通学、崩れゆく日常
JRが止まったせいで、相鉄も滅茶苦茶混んでいる。こりゃー遅刻だ。私には関係ないのに、本当に、はた迷惑だわ。だいたい平日の朝に東京駅で暴動するとか頭おかしいんじゃないの、まったく。
湘南台で3本待って並んで乗ったから座って来れたけど、これ立ったまま横浜行くとか、マジカンベンです。どうせ一時限目に間に合わないんだから、どんだけ遅延したって同じだよね。
移動しながらラインで愚痴を書き込む。複数のラインで愚痴がさく裂して、どれがどれだかわかんなくなってきた笑えるw。 おや、珍しく学級委員長もラインに書き込みしてきた。
「みんなインターネットのニュースを確認して、ゾンビが出ているって、間に合うなら帰宅して、私は電車の中で閉じ込められてしまって、もう駄目かも」
はあ? 委員長どうしちゃったの? こんな冗談を書き込む人じゃないのに、まさかね。直ぐにヤホーニュースを読むと、ゾンビと思われる情報が複数掲載されており、個人の投稿でも恐ろしい動画や、書き込みが多数あった。
冗談でしょ。今日エイプリルフールじゃないよね? もしかして旧暦で4月1日とか、そんな訳ないか。でもこれ快速だし、星川出たばっかりだし、でも電車止まっているし、どうすればいいの? 帰りたくても帰れないよぉ~。
そうだ、委員長に「がんばれ、負けるな、生きて」と返しておいた。皆も励ましのコメントや帰宅する旨の記述が多数書かれている。私も何とかしないと。
「大変混みあっており、ご迷惑をお掛けしております。いま天王町駅に止まっている各駅停車の乗客が全て降り次第、本車両も天王町駅に停車し、そこから回送電車となります。
政府からの指示により、すべての公共交通機関を停止するようにアナウンスが出ました」
周りが騒然とする、うるさくて良く聞こえない。
「お前ら黙れよ、全然聞こえないだろ!」
「うるせーよ、お前も黙れよ! 聞こえないよ!」
「全員いいから黙って!」
オッサンが最後に叫んで少し静かになった。
「戒厳令が出ておりますので、駅に到着後速やかに徒歩にて、帰宅されるか、どこかの屋内に入ってください。真偽のほどは分かりませんが、化け物が東京に出ており、その化け物に襲われると周囲も化け物になるという報道がされております。
全ての公共交通機関が停止しておりますので、徒歩にて帰宅されるか、どこかの屋内に避難してください。全員が下車して、速やかにホームを空けていただけませんと、他の車両の避難が進みません。色々と聞きたいこと、苦情などあると思いますが、速やかに駅から出てください。多くの人命が掛かっております」
車内は騒然としている、私もどうしていいのか分からない。天王町から湘南台まで歩くなんて無理だよ、絶対無理。でもどこに逃げればいいの? 悩んでも答えが出ない中、天王町駅に到着した。
「速やかに下車してください。下り電車は動きません。バスなども全て運休状態です。駅から出てください、皆さんが出ていかないと他の電車の人が避難出来ません。ご協力をお願いします。
はい? すみません分かりません。駅の外にいる警官に聞いてください。ここでは何も答えられません。とにかく人命にかかわりますので、速やかに出てください。
横浜駅でも被害が確認されたという情報が入っています。皆さん留まらずに出てください」
何人かが駅員に質問しようとして断られている。兎に角出ないと、ガタンガタン、ガタンガタン。下り電車がホームに入ってきた。さらに混雑するだろうし、まずは駅から離れないと。しかし、人混みで中々駅から離れられない。ああ、もうみんな早く移動してよ! てか、改札狭すぎ!
「立ち止まらないで下さい。他の人が避難出来ません、速やかに駅前から退避して下さい。横浜方面は危険ですので、逃げる場合は星川方面や二俣川方面に逃げて下さい」
警官が拡声器を使って誘導しているようだ。でも星川駅は分かるけど、二俣川なんてどこに向かえばいいのか全然分からない。何とか改札を出たところで悲鳴が聞こえた。
「きゃあー、いたいいたい! 噛まないで!」
周りが騒然として、一斉に人が走り出す。私もとにかく駅から離れる、何でこんなことに。
バンバン! 思わず頭をすくめる。銃声? あれが銃声なのかな、警官が発砲したのかもしれない、悲鳴や叫び声が駅から聞こえるが、とにかく離れないと。公園が見えて、人が三手に分かれる。星川方面、公園の中央を突っ切る人、左に向かう人、うーん左。
家まで帰るなんて無理、だったら近くのどこかの家に入れてもらうしかない。星川方面に逃げる人が多かったから、私が入れる余裕なんて無いかも。
先を走っている人達が、あちこちの家に入ろうとしているが、どこにも入れてもらえてない。同じ場所を狙っても無意味だから、とにかく自分がその人達よりももっと先の家に向かわないとだめだ。
交差点のたびに人が別れるし、人が合流してくる。どっち、どっちが正解なの! 分からない、とにかく前に、前に。もう疲れた、でも走らないと。
他の人達のように一軒一軒に確認しているようだと効率が悪いし、断れているからあの家もダメと。あ、あのマンション。どうせもう走れないし、マンションで複数の家にチャレンジした方が確率が高いかも。
最後の力を振り絞って、マンションにあがる。2階のフロアには、既にドアを叩いて回っている人がいるので3階に来た。よし、誰もいない。ここで頑張るしかない、もう足がパンパン。ドアを叩く。
「誰か、誰か入れてください。お願いします! お願いします!」
居留守なのか、外出中なのか分からないけど、開けてくれない。酷いよ。でも愚痴っている場合じゃない、次の家に行かないと。同じようにドアを叩いて、家の中に向かって叫ぶ。
4軒目もダメだ。もう駄目かも。でも次の家に行かないと、鉛のようになった足で歩き始めると、ガチャ。振り返るとドアが少し開いてる。直ぐに開いたドアの隙間に顔を出す。
「あっあの、入れて下さい。お願いします。助けてください」
中にいる若いおじさんに頭を下げてお願いする。
「怪我をしていたり、噛まれたりしていない?」
「はい。噛まれていません。お願いです助けてください」
再度頭を下げると、ドアが閉まった。何で閉まったの? というかだったら開けるなよ!
ガチャガチャという音がして、ドアが大きく開いた。
「早く入って」
玄関に入ると、ドアが閉まってカギとチェーンロックが掛けられた。ああそうかチェーンロックか。
「本当に噛まれていないんだよね?」
若いおじさんが再度確認してくるので、必死で返事をする。
「はい。噛まれていませんし、噛まれた人のそばにもいませんでした」
そりゃ見ず知らずの人間だもの警戒するよね。でも入れてくれてありがとう。日本人も捨てたもんじゃないね。
「ごめん、とりあえず服脱いでくれる?」
はあ? いや、その、確かに女子高生だから何にも恩返しできないけど、いきなりそんな事言いますか? 良い人だと思ったのに、でも死ぬかどうかなんだから。
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今考えても恥ずかしい。もう本当に。シャワーを浴びながら先ほどの事を考える。ドアの外に人の気配がした。
「着替えとタオルここに置いておくので」
「はい。ありがとうございます」
お風呂から出て、体を拭いて出された服に着替える。しかし、お風呂場から出て玄関を見ると、私の制服が透明のゴミ袋に入って置かれている。
「これ飲んで。飲み物のストックは少ないから、ジュースはこれしかないけど。食べ物なら2週間位は大丈夫だと思うから。安心していいよ」
親切な若いおじさんが、カロリーゼロのコーラを出してくれた。ゴクゴクゴク、美味い美味すぎる、プハー、ゲップ。
「あっ」
思わず一気に飲んでゲップが出てしまった。おじさんを見て、どちらともなく笑ってた。
「そうえいば、自己紹介がまだだったね。飯田です。よろしく」
「私は佐藤です。この度は助けていただいてありがとうございました」
私のお礼に、おじさんは首を振りながら否定してきた。
「ううん。本当ならもう少し多くの人を助けることも出来るかもしれないけど、リスクが増えるのが怖いし……」
ん、しで終わると何か続きがあったんだろうけど、そこから続かないからよく分からなかった。
「とりあえず、情報共有しようか」
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「課長、最初、その、あの、いやらしい話になりそうで焦ったんですけど、その思わせぶりな記述要りますか?」
日笠君の質問はごもっともだ。山田さんも書いている最中に、凄くびっくりして慌てていた。
『紛らわしい表現を入れて悪かったね。ただ、女性が知らない人の家に入ることのリスクも少し臭わせたかったんだ。こういう混乱に乗じて悪いことをする人も居るからね』
「確かにそうですね。家主が女性の場合は、男性を入れない方が安全ですね。今回のような非常事態であっても。
その判断は非常に厳しいものになりますね。救うのか、自身の安全を確保するのか」
『さて、じゃあ今回の話の中で、対策した方が良い事、気が付いた事をまとめていきましょう』




