通勤 対策の続き
「かっ課長!!」
『うぉ、はい。山田さんなんでしょう』
勢いよく立ち上がって、前のめりになりながら、山田さんが手を挙げている。
「ぶっ分析方法にこだわり過ぎでは無いでしょうか! 多少分析方法が異なっていても、今の段階でも原因の洗い出しや対策を検討できるのではないでしょうか!」
おおー凄いやる気だ山田さん、名は体を表すと言うしね。山田恵瑠《やまだえる》略したら“やる”だからね。
『はい。確かにその通りなのですが、原因が明確になっていない中で対策を取っても、無駄な対策だったり、本来取るべき対策が取れなかったりして、二度手間に成りかねない、かなと思いまして』
「でっでも、分析方法に気を取られ過ぎだと思います。仮に間違った対策になるかも知れませんが、同様の分析を何度か行うのですよね? 何度か検討している内に新しい気付きがあるかも知れません。
それに、ゾンビ像は私達の勝手な想像なのですから、そもそも前提が成り立たない可能性もあるのではないでしょうか」
はい。御もっともな意見です。
『そうですね。とりあえず原因の深堀や対策を検討しますか。日笠さんもいいですかね?
じゃあ仕切り直して、なぜこの人はゾンビ被害にあったのか。
直接原因は周囲に気を配らなかったから、それを引き起こしたのは2つの原因。
スマホでの情報収集に集中した、視界が確保できない状態なのにその場に留まり続けたから。
じゃあ、それら2つを引き起こした原因はなんでしょうか?』
「はい。スマホに集中したりその場に居続けたのは、ゾンビの危険性が横浜駅や日本国内に正しく伝えられなかったからでは無いでしょうか?」
『そうですね、正しく伝わっていれば早く対処出来たかも知れません。じゃあ、何で正しく伝わらなかったのでしょうか?』
「はい! あっあの、ゾンビが現実的にいると意識し始めたのは、既にゾンビの近くで、それらしい事象が発生したから認識したのです。そうでなければ、彼は気が付きようが無かったと思います。
なので、外部、例えば駅構内でのアナウンスや、テレビのニュースなどで取り上げていれば、もっと早く自分でも調査したり、その場から移動しようと考えたのでは、と思います」
『確かにその通りなのですが、報道が開始されるのがこの人が感染した後になると思うので、この段階でゾンビ情報を報道するのは、ちょっと難しいですね』
「課長、やっぱりそれが原因じゃないですか? 報道までの時間をいかに短くするかだと思います」
『そうですねお二人の発言の通り、報道に時間がかかり過ぎですね。時間が掛かっている事について、私の脳内設定をお伝えしますね。
まず、警察が異常者を取り押さえたとして、最初は生きていますから脈測ったら脈ありますし、仮に殺したら生き返りませんので、薬物中毒と思うかも知れません。
仮に異常状態が伝染するとして、皆が直ぐに信じてくれるか。また状況をどうやって伝えるか、ゾンビならゾンビというイメージがある程度共有出来るかも知れませんが、
「人が狂暴になって、襲われた人も狂暴になる場合があるんです。でも被疑者は生きているのでゾンビではなさそうです」
と言われても
「はあ? 何言っているの?」
となる訳です。今までの常識的にはない事ですし、映画やゲームなどのゾンビ像とは異なりますし、説明してもピンと来ないと思います。そうしている内に感染が拡大して、取り押さえた警官も狂暴化していきます。
偉い人は意味不明な報告を受けますが納得できないので、事情を知っている人に質問しようと思いますが、初動対応した警官の中には狂暴化し始めるものがいて、そこでも騒ぎになるのと、事情を知っている者が狂暴化するので、連絡が取れる人が減っていく訳です。
そうなると情報の信頼性が無く、じゃあ現場に他の人を派遣しようとか、裏取りしようって事になり、更に時間が掛かります。
次に異常であることが分かり、警察庁で対応を考えますが、やっぱり中間管理職だけでは判断できないので、警察庁長官や次長、各局長等に連絡します。となると、ここでも連絡の時間が掛かるわけです。そして集まった面々への説明説得に時間が掛かる、直ぐには信じられないですからね。
じゃあ危険なのは分かったから総理に連絡しようって話になりますが、政府で対策本部を招集するにも時間が掛かりますし、集まって打ち合わせで方針を決めるにも時間が掛かります。
結果、最初の被害から報道までの時間が掛かりますし、報道出来たとしても、場所や状況にもよりますが、既に数十万人単位で潜在的な感染者や保菌者、数千人単位で狂暴化した発病した患者が出ている状態です』
「最初の数時間でそれだけの状況になってたら、もう日本終わってませんか? それ“悪ゾン”状態じゃないですか……。ちなみに感染から発病までの速度ってどれくらいを想定していますか?」
『えーとですね。約1分~2,3日位の間ですかね。なので最初は、薬物中毒者の通り魔事件として報道される可能性がありますね』
「かっ課長、感染から発病までの時間は、想定になかったと思いますが、何で1分~2,3日なのですか? そっその範囲にムラがあり過ぎませんか?」
『すみません想定に入れていませんでしたね。今回のシナリオのために勝手に考えてみました。
狂暴化した人に襲われ、その時にどれだけのウイルスに侵入されるか、またどれだけの怪我を負わせられたかによります。より大けがをした人の方が発病しやすくなります。
今回の原因はウイルスですので、普通であれば体の中にウイルスが入っても排除しようとする免疫機能があり抵抗します。なので免疫が勝てば感染しないのです。襲われて怪我をした場合、体力を消耗しているので免疫力が弱まります。
また、このウイルスは体を回復させようという効果がありますので、体も「あれ直してくれるの? じゃよろしく」なんて感じで、免疫力が弱まるかなと考えました』
2人とも「なるほど」と言って頷いているので、感染速度の違いについては納得してくれたようだな。
「じゃあ国の判断が遅れたとして、もっと早く気が付ける方法を考えるべきという事ですか?」
「あっあの、個人での“つぶやき”やSNSでの情報発信は、活用出来ないでしょうか?」
『私は、一定の効果が有ると思います。しかし、“ゾンビ”とSNSで情報発信して、いたずらやフェイクニュースと思われる可能性も有ります。普通ならゾンビが出たなんて信じませんよね?
「通り魔が出たけど、それってゾンビが原因だよ」
なんて情報発信したら、不謹慎だとか、発信者に対して攻撃が始まったり、そんな嘘を信じちゃだめだとか、自浄作用を働かせようと否定する方も出てくると思います。
実際に確認して嘘を消してくれるなら良いのですが、思い込みだけで反論する方もいるでしょう。ただ、否定的な部分もありますが、有効な手段でもあるのは変わらないと思います』
「フェイクニュースを無くすことは、ゾンビ対策以外にも役立つと思いますので、それもゾンビ対策の一環に含めませんか?」
日笠君の発言に山田さんも頷いている。確かにその通りなのですが。
『対策の候補には入れておきますが、最終的に色々な案が出ると思いますので、優先度を決めて取り組みましょう。
フェイクニュースは3年前に罰則規定が出来ているのと、人工知能によるサーチエンジンから除外する取り組みが行われていますので、それ以外の取り組みとなります。以前から別途検討している部署がありますので、この課で実施しても効果が薄いかなと個人的には考えています』
あー山田さんガッカリしてる。対策らしい対策だったのにね、申し訳ない。
『なので検討する場合は、本当の情報がフェイクニュースと扱われないためにどうするのか。そちらを対策にした方がいいかも知れませんね。
では、それ以外の対策を出しましょう、他に気が付いたことはありませんか?』
対策が出なかったので、異なるケースを分析することにする。
2030年の話なので、フェイクニュースの法律くらい出来ていると思ってます。




