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カーテンが半開きの部屋の中。
則幸がベッドの上に起きあがる。
吐き気がするほどの頭痛は感じない、むしろいつもよりスッキリしている。
どんよりとした感情に支配されていた日々までも嘘のような爽やかな気分だった。
あのオッサン!
則幸はとっさにベッドから飛び降りて、クローゼットの横の壁に身を寄せて、部屋の中をじっくり見回した。
夕方の時間で部屋の影の部分は薄暗く見えにくい。
ひとまず自分の周りにいない事を確認するとベッドの枕の端をつまんで石の下の虫でも探すように引き上げた。
いねぇ、おっかしいな。
自分の部屋で緊張し続ける事が馬鹿バカしくなってパソコンがスリープ状態になった机の前の椅子に、だらしくなく腰かけた。
背もたれのバネを押しながら、天井を見ると、
白い着物の女が髪を振りみだして浮かんでいる。
「っがぁぁぁああ!!」
則幸は急いで自分の口を塞いで、ドアへと姿勢を低くして素早く移動した。
全身の毛が逆立つ。
震えはしないが、目を見開きすぎて潤んでくる。
廊下に出て、ドアの隙間から部屋の天井を見たが、それは、いる。
手のひらがベトベトなのに、ノドがカラカラだった。
とにかく、ここから、アレに気づかれないうちに逃げないと。
階段を一段ずつ音を立てないように降りると、冷蔵庫に向かって進んだ。
後ろを振り返っても追いかけては来ないようだった。
対面式のキッチンで冷蔵庫から出した2リットルのペットボトルを出してコップに注いで、リビングを見ると食卓の椅子に座ってる誰かがいた。
服とか見えずに、黒い人影でしかない。
「うっ!」
思わずペットボトルのフタを落として、薄暗い床を探す。
白いフタを見つけたと思ったら、あの小さいオッサンが持って走ってくる。
「もう、起きたと思ったら部屋から突っ走っていくんだもん。」
則幸は思わず、
彼女かよ。
「あれ?この聞き方女の子っぽい?」
心読まれてる?
「則幸くんの気持ちは、すぐ伝わるよ。」
「キモッ!」
普通の音量の声に、食卓に座ってるアレが気づいて来たら困る。小声で
「なんで幽霊がウチにワサワサいるんだよっ!」
オッサンからフタを受け取るとペットボトルにフタをした。
「前からいるし。則幸くんが見えてなかっただけだよ。」
冷たくてでかいペットボトルを持っていると、また毛が逆立ってきそうなので、音をたてずに冷蔵庫に戻した。
「ってことは、襲っては来ないのか?」
オッサン頭をかしげて黙っている。
「くるのかよっ?」
「時と場合によるんだよね。」
それでも自分の部屋にずっと浮かんでいられるのは、もっと嫌だ。
「せめて、俺の部屋の女のほう、どうにかならんの?」
「方法はあるにはあるけど、やる?」
則幸は小刻みに何度もうなづいた。