No 01
2章(?)開始です
「クーガ、あなたを今日付けで私の側近に任命します。」
「嫌だ」
姫様であるリーシャの言葉に、空我は間髪入れづに返答を返した。
普通、城の中で姫様に対してこんな態度をとれば即刻処刑になってもおかしくはないだろう。
ここはペスリィト国の真ん中にそびえるリリア城。
今二人がいるのは謁見室、いつもリーシャが仕事をしている部屋だ。
「嫌って・・・一体いつまで無職でいる気なのよ・・・。」
言って彼女は大きなため息をつく。
一方の空我は心外だ、とばかりに口をとがらせ
「リーシャが言ったんじゃないか。タダ飯で一生ごろごろしてて良いよって。」
「そんなこと言った覚えないし・・・。言ったのは修行が終わるまでの生活は不自由なくしてあげるってだけ。」
「・・・だいたい同じじゃん。」
「全然違う・・・。そもそも修行は一か月前に終わってるでしょ。」
「・・・嫌だ、働きたくない。」
「・・・何のための修行だったのよ。」
「・・・は?何って、強くなるためだけど?」
「・・・これじゃあ強くなった意味なくない?」
「何を仰っておられるのですかリーシャ様。俺は強くなったからって戦争をしたいなんて思いませんよ。積極的に闘いたいとも思わない。強くなりたいのと働きたいのはイコールじゃないから。」
至極当然のような顔でそう主張する空我。
リーシャは呆れ顔で再びため息をついた。
働きたくないなどと、社会不適合者のようなことをのたまう空我だが、こうなったのには理由がある。
偏に修行の反動だ。空我は約3ヶ月の間、地獄の鍛錬を毎日10以上時間欠かさず行っていた。それはもう尋常ではない本当に鬼のような鍛錬を。
そしていざ修行が終わると、空我は本当に幸せそうに毎日の自由を満喫し始め、リーシャも頑張ってたから少しくらい、とそれを許してしまった。
地獄のような生活から一転、それからの生活は空我にとって天国も同然だった。そんな感じで怠けているうちに、もともと勤勉とは程遠い性格に拍車がかかり、完全にダメな感じの人間の完成だ。
修行の結果、相沢空我は大きく(外見は良い方に、中身は悪い方に)変わったのだ。
そして尚も言い合いは続いていた。
「じゃあさ、ウサギとカメって知ってる?」
「話の流れが読めない・・・。つーかこっちにもウサギとカメの話が存在するのか・・・。俺がカメ?」
「クーガがウサギ。」
「なんだと・・・!俺はそんなにポテンシャルを秘めていたのか・・・!!」
「・・・でもカメに負けちゃうんだよ?」
「その1戦だけカメに負けたとして、カメとウサギじゃその後の人生どっちが勝ち組かなんて考えるまでもないだろ。はいウサギの圧勝!」
「・・・・・・・・とにかく、私の側近を引き受けないなら城から追い出すから。」
「嫌だ!俺は・・・働きたくない!!」
「義務を怠る人間は権利を主張しちゃいけない・・・。は・た・ら・け。」
「・・・税を納めないホームレスは人権を主張できないのか?彼らは人権を踏みにじられても黙っていなきゃいけないのか?違うだろう?つまりは義務を果たさずとも権利は主張しても良い!いやむしろするべきだ!!」
「・・・物が欲しい時、買い手が金を払って初めて物を手にすることが出来る・・・。クーガの生活は働かなければ保障されない、というか私が許さない。・・・・・そもそも何を言おうと決定は覆らないから。・・・この城では私が法だから。」
「そんな!横暴だ!!」
「君に残された選択肢は2つ。城から出ていくか私の側近やるか。さぁ、選びたまえ。」
「・・・なんか口調おかしくない?」
なんだかんだと言いつつもこうして―――。
相沢空我、後に人類最強と謳われる男の職が決定した。