籠城
さて、今日も検討を始めますかーっと。立てこもって一日目か、どうしようかなー。ちゃんと主人公を殺すように考えないとまずいか、でも一日目に死ぬってのもなあ。
「課長、始める前にちょっといいですか? すみません。ゾンビは東京駅起点で発生している設定でしょうか?」
日笠君がシナリオの確認をしてきたな、脳内設定を少し説明しておきますか。
『はい、東京駅から広がっています。彼が家に帰った時点なら、東京の色々な駅と、東海道線や総武快速線の駅あたりでゾンビが出る感じですかね。なので海外には絶対居ません。
でも、あんまり遠くなると電車の中でゾンビが暴れる感じになるので、暴れたら次の駅あたり電車が止まります。なのでゾンビがいる場所は、東京、神奈川、千葉、埼玉、あたりまでかな。それにテレビでも報道しているので、電車も車内の状況に関係なく止まるじゃないんですかね』
「通勤シナリオの相鉄線車内で、痛みを訴えるセリフがありましたが、あれ何だったのですか? てっきり、既にあちこちに広まっているのかと思ってました」
『あれは伏線に見せかけたダミー伏線ですね。映画とかでゾンビに襲われて怪我をして、この人ゾンビになるんじゃないの? とか思わせぶりで結局ならないみたいな、それです』
「……。課長、それシナリオに必要なんですか?」
『必要ですよ。実際に超満員電車で、しかも電車が凄く遅延していたらイライラする人いるでしょ。それにJRの改札辺りでゾンビが暴れても、ああー誰かキレて暴れているなーって思うのではないかなと』
「課長、即興でシナリオを書いていたんじゃないんですか?」
『……。大部分は即興ですが、自分の中では幾つかのパーツというか案は考えていますよ』
鋭いな日笠君、ツッコミ能力が高い。まあ、すべてを一から考えてたら、時間が掛かり過ぎるからね。
「かっ課長、あの今の状況だと、なんとかならない感じがするんですけど。日本滅んじゃうのではないかなあと。もう少し感染力を弱めるとか、何とかなりませんでしょうか?」
確かに。山田さんの言う通りで私もやり過ぎた感はあったんだよね。
『確かにその通りなのですが、もう一度この設定で始めてしまったので、とりあえずもうちょっとこの状況で行きましょう。変に捻じ曲げてしまうと対策が取れないかも知れません。
とりあえず一旦この話が良い感じのところまで、まあどうしようもない終末かも知れませんが、そこまでは行ってみて、別途ちょっとライトというか感染力を弱めた感じでのストーリーも考えてみましょう』
じゃあ、ちょっと何とかなるような感じでストーリーを進めるけど、主人公はいつ殺すかなー。
----------------------------------
とりあえず、政府公認の発信内容を基に行動を開始する。手洗いをしっかり、うがい、そしてシャワーを浴びて体もよく洗った。なんか少し落ち着いたな。
脱いだスーツはとりあえずゴミ袋に入れて縛って玄関においた。捨てるのはもったいないし、でもなんか怖いしね。
しかし、今回の化け物はゾンビじゃなくて、“ひおひ”というのか。何でこんなネーミングになったんだろうな。
----------------------------------
「ちょっちょ、課長、なんで“ひおひ”なんですか?」
日笠君、止めないで欲しいなあ、折角エンジンが掛って来たのに。
『全員が共通認識を持つのが大事です。明確にそれが何か直ぐに分かるようにしないと、しかも長い名称ではなく、3文字から4文字位が好ましいと思います。
人を襲う人なので、略したら“ひおひ”でしょ?』
「いやいやいやいやいや、当然のように「“ひおひ”でしょ?」じゃないですよ、全然納得できません」
うむむ、ツッコミは嫌いじゃないんだけど、どちらかといえば嬉しいというかご褒美とういうか、それはさておき、良いネーミングだと思ったんだけどな。
『だとしたら、どのようなネーミングが良いですか?』
日笠君が顎に手をあてて考えている間に、山田さんが挙手している。
「あっあの、ゾンビとはちょっと違う化け物なので、ザンビ、ジンビ、スンビ、ゼンビ、とか、ちょっとだけ外した感じでどうでしょうか」
『なかなか良いんじゃないでしょうか』
山田さんはセンスが良いなあ、お、日笠君の考えもまとまったようだ。
「狂ったように人を襲う、なので狂人ではどうでしょうか?」
『確かにそうなんですけど、既存の言葉で狂人がありますから混在する可能性がありますね。ザンビが言いやすいからザンビにしますか』
採用されたのが嬉しいのか山田さんがニコニコしている。わたしも嬉しいです、デレ。
----------------------------------
テレビで1チャンネルをつけると、アナウンサーが様々な情報を伝えている。この人達どうなっちゃうんだろうな、なんか家にいる自分が卑怯に思えて、報道している皆さんに申し訳なくて、涙腺がじわじわとしてくる。ごめん、そしてありがとう。
「戒厳令により、屋外に出ることは禁止されております。すぐに最寄りの建物内に入ってください。また東京、神奈川、千葉、埼玉への出入りを全面禁止となりました。
人が多く集まる場所は危険です。怪我をしても病院には行かないで下さい。病院にも業務停止を指示しております。移動すること事体が危険です、屋内に留まってください。
該当の地域に隣接している県には避難出来ませんので、移動中の方は直ぐに家に引き返すか、どこかの建物内に避難してください。
また該当の地域での公共交通機関は全面停止の指示を出しております。ご利用できませんので、駅にも向かわないで下さい。静岡、山梨、栃木、群馬、長野、栃木、茨木の各県においても、公共交通機関の全面停止の指示が出ております、ご注意ください。
空港の利用は全面停止になっており、日本に向かっている飛行機は全て他国に着陸する事になっております。どうしても燃料が持たない場合は、出来るだけ関東から外れた場所に誘導しているとのことです……」
これ、もう駄目なんじゃないのかな、生きていける自信が無い。日本以外は大丈夫なんだろうか、海外に逃げれば何とかなるのかな。
ブルブルっとスマホが振動した、政府公認情報発信だ、えーと、国外の退去は認めません、周辺の国に入国しようとした場合、その場で殺害されます……。マジかよダメだダメ詰んだわ。
「たった今、政府からの公式情報が発信されました。国外への退去は全面禁止となっております。船や飛行機などで許可無く国外に向かった場合、無条件で攻撃を受けます。
現在、アメリカ、ロシア、中国、韓国、北朝鮮、台湾、フィリピン、を始め、12か国から日本からの入国を禁止する旨の連絡が届いており、無許可で領海や領空に入った場合、攻撃するとの事です。またこれに対して日本政府は、出国禁止の決定をした事、……攻撃を認める旨の回答をした……との事です」
アナウンサーが顔面蒼白になりながらも、今の内容を繰り返し伝えている。どうにもならないな、関東が危険だから別の県に行きたくても移動手段が無いし、多分主要な道路は封鎖されているだろうし。
あとは化け物が襲って来て喰われるか、俺も化け物になるか、飢えて死ぬか、そんな感じだろうか。人生が終わることだけは決定しているから、残り短い残りの人生をどうしようかな。
カーテンを少し開けて外の様子をみると逃げ惑う人々が見える。あちこちの家に入ろうとしてチャイムなどを押しているが、受け入れて貰えるようには見えない。そりゃそうだろうな、化け物の可能性があるんだから。それに食料だって必要になるし、もしかしたら暴漢かもしれないしね。
ドンドンドンドン、緊張が走る。同じフロアの別の家のドアが叩かれているようだ、ザンビかも知れない。怖い、怖い、怖い、怖い、死ぬのは分かったけど、怖くなく楽に痛まずに死にたい。
どうして生き残ったんだろう、小さい頃はこんな状況になったら気が付かない内にザンビ側になるのを望んでいた。こんなことになるなら早く死ねば良かった。
「誰か、誰か入れてください。お願いします! お願いします!」
若い女性の悲痛な声が聞こえた。逃げてきた人か、でもザンビ予備群かもしれないし、どうしよう。ドンドンドンドン、叩く音と声が近づいてきた。俺はどうしたらいいんだ……。
小説の中で、小説の解説をする斬新?な手法。




