No 10 アラン・リチュード
ペスリィトはリーシャが治めている小さな国だ。
規模は国というには小さすぎて、街と言った方がしっくりくる。
ペスリィトは高さ10メートルもありそうな巨大な壁に国全体が包まれている。
イメージとしては、進◯の巨人、かなぁ・・・。
基本的には市民権、あるいは入場許可証を持っていなければ入れないらしい。
リーシャに連れられペスリィトに着いたのは4時間ほど前。カトリシト去ってから3日が過ぎていた。
カトリシトを出て馬車で揺られる中、リーシャが聞いてきたのは俺がこれからどうしたい、どうなりたいかということ。
俺は迷わず答えた。
強くなりたい。
それも中途半端ではなく、誰にも負けないくらい、それこそ最強と言えるくらいに。
馬鹿なことを言っているのは分かっている。俺は現状なんのアドバンテージも持ってないただのデブだ。
無理だと言われると思っていた。笑い飛ばされるじゃないかとも思った。だけど、リーシャは真剣に聞いてくれた。
「それが可能かどうか、私には分からない。だけどクーガが強くなれるように私にできることはやってあげる。」
そう言ってくれた。
そして今。
俺は城内の一室に待機させられている。
リーシャが俺を師事してくれる人を呼びに行っているらしい。
それにしても遅いな・・・。
突然、部屋に流れる風が止まった気がした。
後ろにある部屋の窓は開いていて、さっきまで心地よい風が入ってきていたのだが
「お前か。」
急に後ろから声が聞こえた。
突然聞こえた声に驚きながら振り返ると、窓枠に大男が座っていた。
歳は多分俺の親父と同じくらい。だけど、恐ろしく身体が鍛えこまれているのが服の上からでも分かる。
多分海外のボディービルダーなんかよりすごいと思う。何というか、マウンテンゴリラみたいな人だ。
「えーと・・・誰ですか?」
「俺はアランだ。」
「はぁ・・・そうですか・・・どうも・・・。」
じっと顔を覗き込まれる。
何となく気分の良いものではない。
その直後、アランは俺にいきなり接近、腕を掴み、部屋から窓の外に投げ飛ばした。
「・・・っ!?・・は?」
何をされたのか理解できなかった。気付いた時には浮遊感に襲われて、次の瞬間葉の生い茂る木の中に突っ込み、そのまま地面に叩き付けられた。
「ぐはっ!!??」
一瞬呼吸が止まる。
木の上に落ちてなかったらヤバかった・・・。
これ2階じゃなかったら死んでたんじゃ・・・。
つーか、めちゃくちゃ痛ええぇぇ。
「おい、いつまで転がってんだガキ。」
気付くとすぐ横にアランが立っていた。
「・・・てめぇ、いきなりなにしやがる・・・!!」
「俺は腑抜けが大嫌いなんだよ。・・・ここで殺してやる。」
言い終わると同時に足が振り上げられた。
「んなっ!?」
仰向けに倒れている俺を躊躇無しに踏み潰しにきた。
何とかギリギリで回避。
心臓がバクバクと鳴り響く。全身から汗が噴き出すような感覚。
こいつ今、本気で
「ごふっ!!??」
立ち上がろうとした瞬間、腹を蹴り飛ばされた。
蹴られたのは腹のはずなのに、脳が揺れる。
猛烈な吐き気に襲われる。
目がチカチカする。身体が震えて力が入らない・・・!
ダメだ、こいつ強すぎる・・・。つーか意味わかんねぇ、俺はここで死ぬのか・・・?
本気でやばい・・・!どうしたら切り抜けられる・・・!?
「・・・お前みたいな何の価値もないへたれは、そこで一生這いつくばってろ。」
瞬間、俺の中で何かが、音を立てて切れた。
「・・・黙れよ。」
頭がガンガンする。視界が、脳内が、燃える。燃え盛る。
「・・・あん?」
思考が全て闘いの一色に染まる。
身体が痛い?我慢しろ。
相手が強い?関係ない。
こいつが何者か?どうでも良い。
とりあえず今はこいつを・・・
「ぶっ殺す・・・!!」
白熱する。
視界がクリアになり、身体が勝手に動き出す。
直後、アランが獰猛な笑みを浮かべた。
「・・・やってみろよ、ガキ!」
そこから俺は・・・・・無様に転がされ続けた。
殴る、殴る、蹴る、殴る。どんなにしても攻撃は全て空振り、毎回反撃を喰らう。
何度も尋常じゃない衝撃が俺を襲う。だけどそんなことはどうだって良い。
絶対こいつぶっ飛ばす・・・!!
30を超える攻撃を全て躱され、俺は地面に倒れ込んだ。
足に力が入らない・・・。
起き上がれない・・・!
アランが俺の腕を踏みつける。
「・・・もう終わりか・・・。口だけだな・・・ガキ。」
「ッ・・・!!!!」
まだだ・・・!足が使えなくても、まだ闘える・・・!!
アランの足を全力で掴み、脛めがけて頭部をフルスイング
「っらぁ!!!」
瞬間、俺の頭に大衝撃。
「あっぐううううう!?」
思わず頭を抱え、頭上を仰ぎ見るとアランは何食わぬ顔で立っていた。
「くっそふざけんな・・・!なんで俺の頭だけ痛くて、てめえはノーダメージなんだよ・・・!!」
これでノーダメージとか、クソが!!どうすればいい、どうすりゃ勝てる!?
・・・・・玉か!?金玉ぶっ潰せばいくらこいつでも・・・・・
「・・・悪くないな・・・合格だ。」
俺が脳内で作戦(?)を立てていると突然アランが俺に手を差し伸べてきた。
「・・・あ?」
「・・・悪いな、ちょっと試させてもらったんだ。」
そう言いニカっと笑うアラン。俺に対する敵意は全く感じられなくなっている。
「・・・?どういう・・・」
俺が口を開きかけた直後
「ちょっとなにやってんのアラン!!?」
リーシャが乱入してきた。
この話から13話まで、大分雑ですが、話の流れだけ分かってもらえればと思います。