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則幸は自室に戻ると、パソコンの電源を入れた。
中学の時から使っていたスマートフォンは、入学してからほとんど電源を入れていない。
誰かから連絡もらっても、どう返していいか悩むからだった。
パソコンの起動画面が切り替わる。
煽ったり、暴れれば小遣いは貰えるだろうが、そういう関わりすら親と持ちたくない。
時間だけは自由に使えるから、ネットで様々なサイトを調べて、ネットの中だけで仕事をしていた。
アンケートやゲームの招待に応じるとか、探せば結構ある。
ネット銀行に貯めても、万が一に備えて早めに現金として引き出すようにしていた。
今回もゲームの招待を受けて、ログインからチュートリアルまで終わるのに小1時間かかってしまった。
これで相手は、期間限定にアイテムを受け取る事ができる。
手数料は350円だったが、これを繰り返すのは、全く苦にならない。
誰もいない家で二度目の食事をすませて、ちゃんと歯を磨いた。
暖かい日差しが窓から注ぐ。
昼食後にコーヒーを飲まなかったからか則幸はベッドに倒れ込むようにして眠った。
朝の夢と違い、暗闇の中にいる。
走りまわっても暗いままで、焦り始めた。
なぜか頭痛がして、目を覚ました。
「イッテェ…」
夢から覚めても、頭痛は変わらない、むしろ余計に痛む。
何か声が聞こえたような気がしたが、頭の痛さで吐き気が起きてトイレに突っ走った。
身体が重い。
便座の横にへたり込んで、壁にすがるように膝立ちすると手洗いで口をすすいだ。
いつ以来か、こんな吐き気は。
ゆっくり壁に手を付けながら部屋に戻る。
病院に行ったほうがいいかもしれないと思いながら、ベッドに横たわる。
また声がしていた。
寝返りを打ち、声の方を向くと枕の上に何かいた。
「うわわぁぁぁ!」
則幸は叫び声をあげて、起き上がるとベッドから落ちた。
「もしもし、だいじょうぶかな?」
ノイズが入ったような高い声だ。
おそる、おそる則幸はベッドの上を見ると、枕の上に小さな人が立っている。
「頭痛いのは、後2-3時間の辛抱だから頑張ってね。」
どう見てもスーツ姿の中年オヤジだ。
身長の高さは8センチ程度で、頭が大きくて5頭身。
「則幸くんの頭の中と会話できるようにチャンネルみたいなの作ってるから痛むんだよ。
ごめんね。」
則幸は頭が痛いのと、吐いた後の気持ち悪さと、不可解なモノを見ているのとで、苦い薬を口に入れられ続けているような顔をしていた。
「ほら、ベッドに戻って、寝てたほうがいいから。」
頭の痛みでグラグラしていた。
ベッドのマットレスにしがみつくようにして、則幸はベッドの上に転がると、身体を縮めた。
「もうひと眠りして、起きたら痛みはなくなるよ。」
語尾を聞き取る前に意識を失った。