籠城と通学等の対策
「課長、ちょっと良いですか? なんでシナリオに副題っぽいものが付いたんですか?」
『なんか、それっぽくて良いかなと思いまして、この方が感情移入できると思いませんか?』
「はあ……それっぽいが、どれっぽいかはよく分かりませんが」
日笠君には不評のようですが、山田さんは私の意見に頷いてくれている。そうだよねー、感情移入できないとね。
「交通機関の停止や道路の封鎖は有効な拡大防止ではありますが、その封鎖圏内の人にとっては致命的な対処方ですよね」
「ふっ封鎖圏内に閉じ込めれた人達は、どうすればいいのですか?」
山田さんは優しいな、でもね。
『今、救済案はありません、それを考えるのは対策の一つかも知れませんね。初期の封じ込めは必須対策です。
例えば、海外から見れば日本からの侵入を禁止します。日本からも出さない努力をすべきだと考えます。それが空港封鎖や出国の禁止令ですね。
これは新型インフルエンザのパンデミック対策、“第6章 国内で新型インフルエンザが発生した場合の対応”の“1基本的な考え方”に沿った方針でもあります』
「でっでも、封鎖圏内の中だけでも移動を許可しないと、出勤途中や移動中の人が……」
目に涙を溜めながら訴えている。手の先は見えないけど、きっとスカートの裾あたりをギュっとしていそうだな。
『電車やバスなどでザンビ感染者が早く遠くに移動し、被害が拡大します。移動手段を限定する事で拡散の速度を極力抑えます』
うーん、山田さんは納得していないようですね。
『通勤通学中の人の受け入れが限定されると予想されるので、避難出来ない人が増え、ザンビが増える可能性がとても高くなります。移動手段を限定すると感染者が増えてしまいます。ザンビにしない事が感染防止にとって重要な対策です。
と言った方が、同じ結果を求めるにしても意見が通りやすくなると思います。でもこの課では、今のように思った事をそのまま伝えていただいて結構です、思いを口に出してください。
ただ、この課の役割が終わって解散して、新しい部署で意見を通すときには、どうやったら意見が通りやすくなるのか、作戦を練るのも大事ですよ』
山田さんがうんうん頷いている。なんか言い方とか、馬鹿らしい事に頭を使わないと駄目って変だよね。
「課長、封鎖圏内と圏外の移動手段も対策検討の候補という事で良いですね?」
『はい。それとセットというか、外出者の受け入れも検討しないと、どちらかと言えば受け入れの結果次第で移動手段がどうなるか決まりますね。受け入れについて何か案がありますか』
「みっ民家は、部屋の数に応じて他人を受け入れる必要がある、とかどうでしょうか」
「でも、ザンビになる可能性がある人や暴漢、悪い人の可能性があるのですから、そう簡単には受け入れしない気がします。私も多分躊躇しますし。
それに東京の駅前は個人住宅というより、店や会社というか事務所の方が多そうですね。店や事務所だと中で誰かが発症したら、仕切りや逃げ場が無さそうだから中は絶望的な気がします」
『やっぱり厳しいですね。でも、特定の家や店、事務所の中に感染者が留まって、町中に溢れなかったり、他の家や店の中が安全になるなら被害も抑えられるかも知れませんね。
例えば百軒避難場所があって、その内一軒でザンビが発生したとしても、残りの九十九件は無事になるかも知れませんし、多少被害があってもトータルで見たら助かる人の方が多そうな気がしますね』
「ひっひっひ酷い、課長はやっぱり酷いです」
あちゃー、いやでもね言い分もあるんですよ。
『いかに被害を抑えるか、最終的な生存者数を増やすってことは、効率良く助ける人助けられない人を分別する事だと思っています。
判断を誤れば死ぬ人が増える、判断を先延ばしにしたら死ぬ人が増える、全員を助ける方法が有るのかもしれませんが、私の中では全滅よりマシと思っています。
人道的だとは思っていません。でも多くの人を助けたい気持ちは皆さんと一緒だと思っています。私は人道を排除して最大の結果を得るために考えています』
場が静まってしまった。ちょっと架空の話なのに熱くなりすぎたかな、でも架空の話であっても多くの人を助けたいんだ。
「いっいえ、こちらこそすみませんでした。配慮が足りませんでした、すみません」
かなり深い角度で頭を下げている。
『いいえ。全員が同じ意見だと偏ってしまいますので、山田さんには人道主義を優先して、今のまま意見を出して欲しいです。私の意見が全て肯定されてしまったら、ここに三人いる意味が無いですからね』
にっこり笑った。これで少しでも良い人だと思ってもらえるといいな。
「あの課長、首都圏にどれくら人がいるのか、把握しないと正しい判断が出来ないのでは?」
日笠君の意見を基に、とりあえずどれくらい居るのか確認した。
東京千三百万人、神奈川九百万人、千葉六百万人、埼玉七百万人、三千五百万人がここで生活をしている。つまり、日本の人口の約3割がこの場所に集中している。
東京駅の乗降客数は一日四十万人、一都三県での朝八時時点の鉄道利用者数は二百万人だった。
「思ったより多いですね。鉄道利用者数が二百万人ですが、既に出社している人や、働いている人、観光客なども居ると思いますので、避難しにくい人が数百万人いるということですよね。
既に出社や通学先に到着している人はその場に留まってもらうとして、鉄道利用者の二百万人が避難しにくい人だとしたら日本の人口1.7%。五百万人なら4.3%が避難困難者ですね」
『仮に五百万人の避難を優先する事で、三千万人に危険が及ぶ可能性があるという事かな。人が多すぎてどうもピンと来ないですね』
「そういう場合は、もっとわかりやすい人数まで落とした方が良いと思います。例えば10人。10人がどうなっているのかを考えます。
2人が家に居る、例えば赤ちゃんとかおじいちゃんおばあちゃん専業主婦とか、2人が家のそばに居る、例えば子供が近くの学校、パートでスーパーのレジとか、1人が移動中、5人が遠くに居る、働いていたり遠くの学校やお店の中にいる。
これで違和感が無かったら、それを元の値に当てはめてみるのです」
『家に2人、近くに2人か、そんなに居るかなって気もしますが、逆に遠くに居る人が朝の時点で5人も居るのが多い気もするし、そうするとそんなものかって気もしますね』
「意外といるんじゃないですか? 例えば公共交通機関の人、コンビニ、物流、病院、警察、消防、電気、工場、とか」
「あっあの、車で移動している人も多いと思います」
『ああ、なるほど。車で移動している人もいますね』
調べた結果、使える丁度良い情報が無かった。仕方がないので、12時間当たりの交通量調査のデータから、推測してニ百数十万台とした。
「家に2人、近くに2人、電車で移動1人、車で移動1人、遠くに4人としますか。家と近くの合計4人は安全に避難出来るとして、車も中に居る間はとりあえず安全という事で、逃げられないかも知れませんが。
電車移動の1人が危険で、遠くにいる会社や学校の人は、外にいるよりは安全だけど、ザンビ候補が同じ室内に居たら致命的になる可能性がある、そんな感じでしょうか」
『電車の移動中の1人を助けるために、家にいる2人から4人が危険になるかもしれないけど、全家庭で危険になる訳でもないだろうし、うーん、でもやっぱり難しいね。
移動中の人を受け入れて欲しいけど、避難している人たちの事を考えると、受け入れろというのは厳しいですかね』
「でっでも、例えば、まだ問題になっていない電車の沿線なら、危険性も低いと思うんです。例えば、東京を除く私鉄各線の沿線の人たちは受け入れて下さい。とアナウンスするのはどうでしょうか。
今回の場合は相鉄線で被害が確認されていない、もう少し先の方の駅なら受けいれてとか」
『ふむ、それなら、リスクも多少は減るでしょうし、トータルで見たら多くの人が助かりそうですね』
中には感染者も居るだろうけど、避難先の人の家庭での感染数より、路上での感染者数は減りそうだしね。
「そっそれと、被害範囲が拡大するかもしれませんが、封鎖圏内の公共交通機関は稼働させて家に帰した方が、トータルでの感染者は減るのではないでしょうか」
山田さん気持ちは分かるんだけど、根拠が分かりにくいな。意見が通りやすくなるように工夫を始めたってところか。
『んーどうでしょう、トータルで減りますかね? 日笠さん、どう思いますか?」
「移動中の1人だけで考えたらトータルで減る気はします。それと家に籠るとしても、家族や恋人、知人と一緒の方が安心する気がします。ただ、遠くにいる4人も帰宅したくなって、その人達が移動を始めたら、より混乱するし、感染が拡大する恐れが高い気がします」
「でっでも、仮に勤務地や学校に避難していたとして、食べ物はそんなにないと思います。そんな状態で何時までも避難し続けられるでしょうか。
きっと食べ物を求めて、近くの店や家に押し入ったりして、避難場所から出ることで被害が拡大する可能性は無いでしょうか」
山田さんが食い下がってる。いいぞ、がんばれー。
しかし、一都三県を封鎖出来たとして何時まで封鎖できるか。1~2週間は我慢出来ても、その間にザンビを根絶やしに出来るとも思えないし、山田さんの意見のような、家に閉じこもった人が外に逃げたり、食料の確保に家を出る人も増えるか。
となると、一時的に避難に成功していた人も最終的には感染者になるかもしれないな。だとしたら、もう早めに一都三県の人達は切り捨てた方が良いのかも知れない。支援するだけ被害が増しそうだな。
ザンビになるのを防ごうと思ったら、どうする? 殺すか……死んだらザンビにならないし、全員殺しちゃえば感染予防になるかも。
『仮にだけど、大量に人を一気に殺そうと思ったら、どうするのが効率良いですかね?』
発言に二人が引いてる。ちょっと説明が足りなかったな。
『ごめんごめん、いきなりだったね。自分の頭の中で考えていた前提を話していませんでした。一都三県の人達を切り捨てるとしたら、ザンビになる前に殺してしまうのが効率が良いかなと思います。
どうやったら、効率良く一都三県の人を殺せるかなと』
山田さんは頭を横に振りながら体が後ろに反ってる。
「いや、そうだとは思ってました。……核兵器とか化学兵器ではないでしょうか」
『やっぱりそうですよね。化学兵器だと広範囲には難しそうな気がするし、核兵器だと近隣の県にも被害が及びそうですよね。中心地が核で、周りを化学兵器ですかね?』
うーん、みんな黙っちゃった……。しばらくして、
「かっ課長。核兵器では大量のチリが上空に舞い上がります。結果ウイルスが拡散して、被害が拡散する恐れが無いでしょうか?」
おおー山田さん良いぞ、その発想は無かったし、意見を通すための工夫もある、成長が嬉しい。
『そうですね。核兵器はリスクが増えるかも知れませんね。話を戻しますが、封鎖圏内の移動は制限して、近くの場所に避難を促す方向で検討しますか。検討候補にいれておきましょう』
銀英伝のセリフをパックている個所があります。
まるまるじゃなくて、気持ちパクッてる程度ですけど。




