帰宅
ドアを開けて周囲を見渡す、動く影は無し、鍵は閉めずに出る。もしかしたら誰か入るかも知れないし、もう帰ってくることは無いだろう多分。注意を払いながら1階まで降りる。
原チャリに荷物を積んで座ると後ろから塩ちゃんが抱き着いてくる。ちなみに、私の背中と塩ちゃんの正面には、あれは塗ってません。危険なのでしっかりと抱き着いてもらうと胸の感触が伝わる。煩悩を発動している状況ではないので、
「じゃいくよ」
「はい。お願いします」
塩ちゃんの返事を聞いてゆっくりと走り出す。環状一号を走るが、直ぐに反則センターの交差点を右折し、緩やかな坂を上っていく。車がところどころ左右に止まっているが、今のところトラック1台は余裕で通れるほどの幅はある。
視界が遮られている場所が多いため、どこからザンビが出てくるか分からず不安になる。ちょっと進むと坂の勾配がさらに上がって、原チャリのスピードが落ちる。2人乗りだし遅くなるのは仕方がないが、これだと全速力で追って来られると辛いかも知れない。
しばらく進むと学校が見えた。一部が真っ黒に焼けており、何があったのかな? こういう場所は避難場所として設定されているだろうけど、この状況じゃ誰もいなさそうだ。学校の角を左折する。今度は下りだからスロットルは緩めに、速度が出来過ぎないようにブレーキをしながら自然な形で降りていく。ザンビもいない、みんなどこに居るんだろう。店や家の中にはガラスが割れているところも多く、略奪されたようにも見える。
周囲を良く見渡すと、いくつかの家の中には人が居るのが見える。カーテンの隙間から覗いていたり、普通に布団を干していたり、人が居ることがなぜか嬉しい。更によく見ると車の中でザンビが居たりする、迂闊に車に入れないな。
しかし、走っている車が無いってのは凄く奇妙だな。いつもなら車が沢山走っているのに、狩場の出口からも車は出てこない。目の前のパチンコ屋の立体駐車場は満車のようだ。問題が出たのって平日の昼間だったよな? こんなに遊んでいる人がいるのか全く。
そのまま更に進むと緩やかな上り坂だ、スピードが若干落ちる。ガソリンスタンドが見えたが、ガソリンはまだ入っているので今回はパスだな。
しばらく進み、権太坂と言われる場所になった。何でこんな名前なのかは知らないけど。スーパーが見えたが今回は無視。反対側にそば屋が見えるがやっぱり駐車場が満杯だ、人気店だったのか? しばらく進み、違和感があって原チャリを止めた。
「どうしたの? 何かあった?」
塩ちゃんが問いかけてきたので、曲がりながら少し進んで正面が見れるようにした。
「いや、なんかあそこだけ車が集中しているなって。通れないことも無いけど死角が多いしちょっと怖いなって」
こちら側一車線、反対側二車線の三車線の道路なんだけど、今までは二車線分くらいの間は開いていたのに、その先だけ車が複数台止まっていて、一台分くらいの隙間しかない。こんなに車が連続で停車していることも無かった。
「確かに変だね。そういえば、バイクや原チャリ、死体も多いですね」
おかしい。ここは別の道を選んだ方が良さそうだ。Uターンをしようと思ったら、車列の先からザンビと思われるものが出てきて、こちらを発見して走り出して来た。
「ぐあー、があー、あああーあ””---」
ザンビが途中で止まって暴れている。顔や体のあちこちから血が出ている。見えない壁でもある感じでこちらに近寄って来れない。見学するのも危険なのでUターンして権太坂上の丁字路の交差点まで戻り、左折する。緩い上り坂を上っていくと、小さな交差点を過ぎたあたりで、声が聞こえた。
「とまれー!!」
若い男の声だったが、直ぐに
「とまっちゃダメー」
塩ちゃんが叫ぶので、アクセルを最大にして遠ざかる。
「銃を持ってた。逃げて!」
塩ちゃんには相手が見えていたらしい、そのまま遠ざかる。
声が聞こえたところから二百m位進んだところで道路に縄のようなものが結んであったので直前で止まる。小さな十字路で正面に縄高さは地上から二十cm位か、右折すると縄以外にも障害物が多数。左折側に何にもないが……。
「塩ちゃん降りて、ハンドル反対側もって、持ち上げるよ、せーの!」
縄を片足で踏みながら、原チャを持ち上げて前輪を超えさせる。
「こっちのハンドルも持ってそのまま前に、後ろ持ち上げるよ」
原チャリが縄を超えたので、再度ハンドルを握って、急いで座って、塩ちゃんがしがみつく。再度スロットを強く握り走り出す。
どうやら逃げ切れたようだな。しばらく進むと青い看板、環二に出たようだ。左折して幅のひろ片側三車線の道路を進む。再度青い看板が、国道一号、平戸一.五kmと書いてある。
「このまま行けば、また国道一号に出られるよ」
道なりに走りながら周囲を軽く見渡す。SOSと書いた布をマンションのベランダに掛けているところもあるし、一棟丸焦げになったマンションもある。わかるのは救いなど無さそうって事かな、あえて口には出さないけど、人を助ける余裕なんて無さそうだ。
平戸の立体交差点に着いた、コーラの倉庫っぽい建物が見えたので思わず飲みたくなる。右折すると第二パンの工場が見えた。パン食いてー、でもある訳ないだろうし無視して進む。道が狭い、片側一車線になっている。
特に障害も無くどんどんと進む。今度はザキヤマパンの工場だ、パン食べたいー。ぐうー。塩ちゃんも同じ気持ちのようだな、聞こえないふりをしておく。他にも、牛丼屋、そば屋、回転寿司屋などの前を通り過ぎる、もう一生食べれない気がして落ち込む。
歩いてる人を見かけたが、こっちに気が付くと急いで逃げて行った。やっぱ人は怖いってことなんだろうな。ザンビも見かけるが遠いので全然問題なかった。
橋を超えると、下には東海道線と思われる線路があるが電車は走っていない、あるのは沢山の死体くらいだ。その後バイパスのような整備された道路に変わった。中央分離帯がコンクリートになっているので、反対側には行けなさそうだな。
吹上の交差点を過ぎたのでもうすぐ原宿だ。右折するので真ん中の道路から左側の車線に入る。真ん中の道路は直進用の地下道に進む事になるので、まっすぐ進むとしても入りたくない。車で移動する横浜市民なら交通情報で聞いたことがある有名な交差点、原宿を右折する。
深谷の交差点を左折したところで、
「飯田さん、もうすぐです。凄く近くまで来ました!!」
確かに大分近づいたが、家に帰るまでが遠足ですよ。より一層気を付けて運転する。
「次の交差点を左です。えーと、そのつぎは、つぎ、そこです。そこを右折で」
家が近づいてきたので、塩ちゃんが道を案内し始める。前があまり見えなくても横の景色だけでも分かるもんなのか。
「ここです!」
家の前に付き、原チャリを止める。直ぐに家に向かって塩ちゃんが走り出す。私は荷物を取り出してから歩き出す。塩ちゃんは玄関を開けて声をあげている。
「にゃあー」
ん? 茂みがガサガサと揺れている。お、猫ちゃんかな? 再度揺れたと思ったら、茂みから一瞬で来た。
やばい、体の骨が全部溶け出してしまうような感覚に襲われる。はやくこの場所から移動しないと、開けっ放しの玄関には、塩ちゃんとお母さんと思われる人が抱き合っているのが見える、玄関に向かって歩き出す、可愛い猫は放置して。はぁ猫ちゃん、猫ちゃん……。
------
信じられない! 家に帰って来れた。原チャが完全に止まる前に飛び降りて玄関に向かって走り出す。鍵を探す、服のポケット叩きまくる。いっぱい服を着すぎてどこに入れていたのか、慌てて思い出せない。各種ポケットを上下三往復位したところで、カギっぽい感触を発見。
急いで玄関の扉を開けて大声を出す。
「おかあさーーん! おかあさーーん、どこーー」
靴を脱いで廊下を数歩進んだところで、
「詩織? 詩織なの?」
直ぐにお母さんが出てきて、互いに抱きしめる。
「おかえりなさい」
「ただいま母さん」
嬉しくて涙が止まらない。本当に帰ってこれたんだ。
------
開きっぱなしの玄関に入って扉の鍵を閉める。感慨に浸っているところ勝手に入って悪いけどゾンビが来たらまずいからね。二人とも泣きじゃくって激しく抱き合っている。なかなか終わりそうもないな、でもお母さん、非常に言いにくいんですけど……
私のうんこまみれですよ。
20km進むってだけでも、大分辛そうだな。
地名だけを色々書かれても、保土ヶ谷とか戸塚とか、その辺の人じゃないとピンと来ないよね。
私も住んでないのでピンときません(´・ω・`)
でも周囲の話を書いても、あんまり意味ないしね。
大体国道一号って名前なのに、複数の道路が存在するって何なのって思うわ。一本じゃないんです。
新道や旧道なんだろうけど分かりにくいね。
ちなみに反則センターって、交通違反の罰金を納付しにいく場所のようです。
飯田さんのマンションの設定がその辺なので、ナビで道順をみるとそこを曲がることになるんです。




