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Go to hell!   作者: 沖ノ灯
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[6]

則幸はオッサンに言われたとおりに床に並べていった。

最後に鏡を、天井に浮かぶ女性の霊の顔の辺りに、ちょうど映り込むように置いた。

線香の煙が部屋に漂いはじめると、霊の付近で、ありえない煙のムラをあらわしていく。


「則幸くん、鏡をよく見ていてね。」


則幸は返事しながら、ただならぬ気配に毛が逆立ち続けている二の腕をさすった。

腕だけでなく、全身がゾワゾワする。

本音を言えば、家を飛び出して遠くの、人で賑わってる明るいデパートとかに行きたい。


「他の事考えない。集中して鏡を覗き込んで。」


則幸は泣きそうになりながら、鏡を見続けた。


アッ!


鏡の中に何か、写りの悪い8ミリフィルムの映像のような画像が見える。


「その見えた絵ばかり注目するじゃなく。

感じて。心で。」


心と言われた後で、怖がっていた気持ちが、別の感情にジワジワ侵食されいていく。


なんだ?こんな気持ち、感じた事ないよ。


「則幸くん、急がなくていいから、この人が生きてきた人生でやり残した気持ちをくみ取ってあげて。」



霊の女性は江戸時代に生きた女性だったようで、ドラマの時代劇を彷彿とさせる環境だ。

繰り返し、寺子屋の場面が浮かんでくる。

先生と合わないのか、学友と諍いでもしたのか、一人寺子屋から去っていく。


まるで俺じゃねぇか。


大人になり、好いた男と所帯を持って、近所の男から頼まれて、折りたたまれた文に名前を書かされている。

亭主が烈火のように怒る場面と、二人で抱き合って泣く様子、その後包丁が見えて、また寺子屋の場面に戻る。


「これは寺子屋で勉強しなかったから、後悔してる、のかな。

わかんねぇよ。」


「則幸くんが、友達から勉強しなくて後悔してるって言われたら、どうしてあげる?」


えぇ?どうするって。


「今からでも、遅くないから勉強すりゃいいよって言うかな。」


「いいね。言うは易し、行う難し。それを行動でしないと、どうしたらいい?」


勉強するって言ったら……


「教科書を渡す?」


「高校生のは無理として、小学校の時の教科書、捨てずにダンボールに入れてソコの隅にあるよね。」


則幸は、先程の掃除でホコリはないが、古びたダンボールの箱を開いた。

全部に、のたうちまわったような、ひらがなで自分の名前が書いてある。

ひとまず一年生の国語と算数を手に取った。


「んで?」


「自分で考えなさいな。」


ケチ……。


「立派な頭がついてるじゃない?」


オッサンは、自分の身長より長い線香を箱から一本取りだすと、線香立てに刺した。


「則幸くん、火つけて。」


ライターで線香の先に火をつけて、さっき言われたままに、手であおいで炎を消した。


「教科書見せながら、読んでいけばいいのかなぁ。」


「やってみよう。」


正解じゃないのかよ。


則幸はしかたなく国語の教科書の最初のページを開いて、自分が読んでいる文字を指さしていった。


「おそらがあおいね。くもはしろいね。おはなはきれい。」



心なしか天井の霊が下がってきたような気がする。


「おともだちといっしょにあそぼうね。」



気のせいではなく、さがってきている。


「オッサン、こ、こ、怖いって。」


「怖がることない。正解なんだ。教科書が燃えない程度に線香の煙をあててごらん。」


則幸は上を見ないようにしながら、手をのばして教科書を線香の煙であぶるようにした。


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