生き残るために
2人はお風呂に入っており、私はリビングでお茶を飲んでいる。こっちは断水していないし、ソーラーパネルの電気でお湯が沸かせるって便利だ。しばらくはこの家に居ることで生活は出来そうだけど、将来、そう将来を考えると駄目だろう。
何が必要か……。水、食べ物、これは必須だな。食べ物は店や家から盗むにしても限度があるだろう、となると作り出すしかないけど、ザンビが溢れる中で食べ物、野菜くらいかな、育成出来るんだろうか?
それにいつまでこの家に居ていいものだろうか? 私が増えた分食べ物の量だって減るだろうし、どこかで出て行った方が良いだろう。塩ちゃんも無事に送り届けたし、俺も実家にでも帰ってみるかな。
「すっ凄い。ハンバーグだ!」
「詩織好きだったでしょ。今日は特別よ! まあ冷凍してたものだけどね」
「「「いただきます」」」
食卓に並んだハンバーグに目をやる、またハンバーグが食べれると思わなかった。ハンバーグに箸を延ばすが、一瞬箸を止める。何で3個ハンバーグがあったのか? 本当は俺用じゃないんじゃないか? 本当なら塩ちゃんパパの分なんじゃ。俺が食べていいのだろうか……。
「遠慮しないでね。それともハンバーグは嫌いだった? ごめんなさい」
「いえいえ、違うんです。もうハンバーグが食べれると思ってなくて、遠慮なくいただきます」
塩ちゃんパパには悪いけど、再度冷凍する訳にもいかないだろうし、それに遠慮するのも逆に悪いだろう。口の中に肉汁が広がる、豚と牛の混合ひき肉だな、適度な塩気とケチャップとソースのハーモニーがタマラン。やっぱハンバーグは混合が良いよね。食べながら、涙が溢れてくる。
「飯田さん、何泣いてるんですか、そんなの見たら私まで泣いちゃうじゃないですか」
そういいながら、塩ちゃんが泣いて、塩ちゃんママも泣いてる。何で泣いているのか分からない。でも涙が止まらない。泣きながら食べた夕飯は少ししょっぱかった。
塩ちゃんの部屋に私の布団を敷こうとしたので、慌てて止めて客間にしてもらった。ママさんちょっと勘違いし過ぎです。
「あらあら、まあまあ。てっきりね、そうなのかと思って」
「違いますよ。そんな関係ではありませんから」
「え? 詩織の事は肉体だけの遊びの関係だったって事!」
「違います!」
「じゃあやっぱり、彼氏になったんですよねー」
しばらく、おとぼけな会話にツッコミを入れながら、誤解を解いていった。本当にこんな人いるんだなびっくりだね。お休みなさい。
翌日の朝食後に、今後の事について相談する事にした。
「いつかは水が出なくなる可能性があります。水を手に入れるために、水がある場所に移動した方が良いと思っています。
それと食事だって有限です。家にあるものが尽きたら他の家や店から拝借したとしても、限度があるでしょう。本気でこの世の中を生きていくなら食べ物を育てないとなりません」
「まだ水がある間は、家に居ても良いんじゃないの? 飯田さん」
「確かにその案もあります。でも、水が無くなってから全員が避難を始めた場合、水のある場所を占領されていたら、あとから来た人は受け入れて貰えなくなる可能性があります。そうなる前に移動した方が良いかなと思っています。
それに大勢が移動を始めたら、途中での物資調達も厳しいかなと」
「うーん確かにそうかも。お母さん、どうする?」
「詩織、詩織が良いと思う道を進みなさい。飯田さん詩織の事をお願いします。私はこの家に残ります」
「お母さん!」
「お父さんは多分、もう死んでしまったと思うけど、万が一帰って来た時に、誰も居なかったら可哀そうでしょ。それに詩織にも会えたし、もう思い残すことは無いわ。
どうせ死ぬなら、思い出の詰まったこの場所で死にたいの」
「何バカなこと言っているのお母さん!……」
塩ちゃんによるお母さんの説得が続いているが、お母さんは頑として意見を変えない。
「すみません、ちょっと良いですか? 私は詩織さんと一緒に行動するつもりはありません」
「「ええーー!!??」」
「正直、足手まといです。無事に家まで送り届けましたので、義理は果たせたと思います。なので、私一人で行きます。後は二人で好きなように判断して下さい」
塩ちゃんが泣き出してしまった。泣いている塩ちゃんを胸に抱きしめながらママさんが
「そんな、飯田さん……。詩織の事をお願いします。詩織の事をお願い出来る人は飯田さんしか居ないんです」
「いえ、知った事ではありません。あなたが親なのですから親としての責任を果たしてください」
しばらく、塩ちゃんの泣き声だけが聞こえるなか、ママさんが切り出して来た。
「なるほど、そういう事ですか。私が生きるのを諦めたから、そんな事を言うのですね。詩織のためにしっかりと生きろと」
塩ちゃんがママさんの顔を見てから、私の顔を見る。
「っそっそうだったの?」
「違いますよ」
違わないが、セリフを考えていなかったので、あとが続かない。あまり嘘をつき通したことが無く、アドリブが出来ない。
「分かりました。私も一緒に行動します。ごめんね詩織」
「母さん!!」
抱き合いながら、泣いていると、ピンポーン。ピンポーン、ピンポピンポピンポピンポーン。インターホンがけたたましく鳴る。
「おい! 誰かいるか、居ないなら押し入るぞ!!」
「構わねーよ、入っちまおうぜ!」
数人の男の声が聞こえる。これはヤバい。
「塩ちゃん、ママさん、どこかに二人が隠れられる場所はありますか?」
二人とも右往左往するだけで、いい場所が無いらしい。銃を手にして、玄関に通じる廊下にでて伏せる。
「居ないのか、居ないなら入るぞ!!」
「居るぞ! だから押し入らないでくれ!」
居留守を決めるわけにも行かないだろう、声を張り上げて叫ぶ。
「休憩をしたいんだ、家に入れてくれないか?」
「駄目だ断る! 他に空き家なら幾らでもあるんじゃないのか? そっちに行ってくれ」
「てめーふざけんなよ! 殺されてーのか! 開けないと家を燃やすぞコラ!」
「おう、押し入るぞ」
複数人の男が脅してくるが、開けたら最後だと思う。
「物資が必要なら渡す。だから家には入らないでくれ!」
「うるせーよ! いいから開けろコラア!」
ドアをドンドンと鈍器のようなもので殴りつけているが、鉄製のドアなので多分大丈夫だろう。しばらくすると、リビング側や客間のシャッターに対してバンバンバンバンと激しくたたきつける音が響いてきた。
「火つけるぞ、コラー! いいから開けろコラー!」
どうする。銃で戦うか? 勝てるのか? 相手を全員殺すのか? 直ぐに全員殺せなかったから、家に火をつけられて焼死? 出て行ったら待ち伏せされて殺される? それとも受け入たら見逃してもらえるのか? いやそんな感じもしない。でも塩ちゃん、ママさんの安全を考えるとどうしたら。
「飯田さん。開けましょう。責任は私が持つわ。私の家なんですから」
「母さん!」
直ぐにお母さんがリビングの窓を開けようとしたので、咄嗟に銃をソファーの下に隠す。代わりにフライパンを手に持った。
シャッターを開けると三人の男が入って来た。
「ナンダヨ。最初から直ぐに開ければいいじゃん」
多分三人のリーダーと思われる男が、ブーツのまま部屋に入ってきて、一人用のソファーに座った。他の二人はリーダの後ろに立ち、リーダーは拳銃と手榴弾付きベスト、一人は斧、一人はボウガンを持っている。
「なんだよ、女が二人もいるじゃねーか、こりゃついてるな」
「おれそっちの若い方が良いわ。先に譲ってくれよ」
「おいおい、そんなにがっつくなって。まだ交渉もしていないだろ。何だお前、フライパンで戦うのかよ。ぷっ。こっちの武器を見ろよ勝てるわけないだろ」
リーダーのセリフに、直ぐにフライパンをコンロの上に戻した。
「わかりゃいいんだよ。わかりゃーさ。で、俺たちは隠れる場所を探していたわけよ。ここに置いてくれないかい? なんだ電気も付いてんじゃん。これなら快適に過ごせそうだよな。なあおい」
取り巻きの二人も、そうだそうだと囃し立てる。
「では、私たちが出て行きますので、ここは好きに使って下さい」
「おお物わかりのいいお母さんで良かったわ。でも残念、そこの男は出て行っても良いが、お前ら二人はだめだよ。おれらの世話をしてもらわないとな」
「そうそう、身の回りだけじゃなくて、下回りもなあー」
「おい嬢ちゃん、別の部屋に行っていい事しようぜ」
このゲス野郎どもが。塩ちゃんの方に向かう男の前に、ママさんが立ちはだかる。
「ちょっと待ってください。娘に手は出さないで下さい。私が三人の相手をしますから」
「なんだよ、このおばさん好きもんだな、げへっへっへ。三人も一度に相手をするのかよ、お前の母ちゃんスゲーなおい」
ゲスなセリフを吐く男に、塩ちゃんが睨む。
「それじゃあ、相手をしてもらうかな。田中、お前二人が変なことしないように見張ってろ」
リーダーと斧を持った男が客間に向かう。
「詩織ごめんなさいね」
「母さん!!」
飛び出そうとする塩ちゃんの手を取って止める。塩ちゃんが凄い形相でこちらを睨むが、顔を横に振って断る。お母さんが私の顔見て頷き、隣の部屋に移動する。
「おいおい、なんだなんだ、いやに積極的じゃねーか、そんなにがっつくなって、あの男じゃ満足できなかったのか、くっくっくっく……、ばか、離せ、離せって」
「おい? どうしたんだ。おいババア、ちょっと離れろよ」
ドカーン、ドカーン、ドカーンと、鈍いようなそれでいて激しい音が響き、部屋のドアや細かい破片が幾つも飛び散る。見張りの男は扉の破片が直撃して、横に倒れている。
咄嗟に銃を手にし、倒れている男に撃ち込む。そのまま隣の部屋に入ると、斧を手にした男が壁にもたれながら痙攣しているので後ろから撃ち込む。リーダーの胸と顔が大きく抉れており、ママさんの上半身も物凄く欠損している。
フラフラとしながら塩ちゃんが部屋に入ってきて、ママさんを見て悲鳴をあげる。
「いやあああーーー」
ぐちゃぐちゃになったママさんを抱きしめながら泣きわめいている。どうする事も出来ない、どうして良いかよくわからない。居たたまれず、リビングに戻りソファーに座る。
しばらくすると塩ちゃんが泣きながら歩いてきたので、立ち上がり恐る恐る両手を広げると、塩ちゃんが胸に倒れこんでくる。そっと背中に手を回して、ポンポンと叩いてあげると、再度大きな声で泣き始めた。
「おかああさああーん」
どうして良いか本当に困るが、抱きとめてあげる以外の方法が思いつかない。そして泣き止んだところで、話を切り出す。
「ここを出よう。お母さんには悪いけど、埋めている余裕もないし、庭で焼こう」
ママさんを焼いてから、塩ちゃん家の車に必要な物資を積んでいると、激しく地面が揺れだした。そしてしばらくすると爆発音のような音と、天高く火柱が上がっている様子が見える。
「え? あれってもしかして」
「ああ、富士山が噴火したな」




