ゾンビが居る中で物資調達
三年後
2033年7月26日(火)
「課長、行かせて下さい。お願いします」
『日笠さん。もう少し考える時間を下さい。もうちょっと待ってください』
「昨日もそう言いましたよね? 時間を掛けることで考えが変わるのでしょうか? お願いします、行かせてください」
日笠君の気持ちは分からないでもない、でも一線を超えてしまう気がする。
「最低でも500人はゾンビが居るそうです、そういう環境の中で気が付けるものがあるはずです。絶対、何かを得て帰ってきます!」
『しかしですね』
「こうしている間にも猶予がどんどん無くなっています。3人で行きましょう」
『前にもお伝えしましたが、必要なものにのみ予算を使うと決めているのです。今回の件は必要性が少し薄いと思います』
日笠君は、大阪の商業施設でのゾンビイベントを視察したいと申し出てきた。確かに面白そうだ、自分の金で行けばいいと思う。3人で視察をして、慰安旅行も兼ねようと言っているのだ。
「課長、既に私たちは予算に手を着けてしまっているではないですか、多少額が増えたところで変わらないのでは? それによっていい案が浮かべば問題無いですよね?」
『やっぱり、うーん……』
「だいたい、課長の腹の中にも、大分予算が入っているんじゃないですか?」
『なっなっなっなっなっにを馬鹿な。そっそっそっそんな事はないぞ、うんない、ないない』
「毎回ドライブに行った先の周辺のお店でスイーツを買っているじゃないですか? この辺の肉は予算で作られた税肉じゃないでしょうか」
私の腹の肉をつまみつつ、煽ってくる。こっこいつ、もっと言ってくれ。じゃない。
『これは日当の中から使っているものなので、正当な権利の贅肉です』
当初は予算は大事に使うという事で必要最低限しか使って来なかった。しかし、こんな地下三階の執務室にずっと居たら気が変になってくる。毎週金曜日にゴミ捨てに行ってる二人はまだ良いけど、私はずっとこの中にいるんですよ。
それがゾンビトラップの設置場所を探すという名目で、2週に1回は視察をするようになった。それが凄く楽しい。いやだって、ただドライブするだけですから。もちろん場所は探しているけど、地下三階で仕事しているより全然良い。
交通費と日当、駐車場代なども全て予算を利用している。大体1回あたり2,3万円掛かっており、これが月になると5、6万位になる。
大阪の3人分の交通費、宿泊代、商業施設のフリーパス代などを考えると、どうしても尻込みをしてしまう。予約する宿が埋まっていくので早く決断してくれとの事だけれども……。
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「いやー楽しかったですね。また来年も行きたいですね」
「はっはい、凄く良かったです。あれだけ多くのゾンビに囲まれると、やっぱ迫力が違いますよね」
結局誘惑に負けて予算を使ってしまった。でも非常に有意義だったのは間違いない。本当ですよ?
『さて、あとで報告書を出してくださいね。大体の対策はそれぞれ話が進んでいるので、他に何か対策としてすべき事がありますか?』
「そういえば、ゾンビものって大体政府も滅んでいて、あちこちにゾンビが溢れかえっていて、食べ物を探したり、安全な拠点を探すのが目的になっている事が多いですよね。その辺の対策も行う必要性は無いでしょうか?」
きたきたきたきたきた、ずっと思ってたけど、自分では切り出せなかったその一言が。
『そうですね。仮想シナリオをもう少し続けていれば気が付けたかも知れませんね。だけど残念ですが、もう終わっちゃったので』
やっとだ、ちょっとだけ嫌味を入れておかないとね。どうしても書いてって言うんだったら、書いてあげても良いんだけどね。
「そうですね。仮想シナリオは終わっているので、ささっと想定される対策を考えますか? あれ、どうしたんですか課長、仮想シナリオを考えたいのですか? もし始めたいなら、そう言ってくれないと分かりませんよ」
くっ……、そう来たか。ハッ、「くっ……」ってやっぱりあり得るんだな、でも私は声に出しませんけど。しかし煽ってくるところが良いね、ナイスだ。
『こういうのはイメージが大事なんですよ、それに仮想シナリオを考えることで、普通では気が付かない点に思考が及んだりしますので、仮想シナリオで行きましょう。
前回までの仮想シナリオだと治安が回復出来てしまっているので、日本全体にゾンビが拡散しているような状況、封じ込めが失敗した状況でのシナリオにしましょう』
残念ながら、追加の煽りは無かったので書き始める。
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2週間が経過し、テレビの放送が1チャンネルだけになった。銃の発砲音が頻繁に聞こえる。封じ込めが失敗し、日本全国でザンビが発生している。
3週間が経過し、テレビの放送が終わり、ラジオだけになった。あれだけ騒がしかった銃の音が殆ど聞こえなくなった。
4週間が経過し、昨日電気が止まった。そして今日、水もガスも止まった。このままでは、水が無くなって死ぬだけだ。食料があっても調理が出来ないので、加工しないで食べられる食料だけだとあと2日間位だな。
「塩ちゃん、このままだと水と食料が無くなって、いずれ飢え死にです。水と食料を調達しないと。それと今後どうしますか?」
家に入れてあげた女子高生の佐藤さんに、今後の方針を確認する。ちなみに佐藤さんのあだ名が塩ちゃんだったので、そう呼ぶ事にした。
「飯田さん、どうするってのは具体的にはどういう事ですか?」
「物資を調達するのは生きるための必須条件ですが、ここを拠点にして物資を調達をしながら、この場所に居続けるのか、それともお母さんのいる家を目指して移動してそこを拠点に活動するのか、全く別の場所で生活しやすい場所を探すのか、くらいかな?」
一生懸命考えている、口に出すのを躊躇っているのだろうか、なかなか出てこない。家まで行きたいってのはおこがましいとでも考えているのかも知れないね。
「いずれにしても食料と水が無いことには、どうにもならないので、まずは調達しに行こう。塩ちゃんにも手伝ってもらいますよ」
可哀そうかも知れないが、こんな時だし、女性だから子供だからといって、何にもしないって訳にはいかない。
「はい。それは大丈夫です。でもどこまで調達に行きます? スーパーですか? それともコンビニ?」
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窓を開けると、一気に異臭が漂う。部屋の中は芳香剤でごまかしているが、外は凄く臭い。何の臭いだろうな、例えるなら家畜を飼っている小屋のような臭いだろうか。
ベランダに出て周囲を見渡す。道路にザンビらしきものが歩いている、死体まで近づいたものの、でも死体を食べようとしていない、どうしてだろう、お腹が一杯なんだろうか? それともグルメなんだろうか?
引き続き周囲を見渡すが、多少遠くで煙が数か所あがってくるらいか。あ、あの家の屋根には物資らしき包みとパラシュートがある。何かは分からないけど、あれが手に入ったら良いかも知れない。屋根に上るには……、塀から登れそうだな。
でも、他の人だって気が付きそうだけど取ってないってことは、既に空? あの家に近づこうとしたら逆に殺される? 分からん。でも必要な物が入っているかも知れないし、候補には入れておこう。
「塩ちゃん、じゃあいくよ」
頷くのを見て、隣の家との間にある仕切り板を蹴っ飛ばす。簡単に下半分が壊れた。そのまましゃがんで隣の家のベランダに入る。
カーテンはしてあるが、カギがある場所に何の張り紙もしていない、念のためもう一方の窓兼出入り口の方を確認するが、こちらも張り紙をしていない。窓をドンドンと叩き、
「誰かいますか? いなければ押し入りますよ」
中に向けて話しかけるが、応答が無い。なので持っていたドライバーでカギのあたりのガラスを叩き割る、叩き割る、叩き割る、叩き割れない……。
「あっあの? 大丈夫ですか飯田さん?」
「防犯用のガラスになっているみたいで簡単に割れません。もうちょっと待ってください」
何とか時間を掛けて割り、窓を開けて中を見る。人が住んでいる部屋だけど、立て籠って生活していた感じはしない。塩ちゃんはベランダに待機して、見張りを継続してもらう。挟み撃ちとかは避けたいからね。
土足のまま部屋に入る。家主がいたら怒るだろうが、逃げることを考えると靴は必須だし、ビニール袋を被せたら滑って逃げにくいかも知れないし、ビニール袋だって今なら重要な資源だ。トイレの水が流せないので、自宅のベランダには汚物をいれた袋が並んでいる。塩ちゃんには悪いけど水無いんだから仕方がない。
この部屋はリビングとして使っているようだ。あまりいいものが無そう。キッチンに繋がる扉をそっと開ける。その先には誰もいない。もう一つの部屋も開けるが誰もいない。今度は洗面台とトイレ兼風呂場も確認するが誰もいない。ふううーー。
この家の方は外出中で、戻ってきていないようだ。悪いけど家探しをさせてもらう。冷蔵庫を開けると発泡酒が3本程あるだけで、あとは調味料位しかない。とりあえず飲めるしカバンに入れる。台所の下の収納を見るが、碌なものが無い。
別の収納棚を見ると、封の空いたスパゲッティとそうめんがビニール袋で包んであったので、それもいただく。他には缶詰が数個とおつまみが数個あったので、それらも。
寝室と思われる部屋の衣装タンスを開けると、スーツやワイシャツがある。高級そうな時計があったのと、五百円貯金箱があったので、それもいただいておく。引き出しタイプのタンスを開けると着替えやタオルがあったので、数枚をカバンに入れた。
よさげなリュックがあったので、中を見ると乾パンや氷砂糖、ライター、マッチ、蝋燭、手回しラジオ兼充電器兼懐中電灯、防災用毛布が入っていたので、当然いただく。テニスのラケットがあったので、それもいただく。もうめぼしいものが無いので、一旦ベランダに戻る。
「どうでした、佐藤さん」
「結構いいものがあったけど、まだ水や食料が足らないね、一旦部屋に置いてから、更に隣の部屋にも行こう」
荷物を置いた後、更に隣の隣の家に同様の手順で押し入る。ちなみにここにも張り紙がなかった。中に入るとこちらも籠城していた形跡がない。でもちょっと汚い。女性の部屋っぽいけど残念な感じだな。
キッチンに繋がる扉をそっと開けると異臭が漂った。くっくさい。緊張しながら、注意深く見渡すが、人が居る気配はない。流しを見ると、食器が多数放り込まれており、そこから異臭がする。三角コーナーがとんでもない状態になっている。ゲロ吐きそう。
油断した瞬間、振り返ると黒い影が、そんな、まさか
「うああああーーーー」
「大丈夫ですか飯田さん!」
塩ちゃんが台所に走って入って来た。私はそこで体を素早くねじりながら、両手で素早く体を叩きながら黒い悪魔を追い払った、黒い悪魔は玄関の方に飛び去った。
「ただのゴキブリじゃないですか! 紛らわしいことしないでください!」
「いやでもね、飛んで来たんですよ。とっさに顔は防げたけど、胸元にね来たんですよ! 誰だってそうなるでしょ」
呆れる塩ちゃんはベランダに戻って、見張りを継続している。台所にあったゴキブリ用スプレーを片手に持ち大量にまき散らしながら、部屋をあさる。
2リットルの水のペットボトルが6本、それと缶詰や封の空いた小麦粉、お米、未開封のケチャップ、マヨネーズなどの調味料が多数。お菓子も結構あった、いいね。寝室と思われる方をみると、タンスの中には女性ものの下着や服が多数あった。
「塩ちゃん、他人の服だけど寝室側に多数あったから、欲しかったら何個か貰っとくと良いよ。この先に手に入るとは限らないし」
ベランダに戻って塩ちゃんに話しかける。下着や着替えなども幾らか貰ってきたようだ。この家からは結構な量を確保出来たので、一旦部屋に戻る。
セリフの中で名前間違えてたー 飯田さんと書くところが佐藤さんになってた。なおしたー。
7/8 三年後の日付間違えてたー。2031年じゃなくて2033年だったー。
あー、こうやって堕落していくのかも知れないね。
それと仲良くなったようで、でも少し節度を忘れてますね。
課長がそれで喜んでいるんだから、まあ別に良いけれども。
ちなみに、人によって、善悪の判断は違います。
例えば横断歩道を渡らずに、道を渡っても良いと思っている人、
会社で同好会の支援費用や、部内のミーティング費用が出ているけど、結果的に飲み会に使われたとしてもそれを構わないと思ったり、
自分には直接関係ないけど、興味がある技術発表会に仕事として行くのは自己啓発だから良いとか、
他の人から見ればNGなものがあるかもしれないけど、本人たちから見たら、許される範囲と考えたりします。
水谷課長の中では、本当なら地上の執務室を利用したら、毎月の予算が数十万余計にかかるところを、地下三階で仕事をすることで、その予算を抑えることが出来ているんだから、
月6万円無駄に使ったって、トータルの予算で考えれば、まだまだ十分節約しているじゃん。
って考えたりしています。
でも納得できない人には納得されないだろうなあ。




