・どういたしまして・・・。」
これで正解なんだろうか・・・。まぁきっと、これで良いんだろう。
「クーガってもしかしてお礼言われるの慣れてない?」
「あ~、まぁそうな・・・。」
「・・・可愛いね!」
「うるせ、ほっとけ。」
「照れるなって~。泣きながらしがみついてきたくせに、今更でしょ。」
「ほんとすいませんでした頼むからやめてくださいお願いします。」
「なんでクーガが謝ってんの。」
そう言い可笑しそうに笑うリーシャ。
いや全然笑えないから・・・。
黒歴史とはたびたび掘り起こされるものらしい。