帰宅と復活の兆し
ゾンビなんて空想上の話だと思ってた。万が一そんなのが発生したとしても、自分には関係ないって思ってた。今朝の東京駅の暴動だって十分おかしな話だったけど、まさかゾンビだなんて。
考えが甘かった? いや、そんな訳が無い。ゾンビが出るかも知れないって、毎日警戒している人がいたら、そっちの方がおかしいはずだ。でも、結果的にゾンビが出たんだから、おかしいのは私なのかもしれない。
電車は新子安まで進んだのでそこで降りた。学校は鶴見だけど、東京に近づくのは自殺行為に思えた。なので家に向かって歩いている。いや、歩いていた。疲れたので自販機でジュースを買ってちょっと休憩中。
「よし」
声に出して立って歩き出す。他の人たちも走ったり、歩いたり、家に入ろうとしたり、車をヒッチハイクしようとしたり様々だ。家まで帰れるとは思えないけど、でも止まる訳にもいかない。歩こう。
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意外と歩けるものだな。人混みが多いところは危険、東京から電車が直通で通っているところは危険。なので、横浜駅には近づかない。休憩しながら歩いたら、2時間ほどで三ツ沢まで来れた。
いまのところゾンビ、じゃないザンビらしきものは見ていない。コンビニは既に閉まっているので、コンビニって閉まるんだね初めて見た。また自販機でスポーツドリンクを買う。スイカをかざして、ボタンを押して、再度スイカをかざす。ガタガタガタン。
もう少し休憩したらまた歩こう。ラインで今の状況を書き込む。皆も不安なんだろう、どんどん書き込みが増えて、過去のトーク履歴が見づらい。これだと誰が無事で、どこにいるのか全然分からない。でも繋がっている感があって安心できるんだけどね。
「あなた大丈夫?」
自販機のそばで座っていた私に声をかけてくれた、おばさん、お姉さんではないな。おばさんは緑茶を買ってた。
「はい。大丈夫です」
思わず顔に笑顔がこぼれる。こんな状況なのに、気を使って声を掛けてくれるだけ嬉しい。
「ちなみに、おうちはどこなの?」
「きゃーーー」
おばさんと一緒に声がした方に顔を向けると、女性が走って逃げている。それを追いかけるオッサンザンビ。
「こっちよ、ホラ早く」
おばさんが手を引っ張って、車の中に入れてくれた。女性を追っかけていたザンビはすッ転んだので、走って逃げ来た女性のために、おばさんが車のドアを素早く開ける。
女性が入り込んだらすぐにドアのカギを閉める。ザンビが車の窓を叩くが叩いたくらいでは何ともなさそうだ。ふうーー。
あのままあの場所に居たらとても走って逃げれなかった。おばさんは私の命の恩人だ。
「「ありがとうございます」」
私と車に逃げ込んだ女性がお礼をおばさんに言う。
「なに言ってんだい。困ったときはお互い様っていうじゃないか」
困ったときに他人に手を差し伸べられるほど、私は人間が出来ていないかもしれない。
「とこで、二人とも家はどこなの? 私は左近山でこれから帰るところなんだけど」
「わっ私、西原団地です」
おばさん、家近い、近くも無いけど多分通り道のはず。
「私は、磯子です」
逃げきてきた女性は、方向が全然違う。
「じゃあ、家の近くまで送ってくよ。あなたは家に来るかい? 汚いところだけどそれで良ければ」
「「ありがとうございます」」
車をバンバン横から叩くザンビ、気にせず車を出す。道路は混んでいるけど、全く進まない訳じゃない。これなら家に帰れるかも。
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突然車の前にザンビが飛び出して来た。車がピタッと止まる。おばさんがアクセルを踏むけど、車は全然進んでない。
「あああーんもう。自動ブレーキなんて今は要らないのに、まったくもう!」
どうやら自動ブレーキで車がザンビに邪魔されて前に進まないらしい。天井のボタンを押して、ピピっと鳴った。
「おりゃー」
ザンビを無視して車が発進した。多少ザンビにコツン、いやボコん、位のダメージを与えたが、車は前に進んだ。
「ふう。ごめんなさいね。まったくもう。でも念のため自動ブレーキは再度オンにしておくわね」
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「ありがとうございました」
「良いっていいって、早く家に入りな、危険だから家から出るんじゃないよ」
おばさんは車を出していった。私も家に入る。
「ただいまー、おかーあーーーさーーん!」
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「これより、官房長官からの記者会見が行われますので、中継に切り替えます」
いつものアナウンサーが、いつものように伝えている、なんか安心するなー。
画面が切り替わり、官房長官が室内に入ってくると、多数のフラッシュがたかれる。
「あれから1週間が経過しましたが、ザンビの脅威は大分下がっておりますので、昼間の戒厳令を解除致します。夜間の戒厳令は継続しますので、18時には屋内に戻るようお願い致します。
それに合わせて、明日から公共交通機関の運転を再開致します。しばらくは臨時ダイヤとなりますので、そのあたりを理解した上で活動してください。
一都三県への出入り禁止は継続します。なので県を超える手前の駅での折り返し運転となります。詳しくは私鉄各線の案内を参考にして下さい。
物資の搬入は、引き続き県境の集積所を経由した方法を維持します。出入りする車は固定し、県を超える箇所では消毒を必須としています。指示に従ってください。
海外への出国、また入国についても、引き続き禁止しております。勝手に海外に向かった場合、引き続き警告なしに攻撃される可能性があります。絶対に海外には出ないで下さい」
しかし、何とかなるとは正直思ってなかった。ゾンビものって最後は国が崩壊するものだと思ってた。でもこんな予想外なら大歓迎だな。会見は引き続き行わており、質疑応答に移っている。
「毎朝新聞です。全面的な戒厳令の解除はいつになる予定ですか? また解除するための条件があれば教えてください」
「まだ解除の具体的な日程は明確に答えられませんが、あと3週間程度と考えております。解除条件はザンビの討伐数で、討伐数が3日間連続で0人だった場合です」
「スマイル動画です。死んだザンビが蘇る事象があると報告が出ていますが、具体的なことはわかっているのでしょうか?」
周囲にざわめきが走る。それってザンビじゃなくてゾンビってことだよな。
「はい。ザンビが死んだのに、あるいは死ぬほどダメージを受けたのに、引き続き襲い続けてくるケースがある事を認識しています。
その事象が確認されたのは、昨日からなのですが、原因はまだわかっていません。ですので、ザンビには決して近づかないで下さい」
「そんな危険な状況なのに、戒厳令を解除するのですか?」
「はい。ザンビの数は大分減っています。屋外のザンビはかなりの数を排除出来たと考えております。まだ室内にいるザンビが居るかも知れませんが、室内から出てこない限り安全でしょう。
食料の配給が無いと困る人たちが出てくるかも知れません。多少の危険は仕方がないと考えております」
「読読新聞です。今回のウイルスに対する、今後の政府の方針について教えてください。例えば感染拡大が再発した場合の対応です。戒厳令解除後に、また拡大する可能性があるんじゃないんですか?」
「はい。現在感染者への治療薬を治験中です。非人道的ではありますが、現在感染している人を発見した場合、無力化したうえで拘束し、治療薬を投与し、回復するか確認をしています。
今のところ、108名に対して治療薬を打ち、82名が自我を取り戻して生活しております。残り26名については経過観察中です。
確保しているザンビ患者の数は現在千人を超えており、そちらの方にも順次投与を行う予定です。結果は改めてご報告します」
話している最中にざわめきが起こる。フラッシュが一斉にたかれる。俺も思わず「うそだろ」と声に出してテレビを見ている。
「すみません。治療薬が開発されたという事ですか!? そんなに早く治療薬が開発されるものなのでしょうか?」
「はい。治療薬は既に存在しています。治療薬は群馬県に製薬工場がある、ネスプグランエス社で少量生産を開始しており、現在大量生産に向けてラインの改変を急いでおります。
また、国内会社の製薬会社にも協力を仰いでいる最中です。協力していただける企業には、今後3年間本治療薬のライセンス料は請求しない予定です。その代り早く安く大量に生産していただきたい。詳細は各企業と詰めていきます。
また、感染予防のワクチンについても現在準備中です。最前線で頑張っている自衛隊や警察官、看護師の中で、志願した方を中心に既に接種を開始しております。
効果が認められましたら、月間百万本のワクチンを生産します。生産拠点は新型パンデミックのワクチン生産工場の一つである、やはり群馬県の工場を転用する予定です。既にラインの改変を始めております。早ければ、3週間後には生産が開始出来ます」
TVの奥では、すごくざわついている。これが本当なら、日本は救われたな。
「五味テレビです。治療薬が完成するとの事ですが、という事は初動で殺された方は全くの無駄死にじゃないですか? その人達や家族の人にどう責任とるつもりですか? 今回の不手際に対して、内閣総辞職は行う予定ですか? その辺をお聞かせください」
「今回の件で不手際があったとは思っていません。あの当時、感染者を放置していたら、日本各地に、いや世界各国にザンビが拡がり、全人類の危機に陥っていた可能性があります。
初動対応していた警官や自衛隊、米軍の方には、辛い仕事を担ってもらい、大変申し訳なく思っております。
ザンビの危機は減りつつありますが、今回の件で日本が受けたダメージは計り知れません。いまは全国民一体に成って難局に立ち向かうべきだと考えております」
「葛テレビです。話をすり替えているんじゃないですか? 家族を失った方にどう責任を取るのかと聞いているのです。政府は大を守るために小を切り捨てているんじゃ無いんですか? その小の気持ちを考えた事があるのですか?」
「黙れ! このクズが! 誰が小の気持ちが分からないだと! 政府関係者の中にも家族を失っている。私の息子や、それに孫も通学中に死んだわ……。どんな気持ちで公共交通機関の停止を指示したと思っているんだ!
政府に噛みつくだけがジャーナリズムじゃないだろう。視聴者が興味を持つようなネタや話題を無理やり作るんじゃない。
今は日本が死んだに近い状況だ。国民全員に言いたい、もう一度日本を再生するために協力を、お願いしたい。頼む、この通りだ」
頭を深く下げている姿がTVに映っている。途中から泣きながらの発言だったため、思わず貰い泣きしてしまった。
その後も質疑応答が続いている、早く日本が元通りになって欲しいものだ。
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「課長、今度こそこれで終わりですか?」
『これで一旦終わらせて、今まで出てきた対策候補の中から、何を優先するのか決めましょう。
という事で、今回のシナリオで何か気になったことはありますか?』
「はい。自動ブレーキって解除できるものなんですか? すみません車に詳しくないもので」
『私も知りません。その辺の確認からですかね』
「でも解除出来る機能をつけた方が良いですね。だってゾンビに囲まれたときに自動ブレーキが有効になって逃げださないなんて最悪ですよね。自動ブレーキは標準装備みたいなものですし、困りますよね」
「とっ徒歩で帰るのは、推奨出来ることなのでしょうか?」
『今回の場合であれば、立ち止まっているよりは、安全だったかも知れませんね。また電車が走っていない場所を選んで移動したのは正解だと思います。遭遇確率がだいぶ違ったと思います』
「あっあと、ラインの過去トークですが、誰が安全かを確認したり、報告出来るツールがあると便利だと思いました」
「そうですね。そういうツールは必要ですね。対策候補に書いておきます。でも官房長官の下りは、何にも役立ちそうな部分がありませんでしたね」
ぐはー。自分では良い出来だと思ったのに、ショックがデカい。
「あっあの、予防薬や治療薬は今回のシナリオだと存在したのですが、原因究明や対策出来る分析機関が必要だと感じました」
『そうですね。未知の病気に対して、調べたり、対応したり、アドバイスしたりする分析機関は必要ですね。多分日本にもあると思いますが、その辺も調べて必要なら対策に入れましょう』
二人とも、特に追加の話が出なかったので、
『じゃあ、次回は優先度決めですね』
頭の仮想シナリオは、1日目です。
後の仮想シナリオは、8日目です。




