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カーテンから漏れる光は朝の明るさだ。
5月のゴールデンウィークが終わり、1週間ほど経過している。
漏れた光が、空中にただようホコリ照らし、ゆっくり舞う中で、部屋の主は寝返りをうった。
心地良く眠りながら夢を見ている。
明るい暖かな日差しの中を誰かを追いかけて、息をはずませ走っている。
「まって、ねぇまってよ。」
楽しくてしかたない。
どこかの場所に行く途中で─────
坂下則幸は高校1年。
4月半ばで学校に通わなくなった。
父親に説教され、母親に口やかましく言われ、部屋に引きこもりつつある。
深夜にコンビニに行くのだから、本人は引きこもってるとは思っていない。
うっすら目を開けて、目覚まし時計を見てしまう。
夏休みでも冬休みでもなく、駄眠をむさぼる事に罪悪感がないと言えば嘘だろう。
玄関を開け閉めする金属音が聞こえて、母親の幸代がパートに出かけたと知る。
時間は7時45分。
大急ぎで身支度を整えれば、学校に間に合わない事はない。
だが、しばらくぶりに登校した生徒に教師は何と言うのだろう。
それよりクラスの同級生の顔は、目は。
則幸は
「うっぜ。」
誰にともなく吐き捨てるとベッドから、のそりと起き上がり、トイレに向かった。
どんな時でも、生理現象は起きるし、腹は減る。
好きなように生きるとしても、一日中寝ていられる訳ではない事を則幸は知った。
眠くないのに、特にする事もないからと寝てしまうと、かえって体調を崩す。
それで母親が出かけたのを見計らって、食事は規則正しく摂るようにした。
多少遅い時間でも放送しつづける朝のニュースバラエティを見ながら、トーストをかじる。
最近は何かを考えるとしても、周囲の人については頭の中に都合良くぶ厚い壁が形作られる。
親は味方ではない。
友達も役には立たない。
そもそも友達と呼べる誰かもいない。
だから、誰も頼れない。
時間だけ早く過ぎてくれればいいと思っている。
何日なのか、または何年か経って、何かをするという目的があるからではない。
今という状態から逃げて、どうにかなるのなら、そのほうが良さげ、それだけだ。
だから、目下の関心は夢の中で、誰を追いかけて走っていたのか、だ。
ニュースのキャスターの関心事は、なぜ殺されなければならないのか、だった。
則幸は思う。
それを知って、どうなるって言うんだよ。
死んだら終わりなんだろう?
つーか終われて、その人すげー楽じゃん。
俺もサッサと死んだほうが…
はちみつをかけたトーストの上に涙がこぼれる。
死に急ぐのを望む度、涙が出て、この思考は終わる。
まるで誰かに、咎められているような気持ちになって、マグカップの苦いコーヒーを喉に流し込んだ。